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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十九章 東方辺境開拓紀行
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ep237 亡者どもめ

ep237 亡者どもめ





 開拓村(マキト・タルタドフ)を襲撃した盗賊団はユミルフの町へ入った。周辺警戒に残した河トロルの戦士たちが辛抱強く追跡して得た情報だ。


「それは、確実であろうなッ」

「くっ、盗賊どもめッ!」


サリアニア侯爵姫は河トロルの伝令の報告を確認する。マキトは怒りを隠せない。


「婿殿よ。迂闊に手出しは出来ぬぞ」

「こんな事なら、ゲバオに脅しをかけて置くべきだった!」


マキトは怒り心頭な様子にユミルフの町を支配する軍令様へ渾名を付けた。


「ゲバオ?」

「あの、自称っ軍令様だッ!」


思案する様子のサリアニア侯爵姫にも解決案は示せない。


「ふむ。ゲバオ殿の部下の不始末であれば、軍令様が責任を取らねばならぬ…」

「リドナス。ユミルフの町を監視しろッ。一人たりとも逃がすな!」


マキトは指令を発した。敵の動きはこちらの手中だッ。


「はい♪」


河トロルの戦士リドナスは村長への報告を終えて戦場へ戻った。


「お立場を考えよ。帝国軍と戦争をする訳には行くまいて」

「うむぅ…」


領地の(しがらみ)がマキト・クロホメロス・タルタドフ男爵を縛る。不幸中の幸いか町の被害は大した物では無いが、襲撃は強硬偵察の意図だろうか…町の反撃能力の測定だとすれば、敵を侮る事も出来ないのだ。




◆◇◇◆◇




オグル塚の大迷宮では大規模な討伐作戦が開始された。討伐隊は剣兵・槍兵・盾兵の各一名に治療師と魔法使いを編成入して一隊とし、地元の冒険者ギルドから迷宮(ダンジョン)の案内人を加えた混成小隊だ。その小隊を二十余りも動員して迷宮(ダンジョン)の魔物を討伐する。


これ以外にも食糧や補給品の輸送と迷宮(ダンジョン)内部へ設置した中継地点の防衛にも兵士を配置する。大規模な作戦指揮には城塞の司令官トゥーリマン中佐が任命された。その司令部は破壊された城塞に置かれて仮設の小屋が建設されている。


「ふん。卿の失態の穴埋めではないかッ」

「…」


アアルルノルド帝国の帝都から派遣された増援部隊の指揮官ヘルバルト将軍は城塞の司令官トゥーリマン中佐の失態をなじる。


「我々が増援に駆け付けて見れば、迷宮(ダンジョン)討伐を始めているとは…何の余興か?」

「これは、帝都の軍務卿にも認められた作戦にございます」


トゥーリマン中佐の反論にも将軍閣下の追及の矛先は揺るがない。


「軍務卿ごときが、何者ぞッ」

「将軍閣下、お持て成しの用意がございますれば、ささ、こちらへ」


しかし、将軍閣下のご機嫌を取る副官の手並みは中々な物だ。口煩いご老人には退席を願おう。


「ふん。儂は地酒には飽きたぞッ」


将軍閣下が率いて来た兵士から迷宮(ダンジョン)討伐に適した人材を抽出して任務を継続しよう。トゥーリマン中佐は追加の戦力を得た。




◆◇◇◆◇




マキト村長は開拓村(マキト・タルタドフ)の防衛強化に乗り出した。町の中央通りは南北を貫き道幅も十分なうえ見通しが良いので軍勢の侵攻も早い。そのため町の北側の入口に城門を建設した。石造りの城門として見た目だけは立派な様式だが、北側の全てを守る程の城壁には及ばない。見えない部分は雑木林と森林に隠されている。それでも、軍勢の侵攻には確固とした防衛拠点がある事で時間稼ぎにはなるだろう。


町の南側は農村地帯で荒野に面して広大な平原だ。初めから城門の建設も防壁の設置も諦めた。莫大な資金を必要とする割に防衛効果は少ないと思う。むしろ畑に魔獣対策の罠でも設置するべきだろうか。マキトは完成した北門を見て感嘆を漏らした。


「ほほう、急造にしては良い出来だッ」

「お褒めに与り、有難うございます」


町に集う石工の働きは上々と言える。石積みの北門の完成にマキトは満足した。


屋敷の防衛は北側と南側の防護壁が完成して、東側は中央通りに面した商店街を第一防壁とする。屋敷に面した店舗は全て領主の直営店のため内壁の防衛強化も容易いのだ。今は屋敷と商店街の間に第二防壁の建設を計画している。屋敷の増改築は相変わらずに続いているが、町への移民と建設ラッシュも継続していて人手が足りない。農閑期に入り職人の手が余れば屋敷の建設に充てたい所だ。


数か月前に建設した水道と泉は町へ新鮮な生活用水を供給し、その泉を中心として工房も民家も新たに建設されている。人が集まれば商機を察知した商店や酒場が開業するのも自然の成り行きだ。その中でも人気の公衆浴場があり公共の娯楽施設も併設されている。マキトは森の人の親善大使ステシマネフに習い新たな球技を導入した。それは魔物の蝉の抜け殻を球として使い棒切れで打ち合う遊びだ。お互いに相手に返球して失敗すれば負けとなる。


「ステフ殿っ、行きますよ!」

「ふはははは、どこからでもッ、掛かって来い!」


森の人の親善大使ステシマネフが使う棒切れは只の木の枝なのに、吸い付くように打球を捕えて打ち返す。能々ステフの魔力を観測して見れば棒切れにも魔力を通している様子だ。


カキンッと硬質の音を響かせて蝉の抜け殻が飛来した。球の形状が複雑な影響もあり変化球の軌道は読み辛い。マキトは同じく棒切れで打ち返した。コキンッと強打した打球はあらぬ方向へ弾け飛ぶ。


「うふふ、また私の勝ちですわねッ◇(ハート)」

「待ってろッ、急ぎ再戦を申し込む!」


マキトは資材置き場で手頃な木材を選び加工した。


「木材加工の…【切断】【削剥】【彫刻】!」


数分でラケットを用意した。


「まずはルール変更を要求するッ」

「うふふふ、宜しくてよ」


マキトは公共の娯楽施設のテーブルを利用して卓球方式のルールを提案した。テーブルの塗装もネットの用意も数分の早業だ。


「これで良し。再戦だッ!」

「ふっ、返り討ちです」


森の人の親善大使ステシマネフとマキト村長の熱戦は公衆浴場の語り草となった。




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