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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十一章 コボンの地に迷宮は陥落する
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ep259 大人の事情ですかね

ep259 大人の事情ですかね





 茨森では歓迎の宴が催された。軍勢を指揮する雪の女王との和解が成立しても命令伝達には遅延があるらしく、未だに雪の先兵の突撃と自爆攻撃は続いている。その証拠に北の森では爆発音と飛び散る肉片に血漿の匂いも混じるのだ。


それでも茨森の北辺を守る狼たちは奮戦している様子で、魔獣グリフォン姿のファガンヌの加勢もあった。


「狼たちは、どうした?」

「GUUQ 迎撃に手間取る事はあるまい」


防衛戦から帰還した金赤毛の獣人ファガンヌは、雪の軍勢を狩るのも軽い運動だと言う。


「なら、ひと休みしてくれッ」

「GUUQ 酒の用意は あるかノ」


金赤毛の獣人ファガンヌが要望するのに、接待係の妖精が応えた。


「勿論でございますよ!」


茨森の地酒だろうか。それは果実を漬けた樽と見えて甘酸っぱい香りと強い酒精を感じた。大酒呑みは接待係へ任せてしまおう。


「それにしても、ソアラ様。よく敵の大将と連絡が取れましたねぇ」

「おほほ、昨年の冬の到来から、雪の軍勢の動向は追っていましたので……私の配下の手柄ですわ」


控えめに見ても茨森のぬしソアラフレイユのドヤ顔は隠せない。これは長い話になりそうだ。外見だけなら美人の妖精族なのだが、年寄りの所為か話を始めると非常に長いのだ。


人族の大使マキトは適度に相槌を打ちながら今後の方策を考える。歓迎の宴に足止めされている間にも下界の情報がマキトの元へ齎されたのだ。情報によると北のバクタノルドと南のゲフルノルドの国境紛争は攻守が逆転し北軍が優勢らしい。この大寒波と吹雪の中で南軍の前線指揮官が相次ぎに討ち取られたと言う噂がある。これは早々に北からの難民が南部のゲフルノルドへ流入すると予想された。


それに国境門の入国審査でも解答をせず、沈黙する西方の国イグスノルドは既に王権も破綻したのではないかと噂された。凄腕の商人も冬季に西方の国イグスノルドへ向かうのは断念するのが常識で、西方の有力情報は少ない。


「…と言う訳で、雪の女王とは和解が成立したのですわッ」

「なるほど!」


マキトは貴族的な振る舞いをしつつも、今後の方策に頭を悩ませるのだ。




◆◇◇◆◇




 北の馬上王トルキスタが率いる騎馬兵は戦乱に勢いを取り戻した。暗殺者エト・ラータが南侮(なんぶ)の豚の頭目を始末すると混乱に乗じて戦線を押し上げたのだ。いまや、北軍は南侮(なんぶ)の豚を圧倒する勢いである。


仕事を終えたエト様は雪山に立てた潜伏拠点で暇を持て余している。粗末な小屋で煙草を噴かすのは何時もの事だわ。私はエト様の手下として護衛として側に仕える事を光栄に思う。


「エト様。馬上王から追加の報酬と依頼が届いていますが…」

「俺の仕事は終わった。…シズカ。相手をせいッ」


「はい♪」


ご指名に胸が高鳴るのは女の性か。小屋に充満する煙は幻惑の効果もありそうに感じる。


「ふむ。今日の趣向は縄抜けの術だ。心して掛かれよッ」

「はっ!」


私はエト様の柔肌に荒縄を掛けて強烈に戒める。手抜き仕事は最も恥ずべき事とされているのだ。


「くふっ、シズカも遣りおる……」

「お褒め頂き、有難うございますッ」


きつく縛った荒縄に流石のエト様も息を詰まらせたかと思うと、このまま蹂躙したい野望が心を騒がせた。


「くはぁッ」

「!」


エト様の甘い吐息に私の理性が溶けると、荒縄を解いたエト様が私を捕えた。…いつの間に抜け出したのか、その縄抜けの妙技も一瞬の早業だ。


「シズカ。今度はお前の番だ。見事に抜け出して見せよッ」

「は、はぁ、はぁ…」


既にエト様の術中か、私は荒い吐息を繰り返すばかりに、身悶えするとも荒縄が肢体に食い込むっ。


「ほぅれ、早く抜け出さねば、責め立てるぞッ」

「あぁんっ、そんな所を……」


ぐいと荒縄を引くエト様の手付きは猛獣使いの様に力強くて私の姿勢を危うくする。


「くふっふふふ、この縄から抜け出たならば、褒美を取らすぞッ」

「はぁ、ふんっ…」


訓練と称して配下の者を嬲るのはエト様の性癖だ。上機嫌に笑う間も攻めには手加減も無い。ぐいぐいと押し迫る荒縄に私は逃げ場を失う。


「どうした、降参か?」

「くっ…」


秘所に荒縄が食い込み全身の肉がキリキリと締め上げられて痕跡を残す。ついに私は失神して意識を無くした。


心配せずともエト様は配下の失態にも優しいお方だ。




◆◇◇◆◇




 茨森の歓迎の宴は三日と三晩に渡り続いた。妖精族の踊りや狼男の格闘技に幻影魔法の披露など客人の歓待に戦意高揚を兼ねているのか戦利品の披露もあった。その中には鹵獲した雪兎の肉や、魔物の蟻の氷漬けが展示されている。


「これは、珍しい。魔蟻の様ですが……」

「秋口から茨の森へ侵入するものを捕えたものです」


魔蟻の氷漬けは標本だろうか、献上した狼男は自慢げに言う。


「ソアラ様の滋養に貢献を致しますッ」

「ふむ。良かろう」


魔物の蟻を喰らうと言うのか、茨森のぬしソアラフレイユは微笑んで狼男の武勲を称えた。


「渡り鳥の肉を献上いたします」

「ふむ。上々である」


渡り鳥と見えるのは鴨肉だろうか、越冬のために脂肪を蓄えた肉は上質と見えた。戦果の披露もあり誰が何頭の敵を屠ったと自慢話も続くが、マキトはそれよりも気になる案件へ目を向けた。


「ソアラ様。私が料理の腕を披露いたしましょう」

「特使殿が自らとはッ……」


茨森のぬしソアラフレイユが配慮するのも振り切って、マキトは新鮮な鴨肉の調理に取り掛かった。適当な香辛料の焼き物と香草の煮物を仕込んだ。野生の味は手間を掛けずとも最高の品質だと思う。


調理の合間に魔蟻の氷漬けを観察したが、土の精霊石の痕跡は無かった。標本を献上した狼男に尋ねると魔物の蟻を討伐した壮大な話へ導かれる。彼が主人公となる英雄譚に見切りを付けてマキトは料理を仕上げた。


「ソアラフレイユ様へこの料理を献上いたします」

「良き哉」


「「 ほおぉぉ~ 」」


ソアラ様のお褒めの御言葉に会場がどよめくのは普通か。マキトは茨森の仕来(しきた)りも十分には理解していないが、料理の評価は悪くない様子だ。




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