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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十七章 霧の国イルムドフの落日
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ep221 領地を目前にして

ep221 領地を目前にして





 王都イルムドフで帝国軍への対外的な挨拶を済ませた後に、僕らはタルタドフの領地へ向かった。王都から地方へ向かう街道は酷く荷駄を引き回した様子の轍の跡が目立ち、避難時の混乱ぶりが思いやられた。


ごとごとと揺れる馬車がイルムドフ郊外の農地に差し掛かると、前方に煙が見えた。


「姫様。前方に煙が見えますッ」


「火事か!?」

「いや。焼き討ちであろう」


サリアニア侯爵姫の見立てでは農園の家屋が燃えており、収穫したばかりと見える穀物の袋を担ぎ出す兵士の姿があった。


「そこの者、何事だッ?」

「へいっ。反逆者の捜索だとか…」


女騎士ジュリアが農民風の男に尋ねると、騒動の輪の中心から帝国軍の軍装をした兵士が人だかりを割って姿を見せた。どうやら捜索の収穫があったらしい。


「こいつは、証拠品として押収するぜッ」

「…」


未だに燃える家屋の消化活動もせねばなるまい。農民たちは不安な顔を見合わせた。穀物の袋を盗られても女子供を取られるよりはマシと思える。


帝国軍が狼藉を働いたのか、反逆者が家屋に火を放ったのか状況だけでは判然としない。証拠品と言うものの、穀物の袋を担いた帝国軍の兵士らは堂々と盗みを働いて去って行く。


「くっ…」

「婿殿、こらえよ。大事の前の小事であるぞッ」


僕は帝国軍の所行に腹を立てて兵士を睨み付けるが、そんな視線にも慣れた様子にニヤついた兵士の顔が記憶に残った。農民風情が何もできまいと見下しているのだ。


「急げッ、火を消すぞ! 特大の…【容器】【圧縮】」


僕は怒りに任せて魔力を注ぎ、特大の容器を仮設して燃える屋根を包み火勢ごと圧力をかけた。火災の煙と圧力に耐えかねて容器が爆発する。


-BOMF-


爆発で屋根が吹き飛び火災も沈静化した。


「怪我人を運びだせ、早くしろッ!」

「お、おぅ!」


僕は爆発に怯む男衆を叱責して火災現場に踏み込んだ。助けられた怪我人と焼死体はこの家の住民らしい。




◆◇◇◆◇




王都イルムドフの中央広場の付近では火災が発生していた。どうやら不審火の様子で火災を消し止めた帝国兵が右往左往している。広場の近隣にあった劇場もクロウ商会の建物も今は帝国軍に接収されて兵士の宿舎となっている。


火災では中央広場に集積した物資の一部と穀物などの湿気に弱い食糧を保管した建物が被害を受けた。火災を消し止めても水に濡れた穀物は品質が落ちる。街の住民は中央広場を遠巻きに眺めるばかりだ。


街の各所には帝国軍の検問所が設置さて通りを行く住民の検査が行われている。不審火の犯人を捜しているのだろう。


「いつも、こんなに厳しいのかニャン?」

「あぁ、帝国軍に占領されてから、毎日のことさぁ」


猫顔の獣人ミーナが尋ねるのは街の見知らぬ男だ。


「市場の買い物も大変だにゃぁ~」

「気ぃ付けにゃ、あっ!」


いつの間にかミーナの口癖が移り男は赤面する。猫顔の獣人ミーナは港の市場へ向かった。


港には漁船が入り始めたものの新鮮な魚介類は少ない。食糧補給のためにも漁師たちは仕事に励んでもらいたい。市場の活気は低調な様子にがっかり肩を落とす猫顔の獣人ミーナがいた。




◆◇◇◆◇




タルタドフの領地を目前に、付近の開拓村の中心としてユミルフの町がある。ユミルフの町は完全に帝国軍の支配下に置かれていた。ユミルフの町を警護していた騎兵も兵士も消え去り、王都イルムドフから地方の田舎町へと帝国軍の占領政策は進められている様子だ。


「マキト・クロホメロス男爵様。無事のご帰還をお慶び申し上げます」

「うむ…」


ユミルフの町の役人は帝国軍の支配にも慣れた様子で従順に従う。


「今度の太守様は寛大なお方で、我々もこうして働いております」

「そうか、貴殿も無事で何よりだ」


何度か顔を見た男だが、なんと名乗った者か。僕が自分の記憶を検索していると豪快笑いをする男が現われた。…帝国軍の内部で流行しているのだろうか。


「げばはははっ、俺様がこの方面の軍令だッ」

「!…」


軍令とは「軍の命令」ないし「軍の司令部」の事と思われるが、この男が軍令とは何かの間違いだろう。僕の顔色には不信感が現われても…


「この町は俺様が取り仕切る。文句は王都の司令部に聞けやッ!」


高らかに宣告するのは占領軍の横暴か。ユミルフの町は軍令様の支配下に置かれた。


………


僕らはユミルフの町の実効支配を逃れてタルタドフの領地へ帰還した。本来のタルタドフにはいくつかの開拓村があり、王都に最も近いこの村がタルタドフと呼ばれていた。ところが領主が交代した所為か中心地の地位は南の開拓村(マキト・タルタドフ)に奪われている。閑散として発展の無い農村にも帝国軍の部隊が送り込まれていた。


部隊は少数にして中隊規模だろうか。修復された村長宅は広さも手ごろな村の集会所として利用されていたが、今は帝国軍の兵士に占拠されて村人が歓待している最中だ。


「げふはははっ、茶なぞ飲めるかッ。酒だっ酒を持って来い!」

「隊長。我らは貧乏くじですなッ」


帝国軍の隊長様の要求に酒席が設けられるも、美人の女は見当たらない。若い隊員が不満を述べた。


「おぅ。こんな田舎じゃババアと子供しか居ねぇ」

「ぐふふっ、若い男も良いものですょ…」


中年で好色そうな男は危険な趣味に目覚めていた。帝国軍の隊長様は顰め面にも諦め顔だ。


「おぃ、ハンス。程々にしておけッ」

「ぐふふふふ…」


聞いちゃ居ない。若い男たちの貞操の危機かも知れない。村では年頃の娘と美人の女は子供を連れて森へ避難していた。派遣部隊が村を去るまでの辛抱と思う。


それでも、僕らは村の試練を超えて南の開拓村(マキト・タルタドフ)へ急いだ。





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