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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十九章 東方辺境開拓紀行
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ep242 軍神の奥様は女傑

ep242 軍神の奥様は女傑





 海路でハイハルブへ入ったサリアニア侯爵姫の一行はオストワルド伯爵の屋敷で足止めされた。貴族的な挨拶に辺境伯の別邸を訪れたに過ぎないのだが、侯爵家からの連絡を受けてサリアニアの出奔を阻止する構えだ。これでは、本当の権力者と交渉するより他に道は無い。


折しも軍神と呼ばれるオストワルド伯爵は馬の遠乗りに出掛けたらしく不在であった。


「…それで、姫様はどうなさるお積りですか?」

(わらわ)の決意に変りは無い。マキト様の所へ向かうまでよッ」


屋敷の女主人ハンネロゥレ・オストワルド伯爵夫人が尋ねるのに、サリアニア侯爵姫が答える。


「行ってどうなさると?…姫様に土いじりなど、出来るまいと思いますわ」

「それは……」


サリアニア侯爵姫にも妙案は無かった。


「かの領地は長年に腐肉喰(グール)の被害に悩まされています」

「ほう、それはッ」


伯爵夫人が姫様へ恰好の役割を示す。


「女ならば戦いに殿方を手に入れるものですッ!」

「勿論だともッ」


その意気や良し。サリアニア侯爵姫の気性は女傑と名高いオストワルド伯爵夫人にも気に入られたらしい。屋敷の拘禁が解けてサリアニア侯爵姫はロガルの町へ向かった。


「ハンネロゥレ様。宜しいのですか?」

「ええ。可愛い子には旅をさせよと言うでしょう」


サリアニア侯爵姫は嫁入りの為にオストワルド伯爵家の養女として降家を予定としている。伯爵夫人の義理の娘となる訳だが、辺境伯家の教育方針は厳しいらしい。それでも、領地の腐肉喰(グール)討伐の任はサリアニア侯爵姫には容易な仕事だろう。




◆◇◇◆◇




マキトは密偵方の知らせを受けて現場へ向かった。ロガルの町から北西に分け入った牧草地に腐肉喰(グール)の目撃情報がある。荒野に点在していた開拓村は軒並みに壊滅して廃墟の有様だ。


「領主様っ、危険だニィ」

「っ!」


遊牧民の男は家族と数の減った家畜を連れて廃墟へ避難をしていた。腐肉喰(グール)は不死者の類ではなく肉食の魔物だ。爪と牙に猛毒を持ち腐肉を好むと言うが、時には得物を襲い生肉も喰らう。そんな節操も無い魔物は早々に討伐するに限る。


マキトが遊牧民の家族を保護すると廃墟に黒装束の軍勢が現われた。明らかに里の者では無い。


「おほほほ、そこのあなたッ。命拾いをしましたね」

「…タンメルの女主人か?」


それは漆黒のドレスを身に纏い優雅な足取りで現われたタンメル村の館の女主人リリィ・アントワネ・タンメルシアだ。お付きの執事と見える男にも見覚えがある。


「遊牧民のご家族には、我がタンメル村へ避難されるもの宜しいかと…」

「ぃ嫌だニィ」


ガタガタと震えながらも遊牧民の男はタンメル村への避難を断った。


「そこな、ロガルでは住民の保護も間々成らぬでしょう」

「断るッ!」


マキトは避難民の引き渡しを断る。それは領主の威信に関わる問題だ。


「おほほ、またの機会にお会い致しましょう。マキト様っ◇」

「!…」


漆黒の馬と戦車に騎乗した軍勢を連れた余裕か、そう言い残すとタンメル村の女主人は撤退した。あの影の様な軍勢で腐肉喰(グール)を狩っているのだろう。軍勢の兵士は黒塗りの鎧兜に面覆いをして顔も見せない不気味さだ。


マキトは危険を回避した。




◆◇◇◆◇




帝国の徴税官エルスべリア・ティレルがオストワルド辺境伯の領地を視察すると、領地の収入は港町ハイハルブの収益に頼っている事が分かる。税収の帳簿の上でも明らかな資金の流れだ。


それにも拘わらず港町ハイハルブの商業税の税率は安い。港を出入りする商船の輸入税も輸出税も低く、船舶の積荷を臨検をする役人へ支払う賄賂の方が高く付く程に格安である。そのためアアルルノルド帝国を出入りする商人たちは(こぞ)ってハイハルブの港を利用するのだ。


「どうかね?この丘の眺めはッ!」

「なるほど、伯爵様のご領地の繁栄が一目瞭然ですわね」


馬の遠乗りへ出かけた丘陵地帯から海岸線を眺めると、港町ハイハルブへ出入りする商船の群れが見えた。あれは南海航路の貿易船だろうか。


「くっ、分かっておらぬなッ」

「…」


オストワルド辺境伯が目線で示すのは丘陵地帯を切り開いた練兵場だ。見ると、連隊規模の兵士が軍事行動の訓練をしている。


「町の繁栄は市民を守る強固な軍勢があってこそだッ!」

「ご高説に痛み入ります」


オストワルド辺境伯の話では、ご領地の警備隊への入隊審査は簡単に健康で体力さえあれば誰でも入隊が可能との事。そのため入隊後の基礎訓練から軍事訓練は厳しく行われて、昇格試験は過酷な実技を伴うらしい。そうして選抜された精鋭部隊と一般兵士に淘汰されてゆくのだ。


珍しく饒舌に熱弁をふるう辺境伯の話を聞き流しつつ、ティレル女史は考える。確かにオストワルド辺境伯のご領地の支出は警護費と軍事費に傾いており住民の福祉や街の整備費目には関心も示さない。軍人としては優秀なのだが政治家としては問題も多いと思う。


それでも、この地の治安を守るのは領主であるオストワルド辺境伯の役目だ。





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