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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十九章 東方辺境開拓紀行
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ep246 ロガルの町の産業

ep246 ロガルの町の産業





 マキトはロガルの町の開拓事業へ精力的に取り組むと共に、東部海岸の海産物を活用するために働いた。特に個人的な嗜好として昆布の出汁を取りたい。


海岸部の浜辺で砂利を選別しその上に海藻を並べて干す。巨大な昆布に似た海藻は大きさも厚さも不揃いだ。それでも冬の日差しと乾燥した北風に晒されて昆布の干物が出来た。


試食に何種類かの海藻を土鍋に投入して出汁の味わいを比較する。


「うむ。これはイケルかも!」

「んっ♪」


いくつかの海藻は天日に干してひと月ばかり小屋に保存していた物だ。やはり数か月は熟成期間が必要と見える。


「むむっ、表面に結晶した物は塩かッ?」

(ぬし)様。これは意外な 美味しさデス♪」


比較的に人族の味付けにも慣れた河トロルの戦士リドナスは昆布の出汁に共感した。他の河トロルの反応はどうか?


それでも熟成方法を確立すれば、商品化の希望が見える。


「この海藻を利用して塩を精製しよう!」

「?…」


マキトたちは海岸部に櫓を組んで長大な海藻を吊るした。土台は石造りにして横木を渡し見た目は神社の鳥居の様な物干し台と見える。吊るした海藻に海水を掛け流すと海風を受けてキラキラと輝く。そうして水分を飛ばした海水が滴となり海藻を伝い落ちると次第に結晶が出来た。


乾いては海水を掛け流す気の長い作業を護衛の河トロルに命じてからマキトは得意の魔道具の製作に取り掛かる。


それは海風を受けてクルクル回る回転翼に滑車を吊るした揚水機だ。木製の歯車がキリキリと歯を噛んで動作する。ゆくゆくは合金製の耐錆仕様にしたい物だ。


「ようし、上げろッ」

「はい♪」


揚水機の風車が掲げられた。これで海水を掛け流す作業は省力化できるだろう。マキトは見張りの河トロルへ風向きに注意する様に言い置くとロガルの町へ帰還した。




◆◇◇◆◇




 ロガルの町の産業は開拓村にありがちな農業すらも難しい。付近の牧草地と荒地に家畜を追い放牧をするのも容易ではなくて、専らの収入源はごみ漁りに発見した物品を売りさばいた金銭だ。遊牧民の男は港町ハイハルブの古物商を尋ねた。やはり貴金属の換金には、より大きな町が良い。


廃墟となった開拓村を掘り返して手に入れた生活用具などは付近で生き残った開拓村へ売りに行くのも可能だったが、町で小銭を得て帰りに蒸留酒を買うのが最高の報酬だろう。蒸留酒のキツイ刺激は地酒の甘い酔いとは異なる快楽なのだ。今日もまた古物商の親爺に足元を見られながらも金銭を得て、遊牧民の男は上機嫌であった。


「おぃ、ゴロザ。顔を変えたなッ」

「ひっ…人違いだニィ」


町の子悪党に呼び止められても、動揺を隠せない遊牧民の男は白を切る。


「ニシシシシッ、昔馴染みの顔を忘れたのかい?」

「くっ、バロンか!」


このニシシと笑う子悪党は本名では無いだろうが、男爵(バロン)と呼ばれる怪しい男だ。


「旨い儲け話があるのだが、ひとつ乗らねぇか?」

「はっ、旨い話にゃ裏があるだニィ!」


頭から怪しい話には逃げ出す覚悟を決める。


「その裏が、美味しいという話だッ」

「!?…」


裏の事情に興味を示した遊牧民の男ゴロザは子悪党の男爵(バロン)と悪巧みを進める様子だ。


町に悪党の種は尽きない。




◆◇◇◆◇




 マキトの元へタルタドフの領地から補給物資が届いた。それは魔蟻の荷駄として乗せた味噌や醤油の他に日持ちする様に干した切り餅などの産品だ。年末も差し迫り寒風が吹きすさぶ開拓地に切り餅の補給は嬉しい。


ロガルの町の開拓地の整備は順調で農地と灌漑用水の整備は出来ている。これもタルタドフの領地から付き従う河トロルの護衛たちのおかげだ。湿地や水棲に生活する彼ら河トロルも開拓地の寒さは厳しいらしく、今年の開拓事業を終えてタルタドフの領地へ帰還する者と東の海岸へ居住する者に分かれた。春には交代に新たな河トロルの戦士が派遣されて来る手筈だ。


河トロルの戦士リドナスは当然の様な顔をして残りの護衛たちを率い、皮鎧の武装にモコモコの毛皮を着ている。冬の寒さへの対策は万全と見える。サリアニア侯爵姫とそのお付きの者たちはオストワルド辺境伯の別邸へ移住した。未だにロガルの町は領主の屋敷の建設も間々成らないのだ。建設には北の海岸部に残る森を伐採するか近隣の領主から木材を輸入せざるを得ないだろう。


(ぬし)様。出立の準備が 整いマシタ♪」

「うむっ」


マキトは雪上車仕様の馬車へ乗り込んだ。昨日から降り始めた雪はやまず、ロガルの町も含めた開拓地は雪景色に変り始めている。


「出発ッ!」

「ん♪」


少数の護衛を従えてマキトは近隣のタンメル村へ向かった。領主との会談を申し込んでいるのだ。この辺りにタンメル村は祭りの村として有名な観光地で一年中に何がしかの祭りを開催しているらしい。村人は普段の農作業と稼ぎをどうやって賄うのか不思議なのだが、まさか祭りを専属にしているとは思えない。


年末年始に祭りは付き物だろうか。




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