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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十七章 霧の国イルムドフの落日
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ep222 タルタドフの村長

ep222 タルタドフの村長





 僕らは全力でタルタドフの領地へ帰還した。タルタドフの南の開拓村(マキト・タルタドフ)は荒野から起こした村で愛着も深い。その開拓村へも既に帝国軍の兵士が送り込まれていた。占領地の政策も面倒なものに思える。


「マキト村長、大変です。帝国兵がッ!」

「どうした!?」


顔見知りの村人の知らせで旧市街にあたる一番区へ向かう。その近辺は酒場と娼館を含む歓楽街で河トロルが運営する湯屋もあった。どうやら帝国軍の兵士が娼館を占拠しているらしい。


「むははははっ、こんな田舎に町があるとはッ」

「俺たちは当りだぜっ…」

「おい、追加の酒を持って来い…」


既に出来上がった帝国兵の団体が盛り上がっている。


「ちっ、こちとら…イルムドフの防衛軍が不甲斐ない所為で…祭も出来やしないッ」

「しっ、姉さん。聞こえますよ…」


アアルルノルド帝国の軍勢は秋の収穫の直後を狙ったように霧の国イルムドフへ攻め入った。王都イルムドフでは収穫祭の準備も出来ずに防衛と戦禍からの避難に追われた。周辺の町や村では農作物の収穫を終えて祭を始める時期に帝国軍の襲来を知ったのだ。既に秋も深い。


「おい、そこの女。相手をしろッ」

「は~い。旦那様っ◇(ハート)」


媚を売るのも接客の為だ。娼館を訪れて代金を払う客は誰であれ上客だ。娼館に来ても安酒を要求するのは良い方で、商品である女を傷つける者は許容できない。


「ふんふんふんっ、俺様の槍を受けて見よッ!」

「あん。痛ぁ~いぃ」


戯れに武技を見せるのも興行としては面白いか。店に客が入るうちは未だ良い方だろう。


………



歓楽街から南へ下り場末の民家で狼藉を働く者があった。


「ぐふふ、大人しくしやがれッ」

「きゃあ!」


帝国軍の軍装を見せれば、傍若無人な振る舞いも許される。町の自警団は遠巻きに取り囲むばかりで手出しも出来ないのだ。若い娘には不幸な運命だろう。


「帝国兵に告ぐ。狼藉は許さぬぞッ!」

「あぁ、村長さまっ」


僕は警告を発した。盗賊の頭かと見える帝国軍の兵士が怒声を発する。


「貴様ッ、何者だ!」

「マキト・クロホメロス。この村を皇帝陛下から預かる者だ」


この地は現在もアアルルノルド帝国の任命領主と法が支配する領地だ。


「なにぃ……」

「文句があもなら、王都の司令部まで出頭して貰うッ」


ぎりぎりと歯を噛み鳴らす。


「…くっ、若造が…文句はねーよ。引き上げるぞ、こらッ」

「ひぃ、痛てぇ!」


若年の兵士を蹴り飛ばして盗賊の頭は撤退した。


………



武技を振るう兵士も大酒呑みも姉さんの性技の前には完敗の様子だ。精根を絞られて昇天したらしい。屍の骨を拾う者も居ない。


「リンダ姉さん。お疲れ様っ」

「ふん。だらしない……帝国軍の質も落ちたものだねぇ」


娼婦のリンダリンは大人の色香を見せて水割りを飲んだ。所詮は安酒だ。


「王都の娼館なら少しはマシでしょうけど」

「いまさら、戻るつもりは無いわ」


グラスの氷が音を立てて崩れた。マキト村長が製作したと言う魔道具の氷作製器は良い仕事をする。


「余計なお世話かも知れませんが…」

「ふんっ。店長も人が悪い」


娼婦のリンダリンに鼻で笑われては説得の意味も無い。店長は氷作製器の上部で沸かされた苦い茶を飲んだ。眠気が覚める香ばしさだろう。


この店の夜は長い。店内で討死から生還した帝国兵が再起動を始めた。まるで屍使いの如しと夢想する。


「リンダ。良かったぜッ…また来る」

「毎度おおきにぃ~◇(ハート)」


愛想も忘れず、常連客を見送るのは娼婦の務めだ。帝国軍が撤収すれば、いつもの客足も戻るだろう。


………



僕は町の揉め事をいくつか仲裁して屋敷へ帰還した。屋敷の警護はメイド隊を主力として隠し強面の兵士が門を守る。先に屋敷へ入ったサリアニア侯爵姫の指揮も行き届いたと見える。


「ボス。お疲れ様にございます!」

「慣れない挨拶は、止めてくれ」


門衛は顔を見知った強面の兵士で、元は山賊の手下だろう。屋敷に入るとサリアニア侯爵姫とお付きの者が出迎えた。どちらが屋敷の主人か分からない。


「婿殿か、手間をかけたなッ」

「河トロルの護衛の姿が見えませんが、どうした訳ですかね?」


僕は懸念を尋ねた。街の歓楽街の先には沼地があり河トロルの草庵が立ち並ぶ。普段ならば河トロルで賑わう湯屋にも彼らの姿は無かった。


「帝国軍の獣人に対する扱いは酷い。争いを避けて姿を隠したのであろう」

「メルティナ!」


遅れて氷の魔女メルティナが姿を見せた。普段のドレスではなく魔女装束なのは戦闘服か。


「マキト様。無事のご帰還にお慶びを申し上げます」

「うむ。留守中に変りは無いかい?」


僕の問いにもメルティナは淀みなく答える。


「帝国軍の狼藉による揉め事の他には、問題もありません」

「それよりも、顔色が優れぬ様子だがッ?」


本人に疲労の色が見える。


「はい、申し訳ありません…」

「部屋で休んでおれよ」


僕は優しく指示をするのだが、


「…」


氷の魔女メルティナは無言で引き下がった。





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