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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十一章 コボンの地に迷宮は陥落する
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ep258 西方に入国規制あり

ep258 西方に入国規制あり





 ゲフルノルドの南回廊へ移動小屋を走らせたマキトたち一行は積雪も苦にせず西の国境門へ到達した。この先は西方の国イグスノルドの領土であり、アアルルノルド帝国とは伝統的な友好国として親善使節の交流もある。


入国を申請して数日は経過したが、未だに国境門を通過する入国許可を得られない。それは皇帝の特使としても異例な事態であり、イグスノルドの対応の如何では国際問題となるだろう。アアルルノルド帝国の特使マキト・クロホメロス男爵は悠然と構えて余裕を見せたが、国境門の小役人は王国からの通達を待てと繰り返すばかりだ。


「埒が明かぬっ」

「GFU いっそ、国境門を迂回して 進路をとるか?!」


マキトの悩みに獣人の戦士バオウが進路変更を提案した。国境門の南側はツルギ山も険しく北側は魔狼(ウルベン)(ワルド)の難所でもある。


「ここで待機していては、時期を逃す恐れもあるわよッ」

「うむ…」


風の魔法使いシシリアの指摘も尤もだ。好機か危機かと見れば……数日は世界情勢を分析する為に風読みも必要かと思う。


様子見に国境門で待機する日々を過ごした。




◆◇◇◆◇




北のバクタノルドと南のゲフルノルドは国境地帯へ兵を集めて紛争状態である。今年の冬は大寒波の影響を受けて北軍が不利な行軍状況にあり南軍の反撃でいくつか国境の村を失陥していた。なにしろ、北軍バクタノルドの軍勢の大半は住居を捨てた避難民と同等の者たちだ。異常な積雪は北軍の騎馬兵から自慢の機動力を奪い、思うように援軍を繰り出す事も出来ない。


それに対して南軍の守備兵は歩兵を主体とした防衛用の長槍を雪中行軍の装備に代えて国境を越え寒村を荒らした。南軍の機動力も馬鹿には出来ない様子だ。小山の様な雪に覆われた丘から斥候の兵士が両軍の紛争を観察している。


「エト様。仕事に取り掛かりますか?」

「あぁ、俺の出番かッ」


白い魔物の毛皮を被った人物はラータ村の出身でエト・ラータと呼ばれる仕事人(おんなしのび)だ。その人物は降雪の中に足音も足跡も残さずに、平然と南侮(なんぶ)の豚の屯所へ踏み入った。警備の兵など警戒しても無駄であろう。


「何者だッ!」


-ZBASHッ-


誰何の声を上げるなら、剣のひと振りも構えよ。一刀で切り伏せられたのは、この付近の南侮(なんぶ)の豚を指揮する(かしら)だろうか。血刀の血糊を振り飛ばしてエト様が言う。


「後のザコはお前たちに任せる」

「はい♪」


エト様は後始末には興味も無い様子で、ひとり立ち去った。逃走の痕跡を追うのは私にも困難だわ。バクタノルドの馬上王とは古い付き合いだけど、エト様が若い身を持ち崩さねば、この暗殺依頼を引き受ける事も無かった筈だ。


女忍びは残敵の掃討を始めた。




◆◇◇◆◇




マキトは数日間を待機して世界情勢を分析したが、北のバクタノルドと南のゲフルノルドの国境紛争は膠着状態と見える。西方の国イグスノルドは国境門を閉ざして返答の気配も無かった。


マキトたち特使の一行は紋章旗も隠して密かに北へ進路を変更し、魔狼(ウルベン)(ワルド)へ踏み入った。森は木々の間も積雪に覆われて魔物の気配も少ない様子だ。キャリキャリと静穏仕様で移動小屋のキャタピラーを進ませると狼の警戒網に捕捉された。


「GFU Wawo!」

「GOOQ ひとつ、相手をしてやるかノ」


狼たちの声に応じて金赤毛の獣人ファガンヌが飛び出した。獣人の姿でも狼如きには負ける筈も無いので、心配は御無用だ。むしろ、森の住人たちへ迷惑を掛けないかと心配である。


ぞわぞわと森がざわめき、雪に埋もれた茨の藪が立ち上がると、除雪された小道を通って森の妖精ソアラが現われた。


「何事か、狼たちが騒いでおれば、あなた達でしたかッ」

「ソアラ様。ご機嫌も麗しく…」


「ここでは人族の目に付きます。こちらへ案内、致しましょう」

「!」


そう言って茨森のぬしソアラフレイユが腕をひと振りすると、雪に埋もれた茨の藪が活力を得て立ち上がり、移動小屋が通過可能な道が出現した。


マキトは恐る恐るに移動小屋を徐行させて森の奥地へと進む。道の両側へ儀仗兵の様に整列した茨の藪が適時に蠢いて一行の進路を明けている。後方は既に何事も無かった様に積雪の森に擬態をして移動小屋の痕跡を消した。


「こちらで、停泊して下さいませッ」

「どうどう…」


その場所は森の木々が開けた広場の様である。


「この冬は雪の軍勢の侵攻が激しくて、北の森の防衛に手一杯なのです…」

「それは大変なご様子に、猫人(ねこひと)の王シドニシャス様もご心配でしたよ」


「なっ!シドに心配をかける程にッ、落ちぶれてはいません!」

「こ、これは失礼致しました」


失言に冷や汗を掻くマキトは平身低頭の構えだ。


「そんなに固くならずとも、我がソアラフレイユの名を持って歓迎いたしますわ」

「有難う御座います」


茨森のぬしソアラフレイユが語る愚痴と苦労話を聞くと、この冬に雪の軍勢の侵攻が激しさを増した様子も思い浮かぶ。


「…それで東の森は警戒も疎かにして、人族が森へ入り狩りをするのも黙認しています」

「なるほど、我々も助力を致しましょう!」


「既にその必要は御座いません」

「えっ、ソアラ様。それはどういう……うっぷ、寒っぶぅ…」


その時、不意に冷気が増して広場に猛烈な吹雪が吹き荒れた。地吹雪がマキトたちの視界を覆う。


-HYOOO!GOOOSH-


地吹雪の中に白いドレス姿の女が見えた。それは雪の女王の似姿かッ!


「…(わらわ)の望みは叶った。…同胞は連れて帰るぞ…」

「ええ、御随意にッ」


既にソアラフレイユは雪の女王の親派か。


「…グガガガガッ 我を 閉じ込めた この恨みは忘れぬッ 世話になったノ…」

「はっ、雪ん子!」


雪だるまに偽装した雪の精霊核が進み出て、雪の女王の似姿と見える白いドレス姿の女に(いだ)かれる。普段なら雪だるまを押し留める金赤毛の獣人ファガンヌの姿は無かった。


マキトは別れを惜しむでは無くても呼びかけたが、二人の姿は吹雪の冷気と共に消え去った。本当にこれで良いのか?


「人族の英雄マキト様。この度は茨森の代表として、感謝と祈りを捧げます」

「うっ…」


茨森のぬしソアラフレイユの祈りは真冬に暖かく、春めいてマキトの心に沁み渡る。それは本当に危機に瀕していた茨森の感謝の心だろう。


マキトたちは茨森の暖かい歓迎を受けた。




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