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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十八章 魔王の季節
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ep226 戦略物資の価値

ep226 戦略物資の価値





 コボンの地のガイアっ()から届いた土塊と見える粒粒は下級な土の精霊を封じた物で精霊石と呼称する。簡単な魔法回路を作成して土の精霊石へ魔力を流す通すと餌を強請る様にくるくると鳴動した。あくまでも石に封じられた下級精霊が蠢くと見える反応だが、精霊には他の精霊との相性があり土の精霊は火熱を好み、水気を嫌い、風には無反応な様子が観測される。ガイアっ()の証言とも一致する結果を得た。このままでも感知系の部品が製作出来るだろう。


早速に土の精霊石を組み込んだ観測器を作成した。これを対象へ向けると相手の熱気と乾燥具合が分かる。試しに戸外へ干した洗濯物と濡れ雑巾へ向けて反応の違いを確かめる。


「ご主人様。何をなさっているのですか?」

「はっ、洗濯物の検分さッ」


女中(メイド)頭の咎める様な視線にドギマギしつつマキトは応えた。


「殿方が、ご婦人の下着にご興味など…」

「あっ、いや、違うこれはッ!」


マキトは慌てて退散するしかない。誤解は後で丁寧に説明するとしよう。


屋敷を逃げ出しても観測器は手放さず、マキトは郊外の農地へ向かった。試験栽培した野菜に観測器を向けると違った反応が見られる。


「おんや、村長さっ、何をしよるべぇ~」

「ゴブオさん。新しい魔道具の試験ですよ」


扁平した蛙顔は温厚な子鬼(ゴブリン)の賢者ゴブオさんだ。今日も農作業に精を出している。


「ほほう。野菜の善し悪しが分かるべかッ?」

「熟れ頃の反応は顕著ですねぇ」


こう見えても子鬼(ゴブリン)の賢者ゴブオさんは知的な会話も楽しむ。野菜の栽培をする子鬼(ゴブリン)と言うのも稀有な存在だろう。


そこへ氷の魔女メルティナが現われた。


「マキト様。探しましてよッ」

「きゃっ! 氷の魔女ッ$%&……」


子鬼(ゴブリン)の賢者ゴブオさんの悲鳴を無視して、メルティナ嬢がマキトの腕を取る。心なしか表情も柔らかい気がする。じょじょーと水漏れに観測器が反応した様子だ。賢者ゴブオさんがお漏らししたらしい。…そこが畑の中で不幸中の幸いだ。


氷の魔女の名は昔の悪行の所為で子鬼(ゴブリン)たちに恐れられていたが、賢者ゴブオさんもそこまで恐怖する物なのか。


「…あの氷の魔女を手懐けるとはッ、村長さっも、$%&、恐ろしいぺぇ……」


賢者ゴブオさんの呟きは最後まで聞き取れなかった。




◆◇◇◆◇




城塞の司令官トゥーリマン中佐は苛立ちを隠せない。


「補給が滞るなど、大事であるぞッ」

「如何ともし難く…」


叱責をうける副官の表情も冴えない。


「司令部はこの城塞の価値を理解しておらぬか?…至急に、砦の備蓄品を確認せよッ」

「はっ!」


補給の状況は芳しく無い。捕虜の大半をオグル塚へ移送して食糧には猶予を得たが、戦いに消耗した武器と防具の修理に手間取っていた。奴隷の首輪などという余計な消耗品の調達に人員を割いた影響が思わしくない。副官の報告は続く。


「…でありまして、鍛冶場の燃料に使う火の魔石が不足しております」

「代用は効かぬか?」


火の魔石は粉末にして鍛冶仕事の添加材に使うと言う。火力と熱量を上げるには最適らしい。それも戦乱で流通が止まっている。


「新しく大容量の魔晶石を使用する方法もありますが、イルムドフ領内の取引が滞る様子では…」

「ふむ。魔晶石の確保を優先せよッ」


最近は火の魔石の高騰もあり、燃やして使うには貴重となった。代わりに大容量の魔晶石から魔力を取り出して火魔法に使う方法がある。


「はっ!」


副官が動き出した。食糧も武器も魔石の確保も戦略物資のひとつだ。




◆◇◇◆◇




オグル塚の大迷宮では人族の魂を大量に得て魔物が活性化していた。


「十二番から十六番を開放。…押し出せッ!」

「御意ィ」


どどどどどっ亡者の群れを迷宮(ダンジョン)から排出した。既に腹いっぱいに肉を喰らった魔物は残飯処理には使えない。腐肉の処分には腐肉が自分で歩いて行くとしよう。


「魔王様。どちらへ?」

「視察だッ」


迷宮(ダンジョン)の管理官が魔王の姿を目聡く見つけて後を追う。迷宮(ダンジョン)に捧げられた魂の総量は豊富で当面の活動には困らない。以前の部下を呼び戻して迷宮(ダンジョン)の管理に当らせている。こいつも、その中の一体であるが何かと纏わり付くのは面倒でもある。


視察先は迷宮(ダンジョン)の中にある地底湖で、湖畔には見知った水棲部族の祭壇があり、魔王の神像が祭られている。それは手入れする者も無く、今は滅びた部族の廃墟と見える。


海妖精(セイレーン)!」

「…御身の御前に♪」


半人半魚の美女が湖面から姿を見せた。この地底湖は海まで繋がっているのか。


「残ったのはお前だけか、久しぶりに歌を聞かせてくれッ」

「はい。喜んで♪」


その歌声は人も魔獣も惑わして海へ引き込むと言う。歌の効力は魔王とて例外も無くコクリコクリと魔王は船を漕ぎ始める。ぼちゃんとお付きの者が湖面に落ちた。


「はっ、毎度の事ながら心地よい響きよの」

「勿体なきお言葉に御座います♪」


魔王はひと時の平安を得た。




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