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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十八章 魔王の季節
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ep229 狩りと王都の守り

ep229 狩りと王都の守り





 王都イルムドフの城壁に阻まれた亡者の群れは町の精気に惹き付けられて北門に集結したが、一部はイルムドフの郊外へ拡散した。王都を囲む長大な城壁も郊外の農村地域には及ばない。


郊外の農村地域では刈り入れを済ませた小麦や大麦の畑が広がり見晴らしは良い。そこへ亡者の群れが辿り着いても発見は容易だった。王都の冒険者ギルドは腐肉喰(グール)狩りを推奨するように懸賞金を掲げた。賞金には普段から準備した緊急資金が充てられる。


「がはは、俺様は三体も()ったぜッ」

「ワシは四体じゃ!」

「…我もわれも…」


腕自慢の冒険者が狩りの成果を披露する。


「しかし、腐肉喰(グール)の魔石がこれじゃ儲けも少ない」

「なぁに、懸賞金があらぁなッ!」


腐肉喰(グール)から採取される魔石は黒く濁り低級品だが、特別に加算された懸賞金は彼らの意欲を引き出した。


「おっ、そこの姉さん。俺たちと組まねーか?」

「あら、あなた達の腕前はどうかしら…」


豹柄の獣人キャロル姉さんは冒険者の男に呼び止められた。どうせナンパだろうが、これで六人目である。男たちはドヤ顔で、腐肉喰(グール)討伐の証しである黒い魔石を披露した。


「どうでぇ~」

「ふっ、そんな者かしらッ」


拳闘士風の姉妹が示したのは二十個余りの魔石だ。男たちを合計しても遠く及ばない。


「くっ…」

「…独り頭でも十体は下るまい…」

「…どちらが、凄腕だッ?…」

「…いや、二人ともやべぇ…」


冒険者の男たちに称賛の眼で見られるのも悪くはないが、常に男たちの注目を浴びるのは豹柄の獣人キャロル姉さんである。猫顔の獣人ミーナは少し不満だ。


「ふん。あたいらに声を掛けるたぁ、百年はやいニャ!」

「っ!」


実力の世界にはぐうの音も無い。猫顔の獣人ミーナは不満の矛先を男たちにぶつけて、颯爽と冒険者ギルドを後にした。




◆◇◇◆◇




亡者の群れが王都イルムドフを襲撃したという知らせは地方都市にも伝えられた。ユミルフの町を支配する軍令様が怒鳴る。


「それで、王都は大混乱と言う訳かッ?」

「いえ。北門を固く閉ざし、城壁にて防戦の構えです」


城壁に囲まれた王都に被害は無いらしい。混乱に乗じて王都へ乗り込むのも手かと考えたが思い直す。


「ふん。つまらん争いも無しか…」

「…?」


伝令の兵士はユミルフの町を支配する武官の質問の意図が掴めず困惑した。軍令様が思案する様子に悪い知らせは続く。


「お頭ッ、丸出しのハンスが()られた!」

「馬鹿野郎っ、軍令様と呼べ!」


まったく、こいつらは盗賊団の気分が抜けないと見える。帝国軍の軍事訓練に再教育が必要と思う。


「…軍令様よぉ。どうするねん?」

「ハンスの敵は取るッ!」


部下の話ではハンスが下半身を丸出しにして逃げ帰ったのが三日前、その後に行方を眩ませたハンスの死体が発見されたと言う。最近はユミルフの町の周辺で狐顔の獣人が集団で帝国兵を襲うと言う事件も報告されているのだ。奴らの仕業に違い無い。


帝国軍の支配に抵抗する反逆者どもには、痛い目を見せてやろう。




◆◇◇◆◇




一羽の猛禽が王都イルムドフの上空を飛行したていた。帝国軍の占領政策も未だに行き届かず王都の治安も悪化するばかりだ。最近は食糧を求めてか野鳥を狙い狩猟をする者も多い。猛禽は弓矢を避けるように高空を飛ぶ。


◇ (あたし神鳥(かんとり)のピヨ子は速度を上げた。神鳥(かんとり)魔法…【神鳥(ゴッド)加速(スピード)】)


高空から見下ろした王都イルムドフの北門は黒い魔力が感じられる軍勢が押し寄せて、その軍勢から千切れた浮浪雲の様な部隊がバラバラと周辺の農村地帯へ浸透して行くのが見えた。


こうして見ると王都の守りも鉄壁とは言えず、人知れずに王都の街並みへ侵入する黒い影も散見される。


◇ (これは厄介な事になりそうだわ。あたしは先を急ぐ。黒い軍勢の足跡は魔力感知を使わずとも北方へ延びているのは明白だ。…それに、この先には…)


こんな、異変の原因となる物はオグル塚の大迷宮の他には思い当らない。


ピヨ子は目的地へと翼を漕いだ。




◆◇◇◆◇




金赤毛の獣人ファガンヌは山岳地帯に降り立ち、黒毛のグリフォンを優しく撫でた。…致命傷は無いらしい。


「GUUQ 随分とやられた者よのぉ…【癒手】」

「GUUQ Kukaku kaku」


黒毛で古兵の風格のグリフォンの体は傷付き、生きているのが不思議な程の傷の多さだ。ファガンヌの治療魔法が体に沁みる。金赤毛の獣人ファガンヌはこの魔法のおかげで野生のグリフォンたちに女神と崇められていた。


治療の間に黒毛のグリフォンが語る内容は人族の軍勢との壮絶な戦いの物語で、劣勢に押されて山岳地帯に押し込められたらしい。ところが、突然に人族の軍勢が引き揚げたと言う。


「GUUQ お前たちも善戦したのだなッ…【癒手】」

「GUUQ kawaw」


ファガンヌの治療魔法に陶酔した表情を見せるのは、白毛交じりに乙女の様な細身のグリフォンだ。普段は颯爽と飛ぶその姿からは想像も出来ない痴態を見せる。


「GUUQ ほれ、お前も近う来いッ…【癒手】」

「Qッ!…」


緊張に身を固くするのは黄毛混じりの小僧だ。小柄で軽快な翼も緊張に震えた。


残りの二体は意地を張ってかファガンヌの治療を拒んだ。葦毛も赤毛も本来の精悍な顔付きと挑戦的な顔付きは衰えていない。この群れが無事に生き延びたのは彼らの働きに依る所が大きいと思える。


「GUUQ 可愛いやつらよノ 褒美を遣わすぞッ」

「GUッ!…」

「GUっ!…」


グリフォンの女神ファガンヌが放り投げた肉塊は極上の味わいだ。胃の腑の底から滋養を感じる。残りの肉塊も傷付いた野生のグリフォンに与えると女神は宣言した。


「GUUQ 失地を挽回するぞッ!」


珍しく金赤毛の獣人ファガンヌは多弁であった。





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