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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十八章 魔王の季節
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ep231 緊急事態の宣言

ep231 緊急事態の宣言





 森の人ステシマネフが献上した魔晶石は魔力に満ちて光り輝く様子だ。マキトは町の公衆浴場で利用している最新型の湯沸し器へその魔晶石を装填した。魔力による発火は燃焼に伴なう排煙も無くて効率的に湯を沸かす。


「どうだい、湯加減は?」

「とても快適でございますよ。きゃっ!」


公衆浴場は開店時間の前に湯を沸かし始めて、今はお客も居ない貸し切り状態だ。マキトは森の人ステシマネフを町の公衆浴場へ招待した。実際に魔晶石の効果を実感してもらう。


「ど、どうされたッ? ステフ殿ッ」

「少々…滑りまして、も、問題はありません。マキト様っ」


森の人の親善大使であるステシマネフの申し出により、マキトは彼女をステフと呼ぶ事にした。お互いに固い役職名は不要だろう。


「そうですか、気を付けて下さい。私は火の番をしておりますので、必要があれば呼んで下さい」

「熱っ、ありがとう、御座います」


湯加減は良さそうだが、普段は入浴の習慣の無い森の人に、公衆浴場の利用は難しいかと心配になる。まぁ、誰でも最初は戸惑うものの慣れれば問題は無かろう。


マキトが湯沸し器の稼働状態を見ると魔晶石の魔力を消費して上々の熱量を見せている。この分では娯楽施設に設置した魔力測定器の回収量を上回るだろうと思う。魔力測定器は投入された魔力量を数値として表示するが、町の腕自慢が挑戦しても50MP前後の数値だ。毎日続けると健康に良いと噂を流してスタンプカードに数値を記録している。町の長老が累積数値でダントツにトップらしい。…今度は何か表彰をして賞品でも差し上げようと計画している。


考え事をしつつ既に半時は越えただろう。


「ん?遅いなぁ……ステフ殿! 湯加減は宜しいかッ?」

「………」


返事が無いただの無人の様子だ……って、そんな筈は無い!


マキトは緊急事態を感じて公衆浴場の垣根を突破した。女湯に人影は無い。…あっ、お湯に浸けた大きな桃が浮いている。


「ステフ殿ッ!!」

「あぁ゛ぶくぶく.。o○.。o○」


細身のその体を抱いて助け起こすと、湯あたりに上気した森の人ステシマネフは茹で蛸の様に真っ赤な顔をして伸びていた。


「緊急事態だッ」

「っ♪!」


護衛として潜んでいた河トロルの戦士たちが現われて森の人ステシマネフを介抱する。マキトは護衛の不手際を問い質した。


「どうしてッ、救助しないか!?」

「はい。浮いたり 潜ったりする事は 子供の遊びも同然で ゴザイマス♪」


河トロルの常識との見解の相違か。


「な、なるほど……許す」

「これしきで、水に負けるとは 森の人は弱イィ♪」


森の人ステシマネフの評価は河トロルの護衛たちに下方修正された。


「そう言うモノでは無いぞッ」

「ん?♪…」


河トロルの常識に納得は得られない。




◆◇◇◆◇




王都イルムドフに魔猪(マーボア)の群れが押し寄せた。そのため、王都の占領軍は緊急事態を宣言し市民の外出を禁じた。帝国軍の精鋭である騎士隊が隊列をなして街の通りを進むが、歓声で応える市民の姿は無い。それでも、騎士隊の司令官シグルバルト卿は英雄の末裔の家名だけではなく自身の美貌でも目立っていた。通りの家々の戸口の隙間から馬上の美丈夫をひと目でも見ようと耳目が集まる。


「戒厳令が敷かれたかッ」

「はっ、見送りと歓呼に迎える市民が無くては残念ですかな?」


シグルバルト司令の問いに答える副官の軽口には悪意も無い。


「こう、覗き見られては気分が悪いッ」

「その…お気持ちは、お察しできません!」


市民の視線に晒されて、流石の英雄殿も緊張をされたか。シグルバルト司令が副官の軽口を窘める。


「随分と気楽な様子だがッ」

魔猪(マーボア)など、我々の敵ではありませんよ」


あの弱いイルムドフの防衛隊でも魔猪(マーボア)の襲撃に街を守ったと言う。副官の戦力分析も常識の範囲だろう。


「そう言うなッ、これも任務であるぞ」

「はっ。口を慎みまするッ」


いづれにしろ油断は思わぬ敗北に繋がる物だ。気を引き締めて討伐作戦を遂行しようぞ。


帝国軍の騎士隊は出撃した。




◆◇◇◆◇




オグル塚の大迷宮に程近い帝国軍の城塞では城門を固く閉ざして魔猪(マーボア)の群れをやり過ごした。魔物の群れは暴走している様に見えても、城塞など眼中にも無くて王都イルムドフの方角へ走り去った。


「ようし、この隙に伝令を出せッ」

「はっ」


城塞から伝令の騎兵が駆け出すと、どこからともなく腐肉喰(グール)が現われて騎兵に襲い掛かる。


「またかッ!」

「危ないッ!」


伝令の騎兵が落馬した。馬の方も走る足を切られたか…無様に転倒する。やった、生肉が来たぜッ! 歓声を上げる腐肉喰(グール)の叫びが聞こえる様だ。


やはり、籠城して救援を待つより他に手立ては無いのか。物見の兵が慌てて声を上げた。


「司令官殿ッ。あれを見て下さい!!」

「な、なんだ…」


城塞の司令官トゥーリマン中佐が遠見の魔道具を覗くと、巨大な苔の巨人がオグル塚の大迷宮の瓦礫を押し上げて立ち上がり進撃を開始した。真っ直ぐにこちらへ向かっている!?


帝国軍の駐屯兵団と城塞は緊急事態を迎えた。





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