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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二章 魔物と戦って見たこと
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挿話 J01 調査報告書

挿話 J01 調査報告書






 そこはある貴族の執務室だった。館の主と見える貴族の男は、各地に派遣された調査官からの報告書に目を通す。


………



 王国北部の農村地帯における水騒動の報告


桃の月9日 デハント村にて騒動の気配あり。 同日デハント村の男たちが西のウリモロ村へ団交に向かうという。

周辺の聞き込み調査をした所、ユートリネ河の上流にて水利権の争いが判明した。追跡調査に際し周辺地理と魔物の出現動向には特出した異常は認められない。


さらに同日の夜半にはデハント村と西のウリモロ村との交渉が決裂したと見られる。深夜から翌朝にかけてユートリネ河の上流にて西のウリモロ村が設置した河川堰が破壊された様子あり。

デハント村は独自の河川堰から取水を始めた。


この水利権の争いに伴い周辺治安の悪化が懸念される。王国兵士隊の派遣を検討されたし。


 王国調査官 ジェイ・カルバリオ


………



 新作の水の魔道具Bに関する調査報告


桃の月5日 グラントナ商会で作成された水の魔道具Bがブラル鉱山で発売された。

グラントナ商会は王都トルメリアに本拠を置く中堅の商会であるが、新製品を北部の辺境都市で発表する事に不信がある。

継続して調査が求められるだろう。


水の魔道具Bの効能は「気分が高揚しスッキリする」との事だが生成した水には魔力成分は感知されない。私見ながら、魔道具の本体に水の魔石の他にも精神作用をする術式が組み込まれていると予想される。

王都の要員にてグラントナ商会から魔道具Bを入手し、分解調査を要請する。


 王国調査官 ジェイ・カルバリオ


………



商人ギルドを経由して送られてきた報告書を読み終えた貴族の男は深いため息をついた。


「ふぅ……いまだ真相には至らず、陛下のご心痛は余りある」


王国調査官の能力に問題はなかろうが、今回の事件は手掛かりが少ない。


「伯爵の検死報告では外部からの関与は考え難い……」


極秘の扱いにされた伯爵の怪死事件だが、現場の物的証拠として魔道具Aと魔道具Bが残されていた。

件の伯爵は軍務の傍らで魔道具の収集に明け暮れる好事家であったが、最近は水の魔道具を収集していた。


魔道具Aは最近にトルメリア王都の魔道具店シンデイ商会から発売された。


「この水、一杯で疲れが吹き飛ぶ! との評判だが……」


貴族の男は台座に力強い彫刻のある金属製の杯をしげしげと眺める。


魔道具Bはグラントナ商会から発売予定の水の魔道具だった。


「もう一方の魔道具は、グラントナ商会から発売予定との事である……強制捜査とするか」


報告書にもあったグラントナ商会に強制捜査の手が入るらしい。

伯爵は店としても得意先であり、その伝手で発売前の水の魔道具Bを手に入れたようだ。


「こちらでも働くとしょう」



◆◇◇◆◇




 開拓村に隠棲する芸術家の殲滅報告


桃の月13日 水の魔道具の制作に関与していると推定される芸術家が、北方の開拓村に隠棲しているとの情報を得た。

ただちに現地調査へ赴くものの道中および周辺地域にて子鬼(ゴブリン)の集団を多数!目撃した。大規模な巣穴の存在が予想されるため、早急に討伐部隊を現場に派遣されたし。


同日に遅れて開拓村を調査するが、住人の行方は知れず。

既に容疑者の芸術家の隠れ家は憲兵隊のブックシルトにより包囲殲滅されていた。現場の詳細については憲兵隊の報告書を参考にされたし。

私見ながら、隠れ家の仕掛けは北の大国アアルルノドフの関与が認められる。


 王国調査官 ジェイ・カルバリオ


………



開拓村を巡回する兵士から送られてきた報告書を読み終えた貴族の男は深いため息をついた。


「ふぅ……北の大国とは、大物が出てきたな」


憲兵隊の報告書にも目を通し、


「現場にいた水の神官様にも、事情聴取が必要だろうが……」


さらに思案する。


「この行方不明の商人も捜索すべきだろう」



◆◇◇◆◇




 北方の開拓村で憲兵隊が容疑者の隠れ家を包囲殲滅した際に、捕らわれていた水の神官様と商人の男を救出した。しかし、隠れ家の崩壊で溢れ出した水害!の流れに浚われて、商人の男は行方不明となっていた。


いちおうに憲兵隊が容疑者の隠れ家と周辺を捜索したが、容疑者と商人の男の発見は無い。憲兵隊の現場指揮官ブックシルトの失態と言えるが、王国調査官とは命令系統が異なるので異論は挟めない。


