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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十章 帝国南部紀行
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ep255 騒動の顛末を報告しよう

ep255 騒動の顛末を報告しよう





 ザクレフ地方南部のコジエ山に登頂したマキト・クロホメロス男爵は当地に住み付いた野生のグリフォンを制圧し調伏せしめた。


領主の館に帰還した案内人兼お目付け役のヘカテリナはグリフォンの英雄として名高い男爵の活躍を大袈裟に語ったらしく、盛大な祝勝会が開かれて歓迎された。ザクレフの町を悩ませた野生のグリフォンが討伐されたと言う知らせは町を駆け廻り街中も祭りの様な騒ぎとなった。


マキトも領主の館に足止めされて祝勝会に顔を見せる。


「これは、クロホメロス男爵。貴殿のご助力に感謝いたします」

「…きゃー、あれが噂のマキト様よッ」

「…男爵様のご活躍に乾杯っ!」


地元の名士や商会長だとか貴族のご令嬢や何某(なにがし)の紳士など、招待客の挨拶の列は途切れも無い。延々と祝辞に賛辞に美辞麗句の嵐が吹き荒れる様子だ。こんなに大事(おおごと)になるとは思わず、流石に主役のマキトも辟易として、領主への報告を全てお目付け役のヘカテリナに任せたのは失敗かと思う。


「ふう。英雄の虚名も楽じゃないぜ…」

「マキト様っ、お疲れの所ですが、スピーチをお願いしますッ!」


「勘弁して欲しいものだが…」

「?!」


マキトは祝勝会の進行役と見える男に捕捉された。すぐにでも会場から逃げ出したい所へ乱入する者あり。


「賊だ! 捕えよッ」

「…きゃっ! 魔獣ぅ!」

「…お館様ッ、退避して下さいぃ!」


魔獣ガルムに騎獣した鬼人の少女ギンナが、館の警備兵を引き連れて現われた。


「英雄様っ!」

「ギンナ!」


「は、はぁ、はぁ……やっと会えたですぅ~」

「ゴメン。心配をかけたね」


マキトは再会した鬼人の少女ギンナを優しく受け止めた。と言ってもギンナが装備した白銀の胸当てが抱擁の邪魔である。


「男爵様のご家中の者かッ?」

「…なっ、あんな小娘までもぉ!」

「…獣人の娘が、お館様の御前を汚しおって…」


折角の祝勝会が不穏な空気になり始めて、マキトは(いとま)()うて退出した。今夜の祝勝会の主役として宿舎も領主の館に指定されているのだ。まぁ、領主の客人の待遇といえる。


「ところで、あの大食いの野性的な美女は誰だ?」

「…なんと下品なっ、獣人であることよッ」

「…くうぅ、あの肉感が、堪らぬぅ」


借り物のドレスに着替えた金赤毛の獣人ファガンヌは非常に目立っていたが、招待客からは声を掛けるのも恐れられている様子だ。




◆◇◇◆◇




さて、会場から鬼人の少女ギンナをお持ち帰りしたマキトは寝室でギンナの匂いを堪能した。普段は魔獣に乗り勇ましいギンナも装甲を一皮剥けば、ぷにぷにのモフモフである。寝室で彼女の役目はマキトの抱き枕だった。魔獣ガルムのコロは寝室の扉の前に番犬の様に居座り賊を警戒するらしい。


「きゃふん。英雄さまっ~」

「ぐふふふふ、覚悟しろッ、ギンナ。今夜は離さないぜ!」


寝室の嬌声に祝勝会の狂騒も遠のいたが、放し飼いに残された金赤毛の獣人ファガンヌが酒宴に突入した事は見るまでも無い事実だろう。なにしろ、コジエ山に持ち込んだ酒樽では足りぬと言って祝勝会に紛れ込んでいるのだ。


ザクレフの町の住民も魔獣グリフォンが討伐されたとの事で喜び浮かれているが、実際は毎月に供物を饗宴する事で、コジエ山の北側の人族を襲わない様に話を付けた。未だにコジエ山の南側から山脈の氷雪地帯へかけては野生のグリフォンの縄張りである。今後の苦労が思い遣られるのだ。


