表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十七章 霧の国イルムドフの落日
238/365

ep219 戦禍は野に放たれた

ep219 戦禍は野に放たれた





 霧の国イルムドフの北部平原に侵攻したアアルルノルド帝国の軍勢に対して、イルムドフの防衛軍は王都の手前に防御陣地を張り徹底抗戦の構えを見せたが、初戦の戦闘で脆くも防衛線は崩壊した。一部の離反した防衛隊が王都へ撤退するのに乗じ、帝国軍も突出して王都へ流れ込むと街は大混乱となった。


帝国軍の先遣隊となり旧国境の城塞に駐屯する兵団を任されたトゥーリマン中佐はイルムドフの王都陥落の知らせを聞いても動じなかった。戦場の情報伝達は早馬による伝令であり、今頃は王都でも略奪行為が行われているだろう。


「砦の防備を固めよッ。出撃の準備も怠るな」

「はっ」


イルムドフへ派兵された討伐軍の編成は正規軍とは異なり。末端の兵士の質は酷い物である。それでもイルムドフの防衛軍が初戦に敗退したと言うのは内部統制の問題だろうか。帝国軍の内部統制も褒められた物では無い。


「討伐軍からの応援要請は?」

「いいえ。何も…」


同じ帝国軍の軍装を纏っていても討伐軍と城塞の駐屯兵団では指揮系統が異なり、職分を超えた行動は後々に貴族間の問題となる。トゥーリマン中佐は慎重な男であった。


イルムドフの防衛軍が崩壊した今でも残党の兵士は庶民に紛れて破壊活動を行うだろう。霧に紛れた抵抗活動は霧の国イルムドフのお家芸とも言えるのだ。


………



北部平原では狩りが行われていた。


「第一中隊は前面に展開し防戦にッ…第二中隊は側面から騎兵突撃だ。外すなよッ」

「「 おぅ! 」」


各中隊に伝令が駆け出して行く。


「魔導中隊は本陣にて待機、…砲兵中隊は出番だッ。準備しろ!」

「はっ」


本陣では獲物を追い詰める為の作戦が展開されていた。今回の獲物は魔獣グリフォンだ。


-GUUQ Kha!-


甲冑に実を固めた騎士が横陣を形成して突出した。大型の魔獣グリフォンが飛来して馬上の騎士を蹴り落とすも死傷を負う者は無いだろう。騎士たちは訓練された受け身と防御技術で身を守る。


横陣に気を取られた魔獣グリフォンへ第二中隊が突撃した。彼らは数人をひと束にして馬上の槍となる。流石の騎兵隊も無傷では済まないが、魔獣グリフォンに一矢を報いた者は手柄となりて恩賞へ近づくのだ。騎士たちの士気も高い。


「撃ち方、始めッ」


-Bomf Bomf-


砲身を手にした砲兵中隊が攻撃を開始した。通常の砲身を半分にして携帯した乱暴な砲身の造りだが、飛来するグリフォンへの牽制にはなる。砲兵中隊は魔獣グリフォンの群れを分断したと見える。


-GUUQ Kuwa!-


「おらおらおらぁ…【火球】」

「風神は戦禍の色に染まる…【突風】」


魔導中隊も機を見て攻撃を開始した。魔獣グリフォンへの包囲網が縮まると見えたが、


-GUUQ Khyuu!-


魔獣どもは撤退した。我らには上空へ追撃する手段が無くて悔やまれる。


奴らに不利を悟って撤退する知恵があるのは厄介な所だが、山岳地帯への追い込みも作戦の内だ。遠からず討伐できるだろう。


「ふん。我らの勝利だッ」

「「「 おおぉぉお! 」」」


帝国軍は勝鬨を上げた。




◆◇◇◆◇




王都イルムドフは帝国軍に占領された。街の中心に近い広場は帝国軍の物資に占拠されて周辺の建物も兵舎として接収された。イルムドフの貴族議会は逃亡者が多数で街中でも帝国軍による貴族狩りが行われている。


街の住民も商家も戸口を閉ざし略奪に怯えている。街から逃亡した者には追手が差し向けられると言うが、逃げ出す避難先もない住民は身を低くして耐えるしかない。霧の国イルムドフの法は死に帝国の法が施行されるまで街は無法地帯だ。


「げははははっ、打ち壊せッ。女子供も取り逃がすな!」

「!…」


品の悪い兵士でも帝国軍の軍装をしていれば、傍若無人の振る舞いだ。商家を打ちこわし金品を探す姿は盗賊団としか見えない。


「くっ、我慢ならぬッ」

「お待ち下さい! 殿下…」


男装の麗人と見える人物が街の通りに躍り出て、細身の剣で狼藉を働く兵士を突くと、悲鳴を上げて街路に転がる者が多数となった。


「ぎゃっ!」

「…痛てぇ…」

「…何者かッ!」


「ふっ、盗賊に名乗る者はおらぬわッ」


その容姿は王都の劇場で上演された「怪盗物語」の主人公である怪盗モレーメに似て、剣捌きも言動も舞台を思い出させる。


「怪盗様っ!」

「…怪盗モレーメだ…」

「…モレーメ!?」


街の住民には馴染みの役名である。怪盗はど派手な衣装のまま逃げ出した。


「追え!…あの反逆者を捕えよッ」

「へぃ」


いつの間に切られたのか、追手の兵士も手負いの者が多い。


怪盗モレーメは華麗に逃走した。




◆◇◇◆◇




イルムドフの防衛隊が敗退したという報告は開拓村(マキト・タルタドフ)にも知らされた。


「お嬢様。避難して下さい!」

「…ロベルト控えなさい。残った者でマキト様の領地を守らねばなりません」


メルティナお嬢様の従者ロベルトは命を受けてユミルフの町を監督する役人を務めていたが、戦乱の知らせを聞いて主人の元へ帰参した。


ロベルトの行動はユミルフの町の役人としては失格だが、従者としてはメルティナお嬢様の安全の確保が優先される。未だに従者の忠誠を忘れないらしい。


「屋敷の警備と、町の周辺の哨戒をッ」

「はいっ♪」


河トロルの伝令が駆け出して行く。町の周囲の湿地には彼らの哨戒網がある。容易にイルムドフの王都を占領した帝国軍はイルムドフの領土を越えてタルタドフの領地へ迫るだろう。


「お屋敷の防衛には懸念がございます。どうか退避のご準備を…」

「おほほ、それは最後の手段ですわッ」


従者ロベルトは最悪の事態を想定したが、メルティナお嬢様は最善を追及するらしい。


…まだドレスが窮屈な事は無いけれど、この身にはマキト様の御子が宿っているのよ。帝国軍の勝手にはさせないわッ。


領主の留守を預かるメルティナの決意は固い。





--


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