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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十九章 東方辺境開拓紀行
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ep244 陰謀は蠱毒の様に

ep244 陰謀は蠱毒の様に





 その女は隊長(ボス)情婦(おんな)であり、俺たちの拠点(アジト)補強物資(ニクとエサ)を運ぶ生命線(おかん)だ。


「最近の上がりだッ」

「うふふ、良く働いてくれたようね。……銀貨六百五十枚で、宜しいかしら」


騎兵の伝令と見える死体が六体に密書を三巻も確保している。女は首実検もせずに隊長(ボス)の言い値を支払った。伝令の首に五百と、密書に追加の百五十で……間違いは無い。彼らは僅かな金銭で殺しも請け負う盗賊団なのだ。


「お前の為に精を出したんだぜッ。久しぶりに、味あわせろやっ」

「あぁ、こんな所でぇええ~◇」


人払いの結界は万全の筈だが、山谷の陰でも盗賊の手下も人目もある。そんな場所で隊長(ボス)情婦(おんな)と情事を始めた。この情婦(おんな)が淫魔だと見破る者は居ないだろう。


見張りの仕事も楽じゃない。


「おい、ハンス。絶対に覗くなよッ」

「ぐへへへ。隊長(ボス)情婦(おんな)は、どんな具合かねぇ」


用も無いのに破落戸(ごろつき)のハンスが隊長(ボス)指揮所(ねどこ)の前をうろつく。女の匂いを嗅ぎ付けたのか。


隊長(ボス)はともかく、あの情婦(おんな)はヤベエ。首が飛ぶぞッ」

「ぐふっ。そりゃぁ~恐ろしかぁ」


全然に恐れる様子もないハンスは下卑た笑いを飲み込んだ。これでも気配の察知には敏感なのだ。どうやら隊長(ボス)情婦(おんな)が始めやがった。匂いの変化と僅かな気配の変化に興奮する。


「おい、ハンス。聞いているのか?」

「ぐへへへ…」


ハンスは飛び跳ねて、…行っちまいやがった。面倒事は勘弁して欲しいものだ。




◆◇◇◆◇




帝国の徴税官エルスべリア・ティレルはオグル塚の迷宮村へ駆け込んだ。ここまでは盗賊団も追って来れない。迷宮村は帝国軍の駐屯兵団が占拠して本来の駐屯地と何ら遜色も無い繁栄だろう。街路には兵士を相手にする商店と娼館が立ち並び、本来は冒険者を相手にする食堂や露店にまで帝国軍の兵士が出入りしている。商売も繁盛の様子に税率と税収金額を算定するのは職業病だろうか。


駐屯兵団の仮設された本部へは街路の奥を進み、迷宮(ダンジョン)の進入口にも程近い立地にある。ティレル女史は街路の雑踏を越えて仮設本部へ辿り着いた。


「何ッ、今度は地底湖だとッ!」

「攻略部隊の報告では、水底も深く水棲の魔物の襲撃と上空に飛来する魔物の襲撃に苦戦の様子です」


報告書を読むまでもなく迷宮(ダンジョン)側の狙いは時間稼ぎだろう。様々な迷宮(ダンジョン)の環境変化は対処の手間を増やし探索に時間をかけさせる。補給線の長さも大規模な探索には負担が大きい。


「対策を急がせよッ」

「はっ」


帝国の徴税官エルスべリア・ティレルは仮設本部で待たされる事になった。


「徴税官殿か、道中は災難であったな。護衛に騎兵小隊を付ける。…先を急がれよ」

「忝い。ご配慮に感謝いたします」


厄介払いであろうが、護衛の申し出は有難い。


「ふむ。これも帝国貴族の務めだッ」

「…」


お互いに帝国貴族としては下級の出身であり、帝国の国内では小役人の身分でしかない。


ティレル女史は早々にオグル塚の迷宮村を出立した。




◆◇◇◆◇




サリアニア侯爵姫たちが合流してからの討伐作戦は順調だ。ぎりぎりと鎖を軋ませて捕獲した腐肉喰(グール)が抵抗を見せる。


「スーンシア。そのまま確保せよッ」

「はい!」


マキトは河トロルの護衛に命じて捕獲した腐肉喰(グール)へ奴隷の首輪を嵌めた。それは契約魔法の無い簡易な造りでも手足の力を弱める効果があった。腐肉喰(グール)の怪力は脅威でもある。


「婿殿よ。これをどう処置するかのぉ?」

「毒素の抽出と実験に使います」


「ほほう…」


実際に腐肉喰(グール)の生態には謎が多く専門の研究者も知らない。敵を知るには実験も必要だろうと思う。捕獲した腐肉喰(グール)を押し拉ぎ十字の磔台へ縛る。


隔離された実験室に魔物が吠える。


-GUGAAA-


凶悪に吠えるのを轡を噛ませて黙らせると、腐肉喰(グール)はダラダラと唾液を滴らせた。毒液だ! 手足の爪先からも毒液を抽出する。


「ふはははは、こ奴らの生態を暴いてやるぜッ」

「っ!…」


マキトの様子は実験対象を前にした狂気の研究者と見える。


「やれやれ、こうなっては……婿殿に手も付けられぬ」

「お茶の用意がございます」


諦め顔のサリアニア侯爵姫は辺境のお茶会に姿を消した。


………


腐肉喰(グール)の毒液は獲物を前にして分泌されるらしい。試験に生肉と鮮魚と野菜を眼前に晒すと毒液を滴らせる。やはり生肉が好物と見える。


当然の如く腐肉喰(グール)の毒液は本体には実害も無いが、生肉へ一滴を垂らすとジュウぅと溶かし始めた。ガラスの容器には問題も無いが、鉄片や銅線などの金属も腐食する様子は酸性の毒液と思える。


「中々に厄介な毒液だ」


マキトは独りごちて実験を続けた。これも領地を守るために必要な処置だと信じている。





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