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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十二章 アアルルノルド帝国の内乱
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ep268 獄門島からの救出作戦

ep268 獄門島からの救出作戦





 クリストファ神父は光神教会の元司祭でマキトの魔法を鍛えた師匠でもある。その恩師は偶像崇拝の罪でアアルルノルド帝国の憲兵に捕まり獄門島へ収監された。光神教会は帝国の領内では迫害されているのだ。


ズーラン親方が緑色の顔をマキトに寄せて言う。


「ジジイの救出に獄門島へ乗り込む手筈を整えた……名誉司祭様にゃ荷が重いかッ?」

「も、勿論。協力しよう!」


マキトには迷いがあった。恩師の救出作戦とはいえアアルルノルド帝国への反逆罪に問われる事案だ。


「シッ!声がでけぇよ……明朝の日の出にぁ出発だ。遅れるなよッ」

「…」


そう言い残すとズーラン親方は祭りの人混みに姿を消した。


………


マキトは取り急ぎに皇帝の特使として西方の視察に関する報告書をまとめて女中(メイド)姿のオーロラへ託した。工房都市ミナンから街道沿いに進めば、帝国領の古都アルノルドも近い。オーロラは領内への帰還と同時にシュペルタン侯爵家の女中(メイド)として職場へ復帰するだろう。


遠征の移動手段として酷使した移動小屋はミナンの森へ停泊して本格的な整備を依頼した。工房都市ならではの職人気質で整備をしてくれると思う。獣人の戦士バオウと風の魔法使いシシリアには特使の護衛としての報酬を渡したが、近隣の迷宮で冒険者としての稼ぎを始めるらしい。


鬼人の少女ギンナと魔獣ガルムのコロはミナンの鉱山でギンナのお弁当(鉱石)を補給した後に、タルタドフの領地へ帰還する様に言い付けた。帰参の途中で故郷の村へ立ち寄るのも良かろう。河トロルの戦士リドナスはマキトの護衛として離れる事を最後まで拒んでいたが、水の神官アマリエさんへの伝言を頼むと渋々に引き受けた。


ここからは別行動となる。




◆◇◇◆◇




 朝霧の中、ウエェィの港から漁船が出航する。それは漁船には珍しく食糧や日用品を満載して商船の代わりに積荷を乗せている。この辺りの海は氷結海と呼ばれて、冬季は流氷が押し寄せ海面は氷に覆い尽くされる。その氷結海も春季に近付くと北方からの季節風が弱まって次第に流氷も海岸を離れるのだ。


漁船は溶け始めた流氷の間を抜けて沖合に浮かぶ孤島を目指した。孤島は獄門島と呼ばれてアアルルノルド帝国の囚人を収監する監獄として利用されている。この船は獄門島への補給品を乗せているのだ。漁船の荷役夫とみえる顔色の悪い男がマキトに話しかけた。


「あれが、獄門島だ。…荷下ろしに紛れて潜入する」

「…」


出港の前に何度も確認した手筈をマキトは思い出した。既に漁船の船長はズーラン親方が買収しており、彼らが荷役夫として紛れていても承知の筈だ。あとは他の船員に気付かれない様に姿を消すのみ。…緊張に神経も高まる。


「おい、新入りッ海は初めてかぁ?」

「うっぷ、大丈夫です…」


マキトは小舟の揺れに動揺していた。面倒見の良さそうな船員の言葉も今は邪魔に思う。


「へぃ。こいつぁ、あっしが面倒を見ますんで…」

「ふむっ。よかっかぁ~」


あまり目立つ行動は控えたい。


獄門島に漁船が接岸すると二人は荷下ろしの作業に紛れて姿を消した。救出作戦の始まりだ。


………


潜入した裏通りでマキトはズーラン親方に尋ねた。


「親方の相棒はどうしたんですか?」

「あん。チッピィは、本人に春が来たッと抜かしてぇ…妖精の森へ行ったきりよぉ…」


ズーラン親方の愚痴に付き合うと、魔道具店の小僧チッピィは妖精族のご令嬢にお熱の様で、この時期に舞い上がったらしい。かの妖精族にも事情があるのだろう。お相手はどんな美人の妖精族か。


「むっ!」

「…無駄話は、これまでだ…」


牢獄の看守と見える兵士が巡回する場所に入った。囚人の警戒区域なのだろう。獄門島には唯一の出入り口に船着き場と資材の搬入路があり、島内は城壁を巡らせた絶海の孤島だ。


島の職員や看守と兵士が暮らす場所と、僅かな商店に酒場などの娯楽施設がある。この規模では島内の殆んどは顔見知りの関係者ばかりとも考えられる。不審者が目撃されると即お縄とされよう。


「俺はジジィを探す。お前は脱出の準備をしてくれッ」

「分かった。手筈の通りに…」


事前の計画ではズーラン親方が得た情報でクリストファ神父が収監された牢獄は判明している。その情報が正しければ、牢獄を強襲して連れ出せるだろう。内部の警戒はそれほど厳しいとは見えない。


マキトは看守の目を逃れて船着き場とは反対側の海岸線に出た。そこは城壁の下部の岩場に隠れても干潮時には僅かな砂浜が出現すると言う。丁度よい時期を見てマキトは濡れた浜辺に出た。昼下がりの太陽も春先には寒々として見える。


「さて、準備しますかねぇ…【軟泥】【形成】」


得意の加工魔法で砂浜を掘り泥船を形成した。波に攫われても溶け崩れそうな砂の彫刻か。


「のり糊にしてッ【注入】【塗装】」


マキトは何やら荷物から取り出した粘液質の塗料を船体に撒いて伸ばし始めた。砂の表面がテカテカのつるつるに光る。


「仕上げには…【硬化】【防水】」


なるほど、と感心する観客も無くてマキトは独り作業を続けた。大人が三人と乗っても沈まない程度の小舟が必要なのだ。


「ふむ。良いだろうてッ【速乾】【焼成】」


このまま天日干しでも良いのだけど、緊急事態に備えて仕事は手早く終わらせる。


-BOMF DOGOM BOMF-


監獄の方で派手な煙が噴出した。あれは、魔道具店の小僧チッピィが製作した煙玉だろう。煙の噴出と成分が良く似ている。


-BOMF BOMF-


船着き場の方でも爆炎が上がった。派手な見た目に反して爆発の威力は少ない。それはマキトが提案した時限式の仕掛けだ。騒ぎを起こして船着き場へ看守の注目を集めたい。


「小僧ッ。ずらかるぞ!」

「…はうはう…」


緑色の顔をしたズーラン親方が、頭陀袋の様な荷物を背負って逃げて来た。救出作戦は成功したのか不明だ。


「早くッ、船を出せ!」

「おぅ!」


彼らは泥船を押して波間へ漕ぎ出した。進水式も間々成らぬ船出に泥船が崩壊するかと思えたが、マキトが製作した泥船は氷結海の荒波に耐えた。


「…ぜえ、はぁ、はぁ…」


「ジジィ!無事か?」

「…まったく、無茶をしおるわぃ……ゴホッ、ゴホゴホ…」


頭陀袋を開いて顔を出したのは、年老いたクリストファ神父であった。酷く顔色も悪くてやつれているが本物だ!


「師匠ッ!」

「…ゴホッ、マキトか…」


感動の再開もそこそこに、マキトは手漕ぎの小舟を駆る。ズーラン親方はしきりに追手を気にしていたが、船着き場の爆炎が再び上がると安堵したらしい。


こうして、彼らはクリストファ神父の救出作戦に成功した。





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