唯一の目撃者とされる水の神官のアマリエ様にご足労を頂き事情を尋ねた。部屋は調度品が整えられた応接室だ。最高級の茶葉とお茶請けの菓子も準備万端の様子だ。


「マキトさんの所、アルトレイ商会と水の神殿は以前から取引がありまして……」

「ほう」


水の神官のアマリエ様は水治療の名手で近隣の開拓村では女神のごとく人気がある。


「たまたま、開拓村の巡回診療に同行いたしました」

「なるほど……」


その美貌と仁徳は勿論のこと水の神殿が無料で巡回と治療を行うことにより信仰を集めていた。


「彼のその後の行方は?」

「こちらでも捜索しています。必ず発見できますよ」


アマリエ様の潤んだ瞳に見つめられて、年甲斐もなく動揺した。


「どうか、よろしくお願いいたします」

「もちろん! お任せ下さい」


この人の力になって差し上げたいと思う中年貴族であった。


………



同日にアルトレイ商会のキアヌ商会長の尋問を行った。

部屋は石造りの冷たく頑強な牢獄を思わせる取り調べ室だ。拷問道具の準備も抜かりない。


「わ、私は魔道具の分解をしただけだがね~」

「本当に、そう申すか?」


美中年の容貌も焦りのためか色褪せ、動揺が言葉の端に見える。


「た、確かに水の魔道具を制作と販売も行っているが、疚しい物は無いハズだがね~」

「これは、何かな」


商会の工房で押収した黒い魔石と、大きめの透明の魔石を目の前に置くとキアヌ商会長はさらに狼狽した。


「そ、それは…」

「ジェイ!」


貴族の男が命じると、ジェイと呼ばれた魔術師風の男がキアヌの額を鷲掴みにした。何かの呪文を唱える。

キアヌは激痛を覚悟して身を固くしたが、予想外に全身の力が抜けた。そのまま脱力して背もたれに身を預ける。


「思い出す、思い出す【暴露】」

「そぅ……それは マキト君に作らせた 模造品だがね……」


魔法に支配されたキアヌ商会長は、水の魔道具の複製と販売計画を話した。


「なるほど、充分だ」

「…ッ!」


ジェイが支配魔法を中断するとキアヌは放心した様子だったが、しばらくして正気を取り戻した。


「お目覚めかな、貴君の嫌疑は晴れた」

「はぁ?」


キアヌには何が起きたのが皆目に見当も付かないが……口の渇きが酸っぱい。


「帰って良しとは言えぬが、しばらく拘留させてもらう」

「…」


全く勝手な物言いだ。突然に商会に押しかけて来たかと思えば、捕縛されて尋問された挙句に泊まっていけとは!

キアヌは怒りを顔には出さず……営業用の顔で黙るしかなかった。



◆◇◇◆◇




 城塞都市キドの防衛隊と装備調達の報告書


桃の月28日 キド防衛隊の補給物資の調達に問題は見えない。現地の商人を使い食料や薬品の備蓄にも別段の所見は無し。

近々に行われる魔物の討伐作戦のため、兵士の訓練にも油断はなく実施している模様だ。


なお、キド防衛隊へ出入りの商人に以前の「水の魔道具の事件」で行方不明となったアルトレイ商会の丁稚を発見した。

参考情報として動向を送る。


 王国調査官 ジェイ・カルバリオ


………



城塞都市キドからの帰還兵から送られてきた報告書を読み終えた貴族の男は安堵の吐息をついた。


「ふむ。これでアマリエ様もひと安心されるだろう」


報告書を引き出しへ仕舞い応接室へ向かう。


調度品が整えられた応接室には、すでに水の神官のアマリエ様が待っていた。最高級の茶が湯気を上げている。お茶請けの菓子も好評の様子で安堵する。


「本日は良い報告があります」

「ッ!」


アマリエ様は期待を込めた眼差しで貴族の男を見詰めた。


「例の商人の男を発見しました」

「それは、本当ですか!」


貴族の男はアマリエの澄んだ瞳に魅了された様子だ。


「ええ、間違いありません」

「よかった無事だったのですね……マキトさん」


アルトレイ商会のクロメより神殿に送られて来た手紙にはマキトの無事が記されていたが、いまだにマキトは姿を見せない。

何か事情があると思えるが、アマリエには想像が付かなかった。


「アマリエ様。祝杯を挙げましょう!」

「?」


貴族の男は何処に用意していたのか高級そうな酒瓶と杯を取り出してアマリエに勧めた。果実酒の甘い香りが杯を満たす。女性にも飲み易い口当たりが想像できた。


「では、乾杯!」

「…」


貴族の男は果実酒を飲み干す。アマリエも杯を呷るのだが……


「アマリエ様」

「きゃ!」


不意に酒の勢いか貴族の男がアマリエに襲いかかった。中年とはいえ貴族の男ははアマリエより頭一つは大きい。力では抵抗しきれず、アマリエは杯の中身を中年貴族の顔面にぶちまけた! 果実酒は飲み干したハズ。


「あぁぷ、ぶくぶく…ごふっ……」

「…」


顔面を酒精に覆われて中年貴族が倒れ込むと、そのまま気を失った。


「ご無体をなさらずとも、お礼は致しますのに…聞いていませんね」


水の神官アマリエは水魔法で酒精を操り……中年貴族の呼吸を整える。


「このまま放置しても良いのだけど、神殿の名誉に関わりますから……」


何倍にも濃縮した酒精を中年貴族に飲ませる。


「では、失礼いたします」


部屋には、酔いつぶれた様子の中年貴族が残された。





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