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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十九章 東方辺境開拓紀行
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ep243 討伐は花の様に

ep243 討伐は花の様に





 ロガルの町にサリアニア侯爵姫が到着してから腐肉喰(グール)の討伐は順調に進んだ。何しろサリアニア侯爵姫はアルノルド侯爵領の腐肉喰(グール)掃討戦の立役者でありその部下の指揮も健在だ。河トロルの護衛たちを幅広の横隊に編成し荒野の草場の陰に潜む腐肉喰(グール)を狩り出す。


「そちらにッ、行ったぞ!」

「んっ♪」


女騎士ジュリアの声に反応して河トロルの戦士が腐肉喰(グール)の一体を捕えた。手足も首も刎ねて止めを刺す念の入れ様だ。


「連閃連撃ッ…【風神剣】」

「っ!」


サリアニア侯爵姫も積極的に剣戟を振るう。姫様のお手を煩わせる程に、いつも開拓地は人出が不足しているのだ。


「姫様っ、休憩にしましょう」

「良かろう」


汗をかいた女騎士ジュリアの提案に、サリアニア侯爵姫は涼しい顔で応じた。既にひと狩りを終えた戦闘メイドのスーンシアがお茶の準備をしている。マキトもお茶の席にご相伴となった。


「サリア様。ご面倒をおかけします…」

「なぁに、婿殿よ。これも家人の務めよのぉ」


そういう意味では、領地の治安を守るため、領主も家族も部下も総出の腐肉喰(グール)討伐作戦は皆も家人の務めであろう。


サリアニア侯爵姫の活躍は寒空に咲いた花の様であった。




◆◇◇◆◇




港町ハイハルブから南下すること数日のオグル塚の大迷宮では、地下深く密かに激戦が繰り広げられていた。オグル塚の大迷宮の討伐が始まってから早くもひと月に及ぶこの作戦は上々の成果だ。始めの数日は帝国軍の兵士たちは迷宮(ダンジョン)に特有の薄暗がりと不気味な迷宮(ダンジョン)の壁面に戸惑いもあり遅々とした探索状況であった。それでも迷宮(ダンジョン)の環境に慣れてからは、帝国軍の兵士と冒険者の案内人を含めた混成部隊が効果を発揮して迷宮(ダンジョン)の探索が進む。


ひと月で四十階層を攻略した帝国軍は迷宮(ダンジョン)の最深部も近いと思われる。迷宮(ダンジョン)の四十一階層に大型の魔物の悲鳴が響き渡る。


-GYAFHOO!SHUU-


「撤収っ、引き出せ!」


帝国軍の小隊が傷付いた兵士を抱えて逃げ出すと、その穴を埋めて新たな小隊が大型の魔物に対峙した。


花押の陣と呼ばれるその戦法は大型の魔物を多勢で取り囲み足止めし、ちくちくと出血を強いて持久戦に持ち込む。帝国軍の物量を生かした作戦だ。強大な魔物と言えど魔力も体力も限界はある。この狭い迷宮(ダンジョン)の環境に補給も無しで長くは戦えないだろう。


オグル塚の大迷宮の討伐作戦は迷宮(ダンジョン)の魔物の総数と帝国軍の物量との戦いの様相となった。


「くっ、帝国軍の奴らめッ、死体も残さぬとはッ!」

「スライムの餌にも成らないわ」


帝国軍は可能な限り戦死者も負傷者も回収に務めた。その行為が迷宮(ダンジョン)側の活力を奪うとは知らない。


「残りの彷徨える魂の総量は?」

「二割を切った所よ」


迷宮(ダンジョン)の資源にも様々な要素があるらしい。未だに帝国軍の損耗率は八%を下回り推定で千人以上もの兵士が迷宮(ダンジョン)を探索している。これまでの戦死者の数は二十名に満たない。迷宮(ダンジョン)側の完敗だ。


「打って出る。総力戦の準備をせよッ」

「はっ!」


美丈夫と見える魔王が命令を下すと、残された魔物にも活力が注ぎ込まれた。決戦の日は近い。




◆◇◇◆◇




帝国の徴税官エルスべリア・ティレルはオストワルド辺境伯の領地の税務調査と査察を終えた。港町ハイハルブから街道を南へ向かうと森の植物相が一変して蔦草の絡み合う森となった。ほぼ一年前の春季に原因不明の大暴走(スタンピード)を発生したオグル塚の大迷宮は魔物の大群を迷宮(ダンジョン)から吐き出して地表を覆い、その蹂躙の跡地に残されたのは巨大な魔芋を主体とする異様な森だ。


その森も相次ぐアアルルノルド帝国の軍勢に踏め越えられて街道を維持している。この先には道中の宿場町としてオグル塚の迷宮村が存在している筈だが、今は帝国軍の駐屯兵団の宿舎が置かれて税制は特別措置となる地域である。いち官僚の税務調査の対象ではない。ティレル女史も迷宮村には立ち寄る所用も無かった。


「カイエンッ、はっ」


鐙を踏んで腹に力を入れると愛馬カイエン号が加速した。魔芋の他には何も無い街道筋と見えても嫌な気配がする。


-BUFUN!-


急加速から三歩でカイエン号が跳んだ。悪辣な罠が張られていたらしい。


「なにぃ!」

「っ…」


驚いた盗賊たちの悲鳴が聞こえる。その程度ではカイエン号の眼は誤魔化せないのだ。ティレル女史も愛馬カイエン号の動きに合わせて跳躍すると盗賊団の囲みを破り街道を走破した。


「ちっ、銀貨30枚だッ、あの騎兵を追え!」

「へぃ!」


意外な事に盗賊団の追撃は執拗であった。予想外の追撃にティレル女史は嫌な予感を覚える。このままオグル塚の迷宮村へ駆け込み、帝国軍の駐屯兵団に保護を求るのが良いだろう。





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