表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十章 帝国南部紀行
272/365

ep252 総督府の爆破事件

ep252 総督府の爆破事件





 そこはゲフルノルドの総督府の地下に設置されたゴーレム工房である。総督の私用の為か研究と開発の為か、工房へ出入りする資材も職人も厳重に監視された重要拠点と見える。その研究工房に総督府の(あるじ)が姿を見せるのは稀な事である。


「カーン様。よくぞお越し頂きました」

「世辞は良い。現物を見せよッ」


「はっ!」


最新型の整備台に乗せられたゴーレムはゲフルノルドの国内で使用される物と形状も素材も異なると見えた。


「これが、空を飛ぶと言う伝承のゴーレムか?」

「左様に御座います。北夷(ほくい)の蛮族どもの手には余る品にて、蛮族の都に晒されていた現物を回収して…」


ゴーレム技師長の自慢話は長くなりそうだが、飛行ゴーレムの回収の経緯は既に報告書で知っている。今頃は偽物が王都の広場へ晒されているのだろう。


「ふむ。修復状況は?」

「万全の整備状態でございますッ。…試乗されますか?」


時間と予算をかけて修復したらしいが、金属素材の繋ぎ目は不揃いに見えた。


「良い精霊核が見つかったのかッ?」

「はい。搭載しているのは王都の霊廟から発掘された逸品で、雪の精霊核と銘されおります」


雪の精霊核は古代の王族の墓を祀った霊廟の奥に安置されていたが、霊廟と修道院を守る坊主どもを多数に殺めたらしい。報告書では兵士の死傷者数しか見えないが、相当の抵抗があったと思える。


「ほうほう。あの件か……随分と兵を損ねたと聞くぞッ」

「その節はご宸襟を騒がせまして、恐縮至極に御座います」


自慢げなゴーレム技師長の顔色が一変して青くなる。ともに貴重な古代の遺物は古代王朝の秘宝への手掛りとなるが、国内の醜聞は避けたいと思う。総督府としては今後も人民を統治して行かねば成らぬのだ。


「試乗は配下の魔術師を選抜して行えッ」

「はっ!」


ゲフルノルドの総督イザベル・ド・カーンは慎重に古代の遺物の性能を見極める考えらしい。今年の冬期は北夷(ほくい)の犬も大寒波に晒されて進軍を停止している。他国ながらもこの冬は食糧事情が厳しいだろう。


この機に弱った犬どもを蹴散らして失地を回復せんとする軍部の働きを期待したいものだ。


………


王宮の謁見の間を模した広間は華美な装飾も抑えられて実用的な造りと見える。やや照明に欠ける広間には、この地の総督閣下が待ち受けていた。


「北州ケルド村は、落ちたらしいの」

「恐悦至極に御座いますッ」


戦勝報告をする司令官は誇らしげに跪くのだが、(たか)が村のひとつに何者ぞと言うか。


「恩賞は追って沙汰を待てッ。暫しの休息の後には軍功に励めよ」

「はっ。鋭意奮闘に務めまする」


軍部の猪どもは弱った北夷(ほくい)の犬を狩り満足げな様子だ。司令官の男はウキウキの歩調で退出した。


「次ッ!」

「ドグラス・シュタットガルト伯爵にございます」


本日は十六人目の面会者である。総督閣下もお疲れのご様子と見える。


「イザベル様っ。伝承のゴーレムを北夷(ほくい)の犬どもから奪還したのは我が配下の手柄ですぞッ!」

「存じておる」


「それにしては、恩賞もお褒めの御言葉も寡少にございますッ!」

「…」


この男ドグラス・シュタットガルト伯爵は元奴隷商人の成り上がり貴族であるが、イザベル様と総督閣下を呼ぶのは情婦ではあるまいが、増長しているのだろか。総督閣下の淫靡な声がドグラスを捕える。


「ドグラスよ、そなたの働きには期待しておる」

「勿体無きお言葉に…」


言動とは裏腹に不満げな様子の奴隷伯爵は総督閣下を見つめた。


「技師長が優秀な魔術師を探しておる。是非にも助力を惜しむなッ」

「はい。勿論でございます」


既に奴隷伯爵の心は総督閣下の意のままらしい。新たな任務に機嫌を取り戻して奴隷伯爵は退出した。


「ふう。総督の務めも面倒であるな…」

「お疲れで御座いますね」


総督府の式典官の仕事も楽では無い。




◆◇◇◆◇




 マキトたち特使の一行は鬼人の少女ギンナを戦力に加えて北の三国のひとつゲフルノルドへ入った。国境の町キサシにも避難民が溢れて大寒波と冬季の積雪に難渋している。ゲフルノルドに流通する通常の移動小屋はゴーレム駆動の歩行方式で雪道の移動は困難と見える。そこへマキトが改造したキャタピラー駆動の移動小屋が通過すると流浪民には奇異の目で見られた。さらに、移動小屋にはグリフォンの紋章旗とアアルルノルド帝国の特使の旗を掲げて進む。それは明らかに只者ではなく、住民たちも慌てて道を空ける様子だ。


改造された移動小屋のキャタピラーは鹿に似た魔物トルガーの軟骨を焼き固めたブロックを追加して騒音を抑えた特別仕様だ。それでも移動小屋の重量に積雪を踏む音は止まない。ゴーレム駆動にはエンジンの騒音も廃ガスも無いのだが、相変わらずに移動小屋は操縦者の魔力消費が激しく、マキトは早々に魔力を消耗して女中(メイド)姿のオーロラと操縦を交代した。


休憩時にマキトは厨房にて出汁を取る。移動小屋の厨房は手狭であるが設備は充実していた。今期は鰹に似た魚マルオの出汁と昆布の出汁が加わり醤油と味醂も加えた最高の出来映えと思える。それと同時に早朝から仕込んだ蕎麦を茹で上げるのだ。


蕎麦は荒地でも育つと言うが、開拓村の農地で試験栽培された蕎麦は懐かしい風味がする。


「ようし、完成だッ」


長葱に似た香草と唐辛子に似た香辛料を乗せる。厚揚か鴨南蛮でも欲しい所だが、マキトは移動小屋の振動に注意して熱々の椀を運ぶ。


「オーロラ。休息にしよう」

「いいえ。まだ、行けますッ」


気丈にも移動小屋の操縦を続けるオーロラに休息を促すが、外気を振るわせる振動にマキトは驚いた。


-ZOUUN-


操縦室の風防が軋んだ。ずぞぞぞぞッ。


「GFU マキト異変だ!」

「!…」


犬顔の獣人の戦士バオウが操縦室に駆け込んで来た。マキトは出来立ての蕎麦をすする様子であり落ち着いたものだ。


「事件も、僕らが昼飯にするぐらいは待ってくれるさッ」

「………」


爆発はゲフルノルド市街の中心部の方角に見えて、総督府の近辺だろうと思う。


あんな所に危険物か工房でもあったかな。





--


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