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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十九章 東方辺境開拓紀行
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ep239 ロガルの町と分かれ道

ep239 ロガルの町と分かれ道





 黒の月の初頭は寒風が吹き荒ぶ季節にマキト・クロホメロス男爵はロガルの町へ入った。アアルルノルド帝国の東の港町ハイハルブから北へ数日も荒野と湿地を進むと目印となる岩山が見えた。


ロガルの町は岩山を中心にした集落で寂れた廃墟に見えた。打ち捨てられた戸板と傾いた住居に人の気配は無くて、北風を避ける様にして建てられた小屋に数家の遊牧民の家族が暮らしていた。


「町の住民はどうした?」

「みーんな他へ移り済んだニィ」


遊牧民の男は独特の訛りで答えた。


「…町長も役人も居ないのか?」

「さぁ、見た事もないだニィ」


返答も素っ気なく男は寒風を避けて小屋に戻った。


「…」


マキトは茫然とするしかない。貴族の役人などは名目上の領有権だけで現地には代官を派遣して領地の施策など知らぬ者も多い。元の領主の施策はどういう方針か知らないが、余りにも町の行政を放置した結果だろうか。


荒れ果てた町に暫し佇む。


「まずは、食糧の調達だッ」

「はい♪」


護衛に連れて来た河トロルの戦士たちとリドナスが動き始めた。ロガルの町の周囲はおおまかに荒地と湿地と牧草地帯で目ぼしい木々も見られない。湿地であれば河トロルの本領発揮と思われたが、土地は砂地を主体として水場に染み出す様相に生物自体が少ないと思える。


マキトは湿地に生えるマコモに似た植物を見付けた。芯の部分が太りマコモタケとして食材にできる。マコモタケは皮を剥き火に炙っても煮ても焼いても食べられる。その他に荒地で芋に似た植物の根を採取した。泥を落として茹でた食感はどろりとした里芋の風味だ。少しアクが強いが料理の方法で乗り切れるだろう。


遊牧民の小屋で家畜の肉を買い求めると断られた。


「帝国の金貨ではッ食えないだニィ」

「ならば、これは?」


どうやら帝国金貨には信用が無いらしい。マキトは古い辺境銀貨を提示した。遊牧民の男が破顔する。


「それは良いぃ。酒が買えるだニィ」

「頼むッ」


マキトは干し肉の一束を購入した。荒野では狩猟も間々成らないらしい。




◆◇◇◆◇




サリアニア侯爵姫には本国への帰還命令が届けられた。婚礼を控えて実家へ戻り準備をせよとのお達しだ。急な命令にもサリアニア侯爵姫は唯々諾々と従うより他にない。


「サリア。戻ったかッ」

「叔父上…この度の帰還命令は父上の発案ですか?」


本家ではなく分家の叔父にあたるモーリス・シュペルタン卿に面会するのはサリアニア侯爵姫の幼少の習いだ。


「侯爵閣下が、そのような些事に指図する筈も無い」

「婚礼を些事と言うのですか…」


父親に愛されぬ事は確認するまでも無い。


「ふむ、サリアよ。侯爵家の為とはいえども、勘違いをするでないッ」

「…」


叔父モーリスの指摘は手厳しい。


「グリフォンの英雄が有用であればこその婚礼であるが、此度の戦乱では失態続きではないか?」

「そ、それは…」


マキト・クロホメロス男爵の評価は宮廷でも下降している。


「私は婚礼には反対だッ」

「既に婚約も交わした身で、侯爵家の名誉にかけても婚約破棄など出来るのですか」


サリアニア侯爵姫は叔父モーリスの心情に気付いた。


「ふっ、方法はいくらでもある」

「まさか、男爵領の転封は叔父上が画策したものですかッ!?」


モーリスならば、貴族の世間体も宮廷の醜聞も克服するだろう。


「何を驚くものがある。サリアに宮廷の権謀術数を教授したのは、この私だッ」

「くっ…」


モーリスは幼少からサリアニア侯爵姫を教育した家庭教師のひとりだ。まさか身内に敵が潜んでいようとは思いもしない。


「男爵の失態を待って、婚約の破棄に取り掛かるぞ!」

「…私が甘う御座いました。これより、マキト・クロホメロス卿の任地へ向かいますッ」


動揺するモーリスに対して、決意を固めるサリアニア侯爵姫。


「なっ、何を言っている。サリア…」

「叔父上との面会も今日を限りに忌避いたしますわ」


絶縁を言い渡してサリアニア侯爵姫は屋敷から駆け出した。


「待て、サリア!」

「…」


後には茫然とするモーリス・シュペルタン卿が残された。婚約破棄は愛しいサリアニア姫の為ではなかったか。幼少から面倒を見て来たサリアニア姫はモーリスの眼に入れても痛くない宝だ。


屋敷の黒猫がニャーゴと鳴いた。




◆◇◇◆◇




森の人の親善大使ステシマネフは王都イルムドフに留まった。正確には廃墟となった王宮を覆い尽くす森に滞在している。やはり、大森林の育ちでは森の人のステシマネフにとり大樹の森が心地よい。


「うふふ。新鮮な森の鋭気に心が洗われる様ね……それにしても、森に可愛い狩人かしら?」


王宮の森は深く新たな下草も生い茂り、獲物となる小動物がいても不思議ではない。


「おぃ、ジムリ。獲物は見えたか?」

「ふむむ、兎の足跡じゃん!」


粗末な弓矢と獲物を捕獲する投網を持った少年が二人も王宮の森へ踏み込んだ。


「おっ、お手柄だぜッ…今夜は肉が食える…」

「投うっ!」


早速に野生の兎を発見して投網を放つが、得物は素早く逃げ出した。


「ちっ、追えッ!」

「ぎゃぁ~」


森の人ステシマネが地上へ降り立つと少年らは悲鳴を上げた。


「ばっ、化け物だッ!」

「ひっ…」


ひとりは一目散に逃げ出すが、もう一人は腰を抜かしている。


「こんな美人のお姉さんに化け物とは、失礼しちゃうわッ。ねぇ君もそう思うかしら?」

「あわわっ…」


王宮の森には人の精気を喰らう化け物が棲むという噂もある。見た目に騙されては生きられない。少年ジムリは慌てた。


「それじゃ、食後のデザートに頂くわッ。ぶちゅう◇」

「くっ…」


少年は魔力を吸われて昏倒した。吸い過ぎは命に関わるので、程々に注意が必要だ。


「ぷはっ、甘くて美味しい……のび伸びよッ【繁茂】」


-キュッ-


下草が伸びて野生の兎を捕えた。


少年ジムリが発見された時には、投網に捕えた野生の兎を抱えて眠っていたらしい。




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