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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十章 帝国南部紀行
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ep254 帝国南部の都市ザクレフ

ep254 帝国南部の都市ザクレフ





 ザクレフの街並みは煉瓦造りに白壁で屋根は柿色の瓦と見える。余暇があれば上空から歴史的な建築物を眺めて見たいものだ。


「男爵様っ、南のコジエ山に登れば、ザクレフの街並みが一望できますわ」

「ふむ。覚えておこう」


マキトは領主の館へ案内されて町の窮状を聞かされた帰り道だ。送迎の馬車に揺られてザクレフの街並みを眺める。


「魔獣グリフォンの討伐は気が進みませんか?」

「むむぅ、英雄の虚名を買い被り過ぎだッ」


この中年の看護師の癒しの成果か、マキトは気安く心情を吐露した。領主の頼みは最近に街の南部に住み付いた魔獣グリフォンの討伐依頼だった。町の冒険者の手には余る案件らしい。


「南の山岳部の安全は町の産業にも関わりますッ」

「それは、理解しているが……十分な装備も無しに登山して、魔獣を討伐するなどッ無謀だろう」


路面の凹凸にガタンと馬車が揺れる。


「町の窮状にはグリフォンの英雄様へお縋りするしか方法はありません」

「…」


この無理押しにはマキトも不満を覚えるのだが、川岸で救助された恩もある。仕方なくマキトは魔獣グリフォンの討伐依頼を引き受けた。




◆◇◇◆◇




突如としてマキトの乗った気球を攫われた特使の一行は大騒ぎであった。ゲフルノルドの総督府でも突然の爆発に大混乱であったが、帝国の特使の旗は無視も出来ずに事情説明を行う。それによると、新型のゴーレムの起動実験に失敗して暴走し被害を発生したと言う。


特使の乗った移動小屋と一行は総督府の屋敷に足止めされたが、魔獣ガルムのコロと騎乗した鬼人の少女ギンナはひと足先にマキトの捜索へ向かった。あの飛行型のゴーレムはゲフルノルドの市街地から東へ向けて飛び去ったのは間違いないのだ。おそらく空中機動にて飛行型のゴーレムと戦ったマキトの身を案じて、鬼人の少女ギンナは東へ向かい全力で駆ける。


「東の彼方へ消えたと申すかッ」

「はい。恐らくは、ゴーレムに取り付けた外燃機関が暴走したものと思われまする…」


ゴーレム技師長は元から悪い顔色を増々に青くしている。


「原因の究明は当然だ。伝承のゴーレムの捜索を急がせよッ」

「はっ」


総督閣下の叱咤に、伝令の兵士が駆け出してゆく。


「困った事態になるものよのぉ…」

「…」


東の彼方という事はゲフルノルドの国内の監視網を突破した事を意味する。それは東の帝国領へ騒動が露見した事も意味するのだ。万が一にも……いや、当然の様に帝国軍に伝承の飛行型ゴーレムを回収されたならば、何か都合の良い釈明を用意せねばなるまい。


ひとり思案するイザベル・ド・カーン総督閣下の美貌にも陰りが見えた。




◆◇◇◆◇




グリフォンの英雄マキト・クロホメロス男爵は英雄の虚名の所為で、ザクレフ南部のコジエ山を登頂する嵌めになった。


「ふぅ、ひぃ、はぁ、はぁ……」

「男爵様っ、もう少しですッ」


マキトは息を切らして登山するのだが、監視と案内人のご婦人は平気な顔で付いて来る。


「ヘカテリナさん。この先は?」

「右の迂回路を行きましょう。…男爵様もご休憩されては、如何ですか?」


中年の看護師と見えたご婦人はヘカテリナと名乗り、コジエ山の案内人として同行している。荷物運びに雇った冒険者も魔獣グリフォンの討伐には及び腰だというのに、随分と気丈な女傑と見える。


