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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十八章 魔王の季節
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ep225 意外な贈り物

ep225 意外な贈り物





 開拓村(マキト・タルタドフ)の屋敷へ急報が入った。


「村長。大変だぜッ、魔蟻だ!」

「魔蟻ぃ!?」


タルタドフでは珍しい魔物の蟻だ。地下深い迷宮(ダンジョン)などには生息しているが、自然界の魔物の生態には謎が多い。


現場に町の自警団が駆け付けると大型犬の体躯に勝る巨大な蟻が荷駄を乗せて現われた。マキト村は魔蟻の頭部に刻印された紋様を見て大凡の事態を理解した。


「待てッ、北方の使いだ」

「っ!?」


見覚えのある紋様は迷宮(ダンジョン)(ぬし)ガイアっ()アッコの刻印だ。はるばる北方のコボンの大迷宮から這い出て来たらしい。マキトらが荷駄を引き降ろすと魔蟻はガチガチと牙を鳴らした。


「手紙がある。……」


それは飼い慣らされた魔蟻で、ガイアっ()の指令に従いマキトの領地へ送られた。荷駄の中身は土塊に見えて使用方法が手紙に記載されていた。この魔蟻は幸運にも道中で魔物の討伐に合わなかったらしい。


マキトはガイアっ()からの贈り物を手に入れた。


………



魔蟻はマキトの魔力を与えると言う事を聞く様で、屋敷へ連れて帰り本格的に調査をした。通常の魔蟻は固い甲殻に覆われて毒のある牙を持つ。武装した兵士でも三人掛かりで包囲し殲滅するべき強敵だ。固い甲殻を貫く武装が無ければ逃げる方が良いと言うのが冒険者の常識である。そんな魔蟻でも魔法の火と氷による熱攻撃には弱くて討伐する事も可能だ。


比較的に基本性能が高い魔蟻にしても凶暴な性質で、ところ構わず噛みたがる。マキトが体躯を調査する間もガチガチと牙を噛み鳴らすのは野生の本能だろう。


「それにしても、この刻印だなッ」


魔蟻の頭部の刻印とガイアっ()の手紙で分かる事は、この蟻の頭部に土の精霊を埋め込んで操作しているらしい。…えげつない方法を考えるものだ。


「こいつに感情があれば、無理やりに操縦されていると言う事かぁ」


まぁ、感情も無くて本能のままに餌を漁り巣に持ち帰るのは種族の性だろうか。未だに魔蟻の女王は見た事もない。


「問題はこの荷物……」


土塊と見える粒粒は下級な土の精霊を封じた物で、同族とは言えガイアっ()も大胆な事をしやがる。そもそも同族意識があるのかも謎だ。


「西風の…どう思う?」

「…土のやる事は分からぬッ…大方はお主に媚を売っておるのじゃ…」


マキトは西風の精霊の護符をにぎり語りかけた。念話の要領にも慣れたと思う。


「うーむ。半年も離れて暮らすと恋しくなったか?」

「…お主の魔力を狙ておるだけよのぉ…」


「ふむふむ。可愛いヤツめッ」

「…土を可愛いと評するのは同意せぬが、これを贈る意図は明白じゃよ…」


マキトは照れ隠しに叫ぶ。おーぃ、マキト村長の様子がおかしいぞ。


「はっ、戦に使えという事かッ!」

「…何じゃぁ、気付いておろう…土の心遣いと言うものじゃ…」


「ふっ。余計なお世話だッ」

「…」


西風の精霊の念話は他人には聞こえない。魔蟻を可愛いと言うマキト村長の言行は変人だろう。




◆◇◇◆◇




帝国軍が駐屯する城塞の周辺で捕縛されたイルムドフの兵士は、大した取り調べも裁判も無しに奴隷首輪を付けられて、オグル塚の大迷宮へ放り込まれた。奴隷の首輪とその筋の専門職である奴隷商人が扱う魔法は呪いと似た契約魔法の派生で、呪いの対象者の精神を縛り逃亡と反逆の意志を挫く。彼らは武装も無しに迷宮(ダンジョン)へ放置された。…運が良ければ生き長らえるだろうか。


オグル塚の大迷宮は迷宮(ダンジョン)(ぬし)が死滅して、枯れた迷宮(ダンジョン)と思われていたが、最近は復活の兆しか魔物の発生も活発化している。城塞に駐屯する帝国軍の任務のひとつには迷宮(ダンジョン)の討伐も含まれて、定期的にオグル塚の大迷宮の魔物を駆除する必要がある。最近では迷宮都市がひとつ丸ごとに滅びたばかりだ。そんな復活が噂される迷宮(ダンジョン)に多くの人命が捧げられたのだ。


これは迷宮(ダンジョン)への贈り物とばかりに魔物も活性化して元イルムドフの兵士たちを襲う。それは阿鼻叫喚の地獄絵図にして脱出不可能な奴隷の呪い付きの亡者の群れだ。迷宮(ダンジョン)の魔物は存分に人族の魂を喰らった。…帝国軍の捕虜に対する処置は最悪である。


「くかかかっ、我の眠りを妨げるのは何者かッ!」

「魔王様っ!!!」


いとも簡単にオグル塚の大迷宮の魔王が復活した。生贄に捧げられた人族の魂の数は魔王の復活に十分らしい。寝惚け顔にもピチピチの玉の肌をした美形の魔族と見える。迷宮(ダンジョン)(ぬし)でなければ、今すぐにも飛び立ちそうな蝙蝠の翼と牛角を具えている。


淫魔(サッキュバス)、お前が一番乗りとは意外だ…」

「んんっ、まぁ。非道ぃお言葉でございますわッ◇(ハート)!」


普段は人族の町で暗躍する淫魔が迷宮(ダンジョン)に居る事は珍しい。生前であれば、配下の中でも最後に駆け付ける者だった。魔王の指摘にも愛を振りまく姿は生前と変わらぬ。丁度よく迷宮(ダンジョン)に落ちた人族の男どもを喰らいに来たとは口が裂けても言えない。


「おぉ、ネトネトか。よく来たッ」


-GOUZOU-


唸りを発するのは魔王がお気に入りの太古のスライムで、寝起きにはコイツを使うと決めている。


「良し。お前も来いッ」

「きゃっ◇(ハート)!」


魔王は片手に淫魔を捕えてスライム風呂に浸かった。ゴシゴシと淫魔を使い体を洗う。ピチピチの玉の肌はテカテカと輝きを増す。


「ぷはぁ。やはり、起き抜けはコイツに限るぜッ」

「あぁん◇(ハート)~あぁん◇(ハート)~」


若い外見に似合わず、朝風呂を楽しむ魔王の様子は親爺臭い。淫魔は復活した魔王のお世話が出来て幸せに見える。


あーあ、魔王が復活しちゃったよ。ピヨ子の苦労も水の泡じゃん。どうすんだよコレ…帝国軍のバカッ!





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