翌朝に湯あみも済んでスッキリしたマキトは、祝勝会に轟沈した死屍累々の惨状を見た。どうか、クロホメロス男爵さま…ご勘弁ください…と懇願されて会場を訪れたマキトは並み居る男たちを撃沈しても、朝に迎え酒を飲む金赤毛の獣人ファガンヌを発見した。


「GUUQ 遅かったノ」

「これでも、朝の身支度には気を遣うのさ」


マキトは洒落た決め顔で言った。おずおずと付きと従う鬼人の少女ギンナの方は恥ずかしそうに言う。


「大お姉さまっ、ご機嫌も麗しくぅ~」

「GUUQ くかかか、ギンナも元気そうじゃ」


事情を察してか金赤毛の獣人ファガンヌが豪快に笑う。ドレス姿でも様になるのは美女の貫録か。マキトが尋ねるのに、


「呑み足りたのかい?」

「GUUQ 程々にのぉ」


「!…」


その応えを聞いても轟沈した死屍累々の男たちには声も無かった。余程にお疲れの様子と見える。南無阿弥陀仏…


………



ザクレフの西側の河川へ墜落した飛行型のゴーレムは統治に派遣された帝国軍の手で鹵獲されていた。河川を全面に凍結させる程の冷気を放っていた精霊核は小康状態と見えるが危険な状況とも思える。マキト・クロホメロス男爵は事件の目撃者であり、直接の当事者と見做されていたので重要参考人として現場に立ち会いを求められた。


事件の犯人として捕縛されないのは皇帝の特使としての影響力を慮る現場の配慮だろう。アアルルノルド帝国の軍人も出世競争には貪欲なのだ。凍結した河川も火炎魔法の使い手を総動員して掘り返したと見える。また、河川へ自然に溶けた氷が流れ出している。早めに飛行型のゴーレムを引き上げよう。


「ようし、総員配置に付けッ」

「「 はっ! 」」


現場の立ち会い人と言っても、帝国軍の工兵部隊が問題の飛行型ゴーレムを引き上げる作業を眺めるばかりだ。


「クロホメロス卿、この様な物が…何か分かりますか?」

「ふむ。異常な冷気が生んだ現象であろう」


珍しく現場監督の士官と見える男に意見を求められた。それはジュウジュウと冷気を発して気化するドライアイスに似ている。


「…お(ぬし)よ。これは雪の精霊核の破片じゃ…」

「ゴーレムを改造したのかッ」


「…酷い事をしよる。怨嗟の声がここまで聞こえて来おる…」

「くっ、何て事を…」


西風の精霊核が眠りから起き出してマキトに念話で語り掛けるが、他人には聞こえない会話だ。


「なるほど、参考になりますッ」

「!…」


心の声がダダ漏れていたらしい。現場監督の士官は独り納得して引き揚げ作業を続けた。引き揚げた飛行型のゴーレムには見覚えのある男が搭乗しており完全に氷漬けとなって息絶えていた。これでは精霊核の魔力源には成らないのだ。マキトが証言せずともゲフルノルドの新興貴族のひとりと身元は判明するだろう。それよりも問題は新型の精霊核である。


「…お(ぬし)よ。聞こえるじゃろ…」

「あぁっ」


…グガガガガッ 我を 閉じ込める者に 呪いあれ 千年の怨嗟を持って 滅ぼしてくれようぞ グガガガガッ…


怨嗟の声に、思わずマキトは身震いをする。ガクガク。


「…何とかせねばッ、再び暴走を始めるぞ…」

「あ、危ないッ 爆発するぞ!」


「何いぃ!」


マキトが叫ぶと危険を察知した工兵が飛行型のゴーレムの操縦席へ川の水を投げ込んだ。火炎魔法の他に水魔法の使い手も配置していたらしい。途端に巻き起こる水蒸気と気化して溢れた白いガスは二酸化炭素か。雪の精霊核は怨嗟と同時に涙の粒をドライアイスにして操縦席を満たし続けていたのだ。


もうもうと白煙が立つ。マキトは煙幕に紛れて操縦席の非常脱出装置を起動した。


-Pshurr-


マキト・クロホメロス男爵も巻き添えにして、座席に横たわる遺体と精霊核が上空へ投げ出された。


「わっぷす。卿ッ…何て事をッ」

「!…」


そこへ飛来した魔獣グリフォンが英雄マキト・クロホメロス男爵を攫った。既に上空を駆け抜けた魔獣の姿は北の空へ遠ざかる。





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