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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十九章 東方辺境開拓紀行
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ep238 領地の保全と貴族の保身

ep238 領地の保全と貴族の保身





 マキトは開拓村の土木工事の指揮を執る。町の西側を流れる河川には冬の間に倒木した枯れ木が流れに任せて漂着していた。それら流木を岸辺に引き上げて乾燥させると風呂の焚き付け用の薪として燃やす。中には腐食して黴や微生物の働きに半ば分解された天然の香木があり煙は独特の匂いを発する。マキトは直営店で香木の販売を始めたが購入する物好きはいない。


次に流木対策として木材の加工場を町の下流域に設定したが、ひと通りに流木の処理を済ませると手持ち無沙汰となった。マキトは河川担当の河トロルを率いて河川の上流を目指した。目的地は水源にも近い山中で、荒れた山肌が露出して倒木も多い。ここに植樹をして山谷の保全をしつつ余剰の木々を切り河川を使い運搬した。木材の加工場では町の建設資材が供給されるだろう。


それに合わせて石材の加工場も町の下流域に移設して原材料の調達を容易にする。河川に転がる大岩を削り石材とするのだ。これには河川の整備と堤防の建設も含まれる。町は河川に沿って南へと大きく発展しようとしていた。


「ようし、ここから東の畑まで水路を掘るのだ!」


「「 お応ぅ 」」

「ごんスッ!」


ひとり大柄の者が交っているのは岩オーガのハボハボだ。農業用水の建設に人足として参加している。このところ寒さも増して狩の獲物が減少しているらしい。所謂、出稼ぎ労働者だろうか。


「ふんっがーぁ」

「!」


岩オーガの膂力は十人力を超える働きだ。土木工事に最適とはいえ、最近は建設機械も充実してきた。マキトは土木工事用のゴーレムに乗り水路を掘る。建機ゴーレムも岩オーガのハボハボも巨大なショベルを振るう。


思わぬ速さで農業用水が完成した。後の細かい作業は人族の人足に任せようと思う。岩オーガのハボハボには、割り増しの日当を支払うと存外に喜んだ。


「村長さっ、感謝スッ!」

「こちらこそ、助かるよッ」


魔境の周辺部族とは友好関係を続けたい。


………


開拓村(マキト・タルタドフ)の三番街に広がる農地に歓声があがる。子鬼(ゴブリン)の賢者ゴブオさんも大燥ぎの様子だ。


「ひゃっ、ふぉ~」

「おぉぉ!」


用水路の近隣に畑をもつ農家は農業用水の供給を心待ちにしていた。この辺りは河川から離れた微高地で水害には強くても農作物の育成には難点がある。降雨を頼りの農業には限界があった。


「これで、トマトの作付けが安定するべぇ」


「…今から来年の収穫が楽しみだッ」

「…ほんにのぅ。助かるべぇ」

「…んだぁんだッ」


食糧の安定供給は町の人口を支える基本政策だ。




◆◇◇◆◇




オグル塚の大迷宮では帝国軍による大規模な討伐作戦が進行中だ。迷宮都市の瓦礫を押し退けて進路を確保し小隊規模の歩兵が地下の探索を行う。


迷宮(ダンジョン)探索の仕事を奪われた冒険者たちは、帝国軍の各小隊に迷宮(ダンジョン)の案内人として雇われて職を得た。それでも独自に迷宮(ダンジョン)探索を行う冒険者たちは軍部が迷宮(ダンジョン)の情報も魔物の素材も買い取ると言うので懐も温かい。


こうして仕事を奪われた冒険者ギルドのオグル塚支部は、代わりに兵士の宿舎と娯楽施設に補給物資の手配などの軍関係の利権を得て景気は良さそうだ。迷宮村の全体が復興景気に沸いていると見える。


「ふむ。交代の時間か、前線への配備を急がせよッ」

「はっ」


伝令の兵士が駆け出して行く。迷宮(ダンジョン)の探索小隊は三交代にして、途切れなく迷宮(ダンジョン)の探索を続けているのだ。各階層の全面攻略も早い。


「卿よ。精力的であるな」

「閣下のご助力の賜物にございます」


御目付役に帝都から派遣されたヘルバルト将軍の眼光は老境に入っても鋭い。


「冒険者を使うなど、愚策ではあるまいかッ?」

「物は試しに御座いますれば…」


老将軍の軍歴は豊富といえども迷宮(ダンジョン)探索などは素人だろう。


城塞の司令官トゥーリマン中佐の発案で、オグル塚の迷宮討伐作戦が採用されたのだ。城塞を失陥したトゥーリマン中佐にとっては名誉挽回の機会である。


精々に迷宮討伐の作戦へ励んでもらいたい。




◆◇◇◆◇




開拓村(マキト・タルタドフ)の屋敷では、珍しく頭を抱えるサリアニア侯爵姫の姿があった。


「やられたッ、失策だ!」

「…」


お付きの女中(メイド)スーンシアには掛ける言葉も無かった。荒れた様子の姫様の姿は久しぶりと言える。


「宮廷貴族どもめッ、(わらわ)の策謀が後手に回るとは…」

「姫様のご心痛をお察し致します」


単に失敗したと言う訳では無いだろうが、同僚の女騎士ジュリアの追従も効果は無い。しかし、自らの策を策謀と言い切る辺りは侯爵姫らしいと思う。


「ええい。慰めなぞ要らん、これではマキト殿に顔向けが出来ぬッ」

「…」


帝都の宮廷工作員からの知らせでは、マキト・クロホメロス男爵が領有していたユミルフの町の転封が決まったと言う。何の落ち度かッ! 東方の辺境にあるロガルの町とユミルフの町との領有権を交換するのだ。ロガルの町は人口も税収の規模も少ない事実上の減俸処分だろう。開拓村(マキト・タルタドフ)を接収されるよりはマシと言えるが納得出来る命令では無い。


それと同時にサリアニア侯爵姫の降家が決まった。オストワルド伯爵の養女となりてマキト・クロホメロス男爵との婚礼も近づく。オストワルド伯爵はイルムドフを占領していた帝国軍の司令官であったが、王都の失陥の責任を追及されて領地へ謹慎の処分となった。かの名将も失敗する事があるのだと宮廷では噂となっている。それでも、オストワルド伯爵は帝国の東に領地を頂く辺境伯として重用されているのだ。


こうして、マキト村長の新たな苦難が始まった。





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