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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十二章 アアルルノルド帝国の内乱
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ep273 シュペルタン侯爵家の戦い

ep273 シュペルタン侯爵家の戦い





 帝都の異変を察知したシュペルタン侯爵家は急遽に古都アルノルドの守備兵を主体とした軍勢を起こした。侯爵家の所領に住まう家臣団と退役軍人にも非常招集をして総力戦の構えだ。


古都アルノルドの居城を先発した先遣隊は帝都の西を流れるナダル河の大橋で漆黒の軍勢に遭遇した。この橋を越えれば帝都への入場も叶うという至近の距離だ。その大橋には異形の騎兵隊が待ち受けている。


異形の騎兵隊は大橋の前面に陣取り、黒備えの甲冑は当然の事として燃える様な黒煙を上げる軍馬に騎乗する武者は恐ろしい手練れと思える。あの軍馬が魔物であれば、騎乗する武者は魔人か。


シュペルタン侯爵家の先遣隊は漆黒の武者の威圧に気圧されて手出しを控えた。


「ええい。あの黒武者を討ち取る者は無いかッ!」

「………」


先陣駆けに突撃してひと当てに実力を試そうという剛の者は現れなかった。それは怯えか消極的な指令は先遣隊の士気を挫くのに十分である。


「拙者が槍の一突きに葬って見せようぞッ」

「「 おおぉぉぉ! 」」


名乗り出たのは槍の名手としても名高い男爵家の二男坊で、名を何と言ったか帝都の武闘大会で見た顔だ。先遣隊の士気も上がるか。


ぱっぱかと蹄を轟かせて騎兵が大橋へ突撃した。漆黒の武者は敵軍の大将と見えて微動だにしなかったが、配下の騎兵が進み出て駆け出した。先方は部下に一騎打ちを任せるらしい。


黒の騎兵(部下)と男爵家の二男坊が激突すると、槍は漆黒の兜をもぎ取った!


「やぁや、我こそは、ロンゲスト家のジロンマルなり!」


槍を掲げて勝利を宣言するのは先遣隊のジロンマル・ロンゲスト男爵子だ。穂先に漆黒の兜が揺れる。


しかし、首を失った黒騎兵は倒れる事もなく…騎首を返すと背後からジロンマルへ突きかかった。


「ぐわっ!」


「…何だぁ、どうなったぁ?」

「…ひいぃ~ 卑怯なっ!」

「…嘘だろッ…」


逆撃にロンゲスト男爵子が討ち取られた。首無しでも平気だとは魔人の驚異には恐れ入る。すぐさまに、その恐怖は先遣隊へ伝播した。


シュペルタン侯爵家の軍勢は仇討ちへ身動きも出来ず、陣を構えるのみで沈黙した。


こうして帝都の大橋の戦いは始まった。




◆◇◇◆◇




シュペルタン侯爵家の配下としての役割がベイマルクの領主ラドルコフ家にもあった。戦となれば、ラドルコフ家の当主は水龍の英雄として先陣へ駆け付ける事を求められる。その命令は領主代行のエメイリア・ラドルコフ伯爵令嬢の元にも届いた。早急に出仕しなくては忠義を疑われる。


それにしても、ラドルコフ家の管理下にあった水龍トールサウルは未だに統御も出来ていない。歴代の習わしでは当主となる男子が水龍トールサウルへ騎乗するのだ。エメイリア伯爵令嬢には無理な注文に、ひと度は廃嫡とした息子ケルビン・ラドルコフに依頼せざるを得ない。


「ケルビンは捕えたの?」

「はい。それが…」


ラドルコフ家の領内で捨扶持を支給されて細々と暮らしていたケルビン・ラドルコフを使い、ナーム湖に棲む水龍トールサウルの下へ派遣したが(あるじ)としては認められなかった。それは本人の実力不足か。


「ええい。何とか出来ないのッ?」

「水龍は岩の如く動きません。今から代理の者を探すとなると…」


先陣へ水龍を派兵も出来ないとなれば、英雄の資質を疑われてお家の断絶もありうる。


ラドルコフ家は存亡の危機にあった。




◆◇◇◆◇




メルティナ奥様の陣痛が始まって治療院から医療チームと産婆さんがタルタドフの屋敷へ派遣された。男手は不要と申し渡されてマキトは途方に暮れる。


屋敷では女中(メイド)も総動員しての大騒ぎであったが、河トロルの戦士リドナスは得意の治療魔法も期待されずに「お産には巣穴の準備が必要デス♪」と言って姿を消した。マキトにも河トロルの習性は謎が多い。


落ち着く場所も無いマキトは独りで研究室へ籠った。ただ時間と結果を待つ事も出来ずに作業へ没頭するのだ。


「やはり、美少女の体型がッ…【形成】【研磨】」


マキトは粘土を捏ねて形成し磨きを掛けた。それは岩塊の幼女ゴーレムであるガイアっ()をモデルにした汎用ゴーレムを目指している。助手にしたガイアっ()が何やら呟く。


「人族が新たな人族を生み出すのも、自然の成り行きにして…」

「ただ待つのも辛いのさ…【回路】【接続】」


ただの土塊に土の精霊石を埋め込み制御回路を接続する。それはゲフルノルドのゴーレム技術を参考にしても、マキトは独自の改良で人型の神経回路に近付けている。


「ほほう、これは中々の出来じゃ…して、生まれる赤子の名前は何とするかの?」

「この春に生まれる男子ならば、ハルオ、ハルキ、ハルトとか…」


意外な事に岩塊の幼女ガイアっ()が名付けに興味を示した。


「ふむッ」

「女の子なら、ハルミ、ハナコ、いや。領主の娘ならお嬢様風にフラウ、フレイんっ、フローリアとか…」


そんな雑談をしていると、試作機の美少女型ゴーレムが起動した。


「…グガガガカッ…」

「よしよし。こやつとワレの愛の結晶じゃ」


誤解を恐れずに言えば、この試作機はマキトとアッコの共同制作で心臓部の精霊石はアッコが提供した物だ。確かに生みの親と言える。


「アッコ! 今、何とッ?!」

「生まれたばかりでは、精霊石もただ泣き叫ぶのみよのぉ」


試作機には発声器官も無いので、アッコが精霊的な感応能力か念話の様な方法で精霊石の感情を読み取る。


そんな研究とゴーレム製作に没頭していると明け方にマキトの息子が生まれた。屋敷中に鳴り響く元気な産声に女中(メイド)部隊も家臣の一同も安堵した。


「メルティナ! よくやった」

「あなたッ…」


日の出も近いが出産に使われた寝室へ入るとマキトは母子に対面した。赤子はまったくサルの様に真っ赤な顔をして黒髪のみがマキトに似ている。


男子だと言うのでマキトは「ハルト」の名を提案したが、メルティナ奥様にあっさり却下されて「レオンハルト」の名前を授けた。


レオンハルト・クロホメロスの誕生である。




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