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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十二章 アアルルノルド帝国の内乱
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ep275 英雄の出陣

ep275 英雄の出陣





 サリアニア侯爵姫は後方に待機を命ぜられても落ち着かぬ様子だ。シドニア山脈を越えて進軍する後詰の部隊も輜重隊も狭い山道に隊列を成すばかりだ。オストワルド伯爵が率いる本隊も街道の出口付近に居座る山賊団を殲滅するために攻城戦に加勢している。


後続の部隊は隊列も長く伸びて足止めに、そのまま昼食の休憩へ入った。先陣では剣鉾を交えて戦闘が行われていると言うのに呑気な者である。サリアニア侯爵姫が苛立つのも無理はないが、ここから先陣へ駆け付けるのも無理というものだ。


「お嬢様。お食事の時間です」


戦闘用の女中(メイド)服を着てもスーンシアの日常業務に変わりは無い。サリアニアお嬢様の健康管理も女中(メイド)の務めだ。


「うーむ……肉が良いの。野菜は遠慮するわ」

「お嬢様。子供の様な言い訳は見苦しいですわよ」


サリアニアの不機嫌は別の所にあったが、敢えて話題に触れないのも家臣の心使いだ。


「して、婿殿への書簡は届いたかのぉ」

「騎兵の伝令と、鳥文(とりふみ)に託した物、いずれかが届く物と思います」


この時代に手紙は確実に届く物では無い。商業ギルドの行商人へ託しても何日かかるか分からないのだ。ましてや、手紙を託した行商人が山賊団に襲われる危険もある。


サリアニア侯爵姫はタルタドフに帰還したと言う領主マキトの元へ援軍要請の書簡を送った。それ程にオストワルド伯爵の軍勢の旗色は悪かろうと思う。




◆◇◇◆◇




村長のご子息が誕生したとの話題は開拓村(マキト・タルタドフ)に駆け廻り、準備も万端な祭りが開催された。村人たちは、わざわざに村の春祭りも延期して待ちわびていたとの事情だった。


祭りの気配を察知してか魔獣グリフォン姿のファガンヌが帰還した。祝いの品として大型の牛に似た魔物を持参している。


「GUUQ クロホメロスも 早よう大きく成れよッ」

「!…」


金赤毛の獣人ファガンヌにしてみれば、伝説の村長マキトも子供の扱いだ。そのマキトはファガンヌが好物の串焼きと香辛料の味付けに大忙しの様子である。


開拓村(マキト・タルタドフ)の春祭りは延期に延期を重ねて開催されたが、近隣の開拓村からも祝いの客が押し寄せて大賑わいとなった。


「村長どん、西の村からの祝いの品じゃ」

「…河トロルの使いからも、鯛魚の差し入れが届いておるぞッ」

「…ほうほう、これは水の神殿から…」


マキトも村長と父親の立場で、主要なお客に挨拶をしつつ喜びに沸く。


………


そんな、タルタドフの開拓村(マキト・タルタドフ)に皇帝陛下からの招集命令が届いた。マキト・クロホメロス男爵もグリフォンの英雄として参陣する義務がある。


ここ数日は研究室と実験場でゴーレム製作に余暇を楽しんだ。試作のゴーレム一号機はA型と呼称し、小型の弩弓を装備して弓兵の支援機だ。タルタドフの領地の防衛に活躍してくれるだろう。


「グガガガカ、目標捕捉 狙撃シマス#」


タタタと放たれた石弓は三連射で獲物を仕留めた。試作ゴーレムA型の射撃は正確で放物線の弾道計算も得意である。マキトは精霊石との意志疎通の為に被膜を張ったスピーカーを製作して振動装置も内蔵した。精霊石に発声と音声認識を教育したのは岩塊の幼女型ゴーレムの手柄だ。


「いい具合だ。アッコ準備は出来たかッ」

「まったく幼女ゴーレム使いがッ、過重労働にしても訴えてやるわ…」


ぶつぶつと文句を述べるガイアっ()は準備も万端で作業台から飛び降りた。作業台の上には巨人の拳骨を模した岩が乗せられている。ゴーレムの装備としても巨大過ぎる(こぶし)だろう。


「ようし。開けッ」


プシュッと気圧が漏れる様な音を立てて巨人の拳骨が開いた。中には試作ゴーレムB型が収められている。


「ウウウンフ、起動シマシタ#」


試作ゴーレムB型は足腰も逞しく巨人の拳骨から装備品を取り出して身に付けた。それは拳闘スタイルの格闘兵だ。模擬戦に用意した鉄鎧の案山子(カカシ)を粉砕する。


「ほおぉ、予想通りの破壊力ぅ!」

「さて、残るこやつは、駄々っ子じゃのぉ…」


ガイアっ()が言う駄々っ子はL型と呼称し何度も試作を繰り返した突撃兵だ。長身の体形に反して中身の剛性は高い。ガコンと歯車が接続する音をさせてギアが入った。試作ゴーレムL型は加速から大岩に衝突して真っ二つに大岩をかち割る。


「遂に、成功だ!」

「くううっ、ワレらの娘たちの晴れ舞台よのぉ…」


人並みに泣き真似をするアッコの様子も鬱陶しいが、苦労して生まれたL型の性能試験の成功は喜ばしいものだ。


これを持って、グリフォンの英雄マキト・クロホメロス男爵は出陣する。




◆◇◇◆◇




帝国南部の都市ザクレフの場外に終結した軍勢が帝都の奪還を目指して発進した。先陣は名誉あるザクレフの騎士団と民兵を徴用して隊列をなし、右翼には赤黒緑の三色旗を掲げる古き武門のジャンドル家の軍勢が見える。それに比べ左翼はやや遅れて出発する緑黒白の三色旗は古き武門のドラントラン家の軍勢であろう。紋章官に尋ねるまでもなく両者は名門の家名でそれに従う親派も多いのだ。


権勢を背負う帝国軍にしても地方領主の軍勢を集めては軍の再編成も間々成らず、元からの血縁や地縁に基づく軍団編成となる。その上で有名な武門の家名は軍団の旗印としては重用されるのだ。アアルルノルド帝国の皇帝アレクサンドル三世は密かな溜め息をついた。


「ふん。勝っても負けても戦後の処理は面倒であるなッ…」


帝国の南部平原は豊かな穀倉地帯でもあるが、こうも軍勢に踏み荒らされては春の収穫にも多大な影響があるだろう。今年の税収には期待が出来ない。その上に帝都の奪還へ功績のあった諸将に対しても恩賞を与えねば成らないのだ。財政面では頭の痛い話である。


「皇帝陛下。悪い知らせが」


「宸襟をお騒がせ奉り、誠に申し訳なき仕儀にて…」


遠く古都アルノルドから駆け付けた貴族はシュペルタン侯爵家からの使者であり、シュペルタン侯爵軍が帝都の大橋で奮戦する様子を伝えたが、赫々たる戦果は無かった。それにも増して配下の諸将の参集も遅れている様子に平伏する使者の姿も見苦しい。


「よい。下がれ……侯爵殿の奮戦に期待しておるぞッ」

「御意。敵に目に物を言わせて見せまする」


使者の威勢などは無視して会談を打ち切った。シュペルタン侯爵家の援軍は期待できない。





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