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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十章 帝国南部紀行
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ep249 遠征の準備

ep249 遠征の準備





 皇帝の勅命を受けたマキトは年が明けてから帝都を出発し西の古都アルノルドへ入った。アアルルノルド帝国の特使の身分となったマキト・クロホメロス男爵であるが、事が密命の為かアルノルドの領主ゲオルク・シュペルタン侯爵への挨拶は無い。侯爵閣下はサリアニア侯爵姫の実父の筈だが…面倒な事はしなくても良いだろう。それでも、マキトは補給物資の調達のために白銀のオーロラへ連絡を取った。今のオーロラにその二つ名は相応しくも無いが、彼女はシュペルタン侯爵の女中(メイド)として仕えているとの事だ。


マキトは古都アルノルドで補給を待つ間に猫人の森を訪れた。帝都からマキトに付き従う黒猫が新年の挨拶として森へ行く事を求めた為だ。古都アルノルドの南に広がる森は雪化粧をして白に染まっているが森に踏み入る狩人の姿も無い。年中無休の彼らも年末の深酒に溺れて年始の迎え酒に呑まれているのだろうか。マキトは案内人の黒猫を追って猫人の森へ踏み入った。積雪を踏み分けて進むと途中に季節外れの草木と花の咲く陽だまりに出た。


「こちらへッおいでよ~」

「応ぅ…」


夢現になりがちな意識を繋いでマキトが黒猫の後を追うと静謐な森に出た。いや、そこは積雪の寒さも届かない森の深部と見えるが魔力の蠢きが感じられる。っ!突如として光が溢れた。


「人族の大使殿。よくぞお越し頂いた。新年のご挨拶を申し上げるッ」

「「「 うおぉぉおお~ 」」」


猫人の王シドニシャスが黄金色の後光を背景にして現れると森の住民が歓声を上げた。白く毛長で美しい猫人の王シドニシャスは大人気の様子だ。招待客の中には妖精族や獣人の姿も見える。その中でも人族の招待客は百年ぶりに異例な事らしい。妖精族の美人さんがそっとマキトに教えてくれる。


「今年は茨森に異変がありて、ソアラフレイユの到着が遅れています」

「王様はソアラ様とお知り合いですか?」


同じく森の(ぬし)として旧知の仲でも不思議は無い。森は遠く離れていてもシドニシャスの秘術があれば苦も無い距離だろう。


「古き盟友にして戦友とも言える」

「ほほう…」


猫人の王シドニシャスの話では精霊大戦の神話の時代からの知り合いで共に轡を並べて戦ったという。あんたら歳はいくつだ?とは畏れ多くて聞けやしない。シドニシャスの昔語りに関連してマキトは気懸りを尋ねた。


「西の茨森に何があったのですか?」

「雪の女王の襲撃が厳しくて、今年はソアラフレイユも苦戦の様子じゃて…」


どこか他人事なシドニシャスは猫顔に微笑んで言う。いまいち猫の表情というもの人族のマキトには分かり辛いのだ。それでも必要な情報を得たマキトは取り急ぎに古都アルノルドへ戻って遠征の準備を始めた。


………


移動小屋を従えて冒険者で獣人の戦士バオウとその奥様で風の魔法使いシシリアが古都アルノルドに到着した。冬の寒さも厳しい時期には馬車では心許なくて移動小屋の方が安定感がある。それはマキトが改造して三両連結にした移動小屋であり、ゴーレム駆動のキャタピラを廻して進む雪上車の様な乗り物でもある。


最前部は操縦席と玄関口に居間を内包している。二両目は厨房と寝室を備えており生活空間だ。最後尾は炭焼き小屋の風情で貨物室として利用している。現代風に言うとトレーラーハウスの様式だろうか。移動小屋の操縦席から女中(メイド)姿のオーロラが顔を見せた。


「マキト様。お久しぶりで御座いますッ」

「おっ、オーロラか!」


シュペルタン侯爵家でも女中(メイド)として働くというオーロラはメイド服も板に付き立居振舞もそれらしい。女中(メイド)姿のスーンシアと似ているのは同じ侯爵家の教育の成果か。


「特使様のご用命を賜ります」

「侯爵家の仕事を離れても問題は無いのかい?」


「勿論でございますッとも」

「ふむ…」


シュペルタン侯爵家の陰ながらの支援という事か。オーロラの特技は侯爵家でも重宝されており信用も得ている様子だ。


「GUF 特使殿よぉ。特別手当を頼むぜッ」

「バオウもシシリアさんも宜しく」


獣人の戦士バオウが気安い冗談に見せて報酬を望んだ。マキトは皇帝の特使として予算も頂いているので、特別手当を奮発しようと思う。


「ええ、あたしに任せてッ」

「Bauw!」


風の魔法使いシシリアはいつもの調子で、その子供ロックは犬顔の戦士風の装束だ。河トロルの護衛たちにも睨みを効かせてる。そうか河トロルを見るのは初めてか。


「リドナス…」

「ご機嫌 うるわしう ゴザイマス♪」


河トロルの戦士リドナスが淑女の礼を見せた。どこでそんな所作を覚えたのか…微妙に間違っている気がする。


マキトは旧知の仲間を集めて西方の異変に備えるらしい。




◆◇◇◆◇




アアルルノルド帝国の西方の森は飛竜山地と呼ばれて、その名の通り飛竜の生息地だ。その魔物の森を越えると西方には三つの王国がある。北にバクタノルド、南にゲフルノルド、西の端にイグスノルドがあり古来はひとつの魔法王国であったが互いに後継を譲らずにいがみ合うと戦乱となった。現在も毎年の冬には北のバクタノルドの騎馬兵が南下して南のゲフルノルドと矛を交える小競り合いは続いている。例年の事であれば北のバクタノルドの騎馬兵が攻め寄せて、南のゲフルノルドの守備隊が都市部を守るという構図なのだが、今年の冬は様相が異なるらしい。


吹雪に凍える平原を眺めて、ゲフルノルドの北三砦の守備隊長フランク・ガレオンは呟く。


「やつら、この吹雪には手も足も出ないらしい」

「我々の任務は、敵の足止めですよッ」


一向に攻め寄せる気配も無い臆病なバクタノルドの騎馬兵に苛立つ様子の隊長を副官が宥める。


「この好機に王都の兵団は何を愚図グズしておるかッ」

「隊長のいう事も、御尤もですが…」


積年に責め立てられた恨みの念か反抗の意欲は高いと見える。


毎年の攻勢を凌ぎ、陰で建築した砦は強固な守備力を誇り王都からの援軍を待つまでの時間稼ぎには最適だ。それでも砦に駐屯する兵力は少なく、アアルルノルド帝国から派遣された駐留武官の支援も必要だろう。


ゲフルノルドの守備隊長ガレオンは武骨な顔に苛立ちの表情を見せた。




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