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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十八章 魔王の季節
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ep230 英雄の名の下に

ep230 英雄の名の下に





 霧の国イルムドフの王都へ帝国軍の騎兵隊が帰還した。彼らは帝国軍の精鋭で北部平原を縄張りとする野生のグリフォンの討伐作戦に参加していた。


騎兵隊の指揮官は英雄の末裔としても有名なシグルバルト卿である。騎士たちは統制された連続突撃で北門に集結した亡者の群れを突破し蹂躙し追い散らした。こうして堂々と北門から王都イルムドフの街へ入城したのだ。


「あれが、シグルバルト卿だぜッ」

「きゃー騎士様っ◇(ハート)!」

「…あぁ、凛々しいお姿よ…」

「…帝国軍にも立派なお方が…」


街の大通りは人集りに歓声をもって市民に迎えられた。英雄の凱旋パレードか。


「王都の人心は荒れておると聞いたがッ?」

「驚くべき、熱狂ぶりですなぁ」

「卿の美貌の故ですか…」


隊の副官らが隊長の人気を評する。未だこの地を帝国軍が占領してから、ひと月も経たないと言うにシグルバルト卿の人気はうなぎ登りだ。


英雄の凱旋パレードは王宮まで長く続いた。熱狂し大通りに溢れた市民が隊士の通行の妨げとなり行軍に支障を来たした為だ。王都の警備も兵士の人手が不足と見える。


式典官が英雄の来訪を告げる。


「シグルバルト卿以下、討伐隊が帰還いたしました」

「うむ。ご苦労」


王宮の謁見の間に占領軍の総司令官オストワルド伯爵が出迎えた。


「この度は、魔獣グリフォン討伐の任を完遂せずに、帰還した事をお詫び申し上げます」

「よい。卿の判断に誤りは無い。…むしろ王都の不手際であろう。戦傷を癒すが良い」


「勿体なきお言葉に感謝いたします」


隊の副官からグリフォン討伐の経過報告がなされても些末な事だろう。騎兵隊の活躍は目覚ましい物だが、肝心の魔獣グリフォンは討ち取れていない。


「決め手に欠けると申すか?」

「はい。残念ながら…」


現状の戦術では魔獣グリフォンに手傷を負わせて追い払う事は出来るが、上空へ逃げられては手出しも出来ない。この上は魔獣グリフォンが地上へ降りる寝込みを襲う他には討伐する方法も無いと思える。


「引き続き、魔獣グリフォンの討伐を任せる。王都の技術士官と策を相談せよッ」

「はっ、承りまして候」


騎兵隊の面々は王宮の謁見の間を辞した。総司令官オストワルド伯爵が懸案を尋ねる。


「して、北門に集結した亡者の群れはどうなったか?」

「騎士隊の働きに追い散らして、個別の集団が郊外の農村を襲う様子です」


副官の返答は想定内の被害だ。王都に残された帝国軍の兵力にも再配置を指示する。


「ふむ。王都の守備隊の一部を掃討に当らせよッ」

「街の守備が手薄になりますが…」


「なぁに、英雄殿の休暇中に王都を襲撃する馬鹿もおるまいて」

「ははっ…」


それは、総司令官オストワルド伯爵の冗談だろうか。副官もいまいち笑い所が掴めない様子だ。




◆◇◇◆◇




地下も深い暗く深淵の中に薄ぼんやりと明りが灯り、装飾された岩壁に整列する魔獣の群れがちらと見えた。魔力の渦巻きと圧倒する魔性の気配も濃厚で足元も上下の感覚も見失いそうだ。


◇ (あたし神鳥(かんとり)ピヨ子はオグル塚の大迷宮の(ぬし)、魔王と相対していた。復活した魔王の威圧に、あたしの体も震えそうになるわ)


「鳥女かッ、随分と縮んだ様子だが…今度のご主人はお前を愛しておらぬと見える」


◇ (何を言っているのかしら、あたしとご主人様(マキト)はラブ◇ラブ◇なんだからッ)


「ふん。お前の事情はどうでもよい。わざわざ会いに来た用件を申せッ」


◇ (亡者どもを撒き散らすのは、止めてくれないかしらッ)


ピヨ子は無駄話を切り上げて単刀直入に切り込んだ。魔王の応えは素っ気もないと見えたが、


「ならぬッ……この地には亡者の嘆きが溢れておる。大方に都市のひとつも滅んだ様子かッ」


続いた魔王の話は、かつてオグル塚の大迷宮の上層にあった迷宮都市の滅亡を言い当てている。多くの人命が失われた大災害だった。


◇ (それは…あんたの迷宮(ダンジョン)が元凶でしょ!とは、あたしも言えないのよ。だって…)


「この地に都市を築いたのは人族の勝手であろうが、くくくっ、詰めが甘い者よのぉ」


魔王があざ笑う。その顔は生きるのに飽きて享楽を求める魔人の狂気だ。


「心配をするなッ。我が亡者どもを率いてこの世界も滅ぼしてくれようぞッ」


岩壁に整列した魔獣の群れが一斉に咆哮した。


-GYABOHFOWOOOW-


迷宮(ダンジョン)が鳴動する。


◇ (あたし神鳥(かんとり)ピヨ子は魔王を止める事も出来ないッ)




◆◇◇◆◇




南の開拓村(マキト・タルタドフ)に珍しいお客が来訪した。森の人が淑女の礼を取って挨拶する。


「親善大使として任命されました。ステシマネフ・ルーデインと申します。お見知りおきを」

「ルーデイン殿?」


見覚えのある顔をした森の人はマキトにピヨ子…神鳥(かんとり)の卵…を託した本人で、当時から姿も変わっていない。


「はい。私は殿下の血筋の末席にて、既に継承権もはく奪された身でございます」

「親善大使と言うのは?」


記憶によると彼女は大森林の無限牢獄に幽閉されていたと思うが、罪を許されて釈放されたと言う事か。親善大使は人族の街を廻り商談と外交活動をしていると言う。


「これに御座います。継承者殿」

「ほほう…」


商品の説明だろう、それは光輝く程に魔力が詰め込まれた魔晶石だ。光に目を奪われるも気になる事を言う。


「継承者殿と言うのは止めてくれ。マキトと呼んでくれると助かる」

「はい、マキト様は神鳥(かんとり)を連れて、継承権の第七位を保有しております」


「なんだって!」


森の人ステシマネフの話では、神鳥(かんとり)の卵を孵えした者に大森林の森の人を率いる王の継承権が発生すると言う。


神鳥(かんとり)様のお姿が見えませんが?」

「あぁ、ピヨ子には自由にさせているのさ」


「なるほど、神鳥(かんとり)様は…これより北西の地に御出での様ですね」

「むっ!…」


どうやら、森の人ステシマネフには神鳥(かんとり)のピヨ子の居場所が分かるらしい。どんな仕掛けがあるのか興味も尽きない。


マキトは親善大使の滞在を許可した。




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