「うむ。そうしよう……うぐっ、うぐっ、ぷはぁ」

「…」


マキトは水筒の水を飲みひと心地付く。重い荷物を担いだ冒険者の方が元気な様子は何故だろう。彼らも登山には熟練した者たちか。


右の迂回路は男爵様のお疲れを見越して比較的に平坦な道のりだ。男爵様の本領発揮は魔獣グリフォンの討伐にある。魔獣の巣窟まで英雄様をお連れしなくてはならない。


ぐるりと山頂を迂回すると、ザクレフの街並みの全貌が見えた。帝国の南部の主要都市としても町の規模は小さいと思える。良く晴れた晴天の空は見通しも良い絶好の眺めだ。


マキトは首筋の毛が逆立つ感覚を感じた。


「魔獣ッ!」

「ぎゃっ、グリフォンだぁ!!」


冒険者の男たちは荷物を放棄して逃げ出す。彼らにはそういう契約なのだ。魔獣グリフォンの討伐は男爵様の役目である。


「黒毛だったか、ファガンヌに会わせてくれッ」

「GUUQ Kwaw」


話が通じる筈も無い、魔獣グリフォンに話かける男爵様は危険に見えた。


「ふむ。待たせて貰おう。そうだッ、手土産もある」

「!…」


そう言って荷物を開き調理道具を並べる男爵様は慣れた手つきに一流の料理人にも見える。


ジュウジュウと串肉を焼きタレを馴染ませる手付きは屋台の親爺を思わせて、香り立つ匂いは魔獣を次々と呼び寄せた。


「ぎゃっ…ガタガタ…」

「…また、魔獣がぁッ…」

「…天にまします、我らが祖父よ……」


岩陰に退避した冒険者の男たちは腰を抜かして祈りの聖句を唱えるばかりだ。こうしては居られない、男爵様をお手伝いしなくてはッ。


治療師のヘカテリナは手術用の刃物を取り出して肉の部位を切り取り、マキトは肉の部位に応じて味付けを変えた。そうして料理を続けていると、ひと際に大きな魔獣グリフォンが飛来した。


「GUUQ 待たせたノ クロホメロス」

「やぁ、ファガンヌ!」


調理の手を休めず、魔獣グリフォンの女王を迎えるクロホメロス男爵はどこか嬉しそうな顔をしている。それよりも魔獣グリフォンから金赤毛の獣人に変化したこの女の容姿が気掛かりだわ。英雄様が騎乗するグリフォンは変身すると話には聞いていたが、その獣人姿の美貌も侮れない。野生の荒々しさと気品も交えた妖しい魅力と評価されるのは貴族の社交界では常識である。


ヘカテリナも中年とは見えない美貌だが、この金赤毛の獣人の肉厚は圧倒的だ。ボインボインのきゅうぅズガンである。


金赤毛の獣人ファガンヌは熱々の串焼きを頭上に掲げ、滴り落ちる肉汁と香辛料の効いたタレを真下から舐め取り、垂直に降ろすと串焼きを丸飲みにして串を引き抜く。ごくりと咀嚼する間も感ぜす飲み下した。


「GUUQ 腕を上げたノ」

「…はぁ、少しは味わって欲しいねッ」


グリフォンの女王の好評価にも気安く答える男爵様のご様子は、二人の親密な関係を思わせる。既に何本目かの串焼きを頬張る姿に粗末な貫頭衣から肉圧の乳房がこぼれそうに見えた。


「ほおぉぉ…」

「…あれが、英雄殿のグリフォンかぁ…」

「…いい女じゃねぇか…」


冒険者の男どもめ、魔獣グリフォンの恐怖も忘れて覗きに興じている。その間も男爵様は調理の手を止めず肉厚のステーキが焼けた。


「GUUQ 褒美だッ」

「!…」


グリフォンの女王が放り投げる焼きたてのステーキ肉に野生のグリフォンが飛び付くと、辺りに風圧と砂塵が舞う。


「きゃっ!」

「ヘカテリナさん。大丈夫ですか?」


突風に驚いてよろめくご婦人をマキトが支えた。


「男爵様っ…」

「ん?」


グリフォンの英雄マキト・クロホメロス男爵は紳士である。ヘカテリナの美貌で籠絡するのは無理かも知れない。




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