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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十一章 コボンの地に迷宮は陥落する
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ep265 コボンの地に棲む者たちへ

ep265 コボンの地に棲む者たちへ





 コボンの地は迷宮(ダンジョン)を中心地とした迷宮村から発展し、今では東西南北に行政区を置くそれなりの都市だ。各国の西端に位置し、ここより北も西も氷の世界と呼ばれる極寒の土地である。そんな極寒の厳しい自然に取り囲まれた環境にオアシスの如く資源が湧き出す迷宮(ダンジョン)があった。迷宮(ダンジョン)の周囲は湧き出す蒸気に熱せられて農作物の栽培も可能な程度には温暖が保たれている。


しかし、この楽園を独占しようと企む者も多い。過去には迷宮(ダンジョン)の魔物や開拓民や周辺国家も土俗も巻き込んで土地と利権の争奪戦があった。最近では大規模な盗賊団の襲撃が目立つ事件だろう。コボンの地の領主は先代が急死して代替わりをした為に、若くて聡明な息子カルバルテが継承していた。その影響か離反や謀反をする家臣も多くて、家臣の統率や領地の統治にも苦労しているらしい。


「…あれが、新しい領主様だぜッ」

「…カルバルテ様は、先代様に似て凛々しいお姿よ」

「…きゃっ! 美男子ッ…独身かしら」


盗賊団を討伐した領主軍がコボンの町へ帰還した。軍勢の先頭には赤備えの騎兵に護衛された若き領主カルバルテの姿がある。領主の館は盗賊団に焼き討ちされて損傷していたが、こうして領主の健在を町の住民へ見せるのも領主の務めだ。


「コボンの町に住まう者たちよッ。我がフンメルの家名に賭けてこの町を守り通して見せようぞ!」

「「「 おおおぉう !! 」」」


騎士団が勝ち鬨の声を上げた。領主カルバルテ・フンメル伯爵子による勝利宣言がなされたのだ。


それは町の住民たちに内乱の終結を告げる。


………


コボンの町は平穏を取り戻し日常の風景が見られる様になった。女中(メイド)姿のオーロラは市場への買い出しの序に情報収集を行った。彼女は夜間にも諜報員として活躍する働き者だ。


「おんや、お嬢さん。領主様の所の新しい女中(メイド)かね?」

「はい。ご贔屓に…」


店主の女将(おかみ)はオーロラの女中(メイド)服を認めた。


「止しておくれッ、あたしの様な場末の店には相応しく無いさぁ」

「いいえ。女将(おかみ)さんの店の野菜は新鮮で美味しい物ですから」


新入り女中(メイド)の褒め言葉には、満更でもない様子だ。


「はっはぁ、あんた良い目利きだねぇ」

「それ程では、おほほ…」


オーロラの演技も中々のものだ。話好きの店主を見付けては情報収集を行うのだ。


コボンの町は盗賊団に荒らされて被害も多かったが、その直後に迷宮(ダンジョン)から噴出した金塊を違法に取得した者たちのお蔭で景気は良いらしい。何人かの御大尽は検挙されるか町の追剥に遭うか不幸な事故も尽きない。


領主の館の修復も進んでおり建築に雇われた職人の懐も温かい様子だ。さらに新しい領主様は町の防衛に活躍した自警団にも恩賞を与えて大判振る舞いらしい。その資金がどこから来るのか、町の税収も豊富に思える。


………


探掘者ギルドではギルド長のボルテモア老公が不在でも通常業務が再開された。それぞれの自警団へ参加していた探掘者も日常業務へ復帰して迷宮(ダンジョン)の資源を探掘するのだ。


獣人の戦士バオウと風の魔法使いシシリアは以前にコボンの大迷宮で失踪し死亡者の扱いであったが、新たに探掘者ギルドへ登録して最下級の探掘者となった。勿論に行方不明のマキトたちを捜索する為だ。


「GUU 手間をかけさせるぜッ」

「あんたは、何もしていないでしょ!」


「Wowou!」


子連れの探掘者とは珍しい。獣人の子供であれば身体能力も格段に発達して戦闘からの離脱も容易だろうか。


「もし、バオウの旦那に、シシリアの姉さんではッ?」

「GFU 情報屋のドミノかッ」


元は金級の探掘者である二人は顔も名前も売れていた。胡散臭い顔の男が囁く。


「…いい情報があるんですケド、喉が渇いていると話しづらいですねぇ」

「GHA ッ!」


それはバオウも望む所だ。近くの酒場で一杯、麦酒(エール)でも飲みながら話そうか。奥様のシシリアは困り顔でも嫌では無いらしい。むしろ嬉々として昼間から酒場へ入った。


町の酒場も通常営業で獣人の子供の同伴も気にはしない様子だ。既に子供用の水も配膳されて酒の肴にも不足は無いのだ。


「あんたら二人も大概だが、迷宮(ダンジョン)に幽霊が出るって噂ですぜッ」

「GUU 詳しく聞こうか…」


情報屋ドミノの語る噂話は、先年の迷宮(ダンジョン)討伐戦に死亡した者たちが亡霊となって迷宮(ダンジョン)を彷徨うと言うものだ。いくつかの目撃証言と出没場所も情報として提供された。


「あたし達の様に、生き残りが居るのかしら?」

「GFU その予想が、確かなら…」


目撃情報には幼女ゴーレム使いの話もあった。それはマキトの事だろうと思う。




◆◇◇◆◇




コボンの大迷宮の最深部と見える部屋で独りの老人が悶える。


「ぐぬぬ。この不快感には慣れぬッ」


迷宮(ダンジョン)に侵入者があると頭上に羽虫が飛ぶような不快感がする。それでも迷宮(ダンジョン)の罠を使い羽虫を叩き潰すと快感に変わるのだが、当初から迷宮(ダンジョン)の外縁部を這い廻るしぶとい蝿が気になるのだ。


しぶとい蝿は迷宮(ダンジョン)の罠を掻い潜り、中心部に到達した後に再び外縁部をウロチョウしている。


「フレディ。ジョン。行けッ」


-FUNGAA-


-GAWOWOO-


金ぴかのゴーレムがしぶとい蝿を追って発進した。その者はギルド長の元部下でも、知能は足りないが迷宮(ダンジョン)(ぬし)の誘導に従う忠実な手駒だ。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ、挟み討ちにしてくれようぞッ」


探掘者ギルドの長ボルテモアは老獪な人物であったが、迷宮(ダンジョン)(ぬし)に就任してから奇怪に変貌している。その容貌は最早に人では無くて、体の一部は金塊で作られたミイラに見えた。


「コボンの地に棲む者たちへ。(ワシ)の存在に恐怖せよッ!」


ここに、新たな迷宮(ダンジョン)(ぬし)が誕生したのである。





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