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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十八章 魔王の季節
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ep234 精霊と大樹の名の下に

ep234 精霊と大樹の名の下に





 マキトは王都イルムドフの北門を出て、大穴の罠の建設予定地に立った。既に帝国軍の工兵部隊が縄張りをして通行人も兵士も締め出している。


「さて、婿殿のお手並みを拝見しようぞ」

「地質調査の…【探査】」


実際にサリアニア侯爵姫の眼前で土木魔法を披露するのは初めてだろう。マキトは地面へ魔力を浸透させて地質を読んだ。


「ほうほう」

「図面に沿って…【粗掘】【深掘】」


傾斜を付けて穴を掘るが、問題は砕いた地面の土砂の搬出である。運び出す人足が利用する搬出路も形成するのだ。


「おぉっ!」

「岩をも砕く…【削岩】」


埋設された障害物も建設資材として利用出来そうだ。


「それでは、次の区画へ向かいます。後はお願いしますッ」

「うむ、良かろう」


マキトは土砂の搬出作業の指揮を任せて移動した。


「工期の短縮を図るかぁ」


一計を案じて即席の粘土板に魔方陣を描き複製する。材料と魔力さえ有れば粘土板の量産が可能だ。


「魔力源はコイツだッ!」


マキトが利用するのは、魔力の満たされた魔晶石に金線を織り込んだ魔力線を繋ぎ、多数の魔方陣を配置した。


「頼むぜッ魔方陣…【発破】」


-DOMB BOMB DOMB-


地中へ向かう爆発力がくぐもった爆発音を発した。若干に地面も揺れる。使い切りの発破に利用した粘土板は砕け散り跡形も無い。


「婿殿が何かやった様子じゃのぉ。…後を任せる。後続の工兵隊を投入せよッ」

「「 はっ 」」


サリアニア侯爵姫はマキトの魔力を感じてか、工期の短縮を予感した。まさか、遅れるという事は無いだろう。


………



大穴の罠の建設は順調だ。予定よりも早く完成する事も期待できる。しかし、数日も戦い続けた騎兵隊は疲労して陽動の戦線が崩壊した。


「予定よりも早く、苔の巨人が来ますッ!」

「深度は八割の程度か……」


やや、不安な強度でも当初の設計よりはマシな出来と思える。


「騎兵隊を誘導せよッ」

「はっ!」


数時間の後に騎兵隊が姿を表した。大穴の罠への進路に苔の巨人を誘導する。遠目に見て苔の巨人の動作は鈍いと見えるが一歩で進む距離は大きい。騎兵の速度に苔の巨人が付いて来るのが不思議に見える。


騎兵隊は傷付いて落伍者も多いと見えたが、帝国軍の精鋭らしく整然と大穴の罠を通過した。そのまま北門から街へ入る。苔の巨人が北門へ接近した。漸く苔の巨人の大きさが分かると、そのまま城壁を乗り越えそうな大きさだ。以前にも増してデカイ。


「今だ!」


-DOMB BOM!-


騎兵隊の通路として残されて仮設の橋脚が崩壊した。その崩壊は苔の巨人の足元を襲い大穴の罠へ誘い込む。


苔の巨人の弱点はその自身の重さだ。平原で当れば障害物も粉砕して進撃するが、山岳地帯を登坂する能力は無い。大穴の罠へ落ちた苔の巨人も表層を剥がせば、スライムの塊となる。


「撃ち方ッ、始め!」


-BOMF BOMF BOMF-


軽快な砲撃音は城壁に据えられた砲身から発せられた。今回は苔の巨人の上半身の動きを封じる大魔法が無い。氷の魔女メルティナは身重の体に配慮して屋敷の留守番だった。


「マキト殿。我らも攻撃をッ」

「頼みます」


近隣の領主から借り受けた炎の傭兵団が攻撃を開始した。


「いっけぇぇぇ…【火球】」

「燃え盛る業火よ…【火炎】」

「全てを焼き尽くす…【野火】」


次々に火の魔法が放たれて苔の巨人が炎に包まれた。焼き尽くすのも時間の問題か。苔の巨人が騎兵の速度のまま大穴の壁面に衝突した。巨大な質量が地響きを起こす。


そのまま、苔の巨人は上半身を前方へ投げ出す様に倒れた。設計通りのその距離に北門への被害は無い筈だ。


-DO!DOOOM-


確実に苔の巨人は倒れた。


…しかし、炎の中で……苔の巨人は、這いずり…前進を続けた!


「マズイっ!」


-ZUUUN-


苔の巨人の頭突きで、北門は粉砕された。衝撃に炎が消し飛ぶ。大穴の罠を這い出した苔の巨人は徐々に立ち上がり街の中心部へ向かう構えだ。


帝国軍にもタルタドフの軍勢にも、苔の巨人の進撃を止める手段が無い。


「マキト様、その杖をッ」

「なにぃ!」


森の人ステシマネフが進み出てマキトの手から杖を奪った。木の魔法ならば何か方策は?


「精霊と大樹の名の下に顕現せよ…【大精霊弓】」

「!…」


その杖は千年霊樹の枝の一振りで、先端部には赤い実を半分に残している。布が巻かれて隠された紅い実が魔力に輝くと、ひと振りの弓が出現した。


飾り気の無い木の弓は森の人ステシマネフの手に収まり、弓蔓を引き放つと魔力の残滓を残して魔法の矢が放たれた。苔の巨人の背に突き刺さった弓矢は急速に樹木と変化して成長を始める。


ぐおぉぉぉ。苔の巨人は声にならない悲鳴を上げ、背中に樹木を茂らせながらも進撃を続けた。目前に王城の外壁が迫るとも粉砕せずには居られない。


-DO!GZOOON-


再びの衝撃音に城の尖塔が倒れた。苔の巨人は城の外壁を自重で圧倒して破壊して行く。


「ステフ殿っ!」


森の人ステシマネフはマキトの制止を振り払い、ありえない急加速で苔の巨人を追った。護衛に付いた河トロルの戦士も虚弱と思われた森の人がそんな暴挙に出るとは予想もしない。


「精霊と大樹の名の下に顕現せよ…【精霊の槍】」


飾り気の無い素朴な槍は森の人ステシマネフの手に収まり、苔の巨人の背中を貫いて王城に突き刺さった。


-DO!GUWASHAWN-


王城は粉砕された。苔の巨人は前のめりに倒れて王城の瓦礫を飲み込んだ。背中の樹木は急成長して大樹となる。


ここに甚大な被害を伴い苔の巨人は討伐された。





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