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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十七章 霧の国イルムドフの落日
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ep214 公衆衛生管理

ep214 公衆衛生管理





 僕は治療院の視察をして領地の現状を憂えた。厨房で倒れたフジェツド老師の失踪には目を瞑るとしても、治療院を訪れる患者の惨状は目を覆うばかりでは解決しない。


治療院の診察も薬代も全額の自己負担の上に薬価は高価なものと、世間の常識に相場は決まっている。そのため軽傷で治療を求める者は少なく重傷化して手遅れになる者が多いのだ。


特に軽傷の擦り傷や切り傷が化膿し、手に負えない程に悪化してからの治療が多い。早めに傷の手当と消毒や化膿止めなどの公衆衛生管理が求められる。


その公衆衛生管理の一環として、新市街に建設した泉の付近の倉庫を買い取り、公衆浴場を開業した。


「ようし、こんな物かッ!」


たぷんたぷんと水車が廻る。空桶が水路から揚水して貯水量も豊富な溜池に水を供給していた。溜池で沈殿し簡易的な濾過装置を通して新市街までの水道へ生活用水を送るのだ。


また、水車の回転軸は小屋の中へ引き込まれて動力を提供し種籾やそば殻を脱穀する為に突く。トコントコンと杵を打つ音が響く水車の動力には問題は無いと見える。その水車小屋へ僕は新たな装置を持ち込んだ。


装置は回転力をそのままに磁石を配し、銅線を鉄心に巻き付けたコイルを内臓した発電機だ。


「ふっふっふ、この為にサルバリム嬢の電撃魔法を利用したのさッ」


僕は独りごちて磁石の周りを確認した。油断をすると磁石が蹉跌に塗れて性能を落とす。ビリッ。


「ぎゃっ!」


油断したか。僕は自分の悲鳴に驚くも感電の原因を探す。どうやら発電機の漏電対策が不十分の様子だった。水車小屋の湿気と発電機の相性は悪い。


少しばかりの失敗にもめげないぜッ。


………



開業した公衆浴場は当然に男女別に区別されて厚い間仕切りで区画されている。どうしても、スミノス工房で特別注文した湯沸かし器は、男女別に二基を用意する事が経費としても難しい。風呂は王侯貴族向けの高級な嗜好品である。


それに風呂釜として大量に薪を燃やすのも問題である。タルタドフの領地では建設資材として木材が不足している。そこで、燃料に薪の火力の補助として魔力を燃やす方法を考案した。公衆浴場に併設した娯楽施設として魔力の測定器を設置している。


「ふんぬっ……どうだ!34MPだぜッ」

「儂に任せるのじゃ……くっ!37MPである」

「ふふふ、あたしの実力を見よッ……49MPよッ!」


「おおぉ~」


物珍しい魔力測定機に力自慢の男衆が集まっている。中には女伊達らに競う者もいる様子だ。


おっかしいなぁ。軽く100MPは行く筈だけど…市井の民間人ではこんな程度か…それでも湯沸かし器の燃料の足しには成るのだから、おおいに魔力を充填して頂けると助かる。


開業記念に無料期間で混雑した男湯に僕は寛ぐ。


「マキト村長は、公衆浴場の視察ですか?」

「うむ。そんな所だねぇ…」


屋敷の露天風呂も良いのだけど、最近は風呂に突撃して来る女性陣が多い。正直に申すと風呂場でも落ち着き所が無いのだ。こうして男湯に浸かる方が安心できるのは何の因果か。


僕は娯楽施設に追加する遊具の検討をしつつ長風呂を楽しんだ。




◆◇◇◆◇




本日はシュペルタン侯爵家の晩餐に同席を求められた。メインの皿は猛牛肉の赤身ステーキらしい。上機嫌の侯爵閣下が客人に尋ねる。客人の方は私も見覚えの無い高貴な人物と思える。


「どうかね、この圧倒的な肉質の良さッ」

「結構な美食にございます」


赤味を切り分けて、燭台に似せて作られた魔道具の金床へ押し付けるとジュウウと肉の焼ける音がする。お好みに焼き目を付けるのは贅沢な魔道具だ。私もご相伴に与ろう。


「今回の獲物も中々な物よのぉ」

「ほおぉぉ~」


最高級の肉質にも上々のお褒めに与る事は稀だ。それだけ侯爵閣下が美食を極められていると言う事か。シュペルタン家の末席にある私でもこの肉を超える旨さに巡り合う事は稀だ。


「グリフォンの英雄と呼ばれる男が毎年に侯爵家に届ける獲物ぞッ」

「なるほど…」


ゲオルク・シュペルタン・アルノルド侯爵閣下が実情を明かすのは珍しい。何かの裏がありそうに思う。


グリフォンの英雄とマキト・クロホメロス卿が皇帝陛下に認められてから、年に何度か貢物として魔獣や獲物の肉がアルノルド城の中庭に届けられる事はある。それがシュペルタン侯爵家に対する脅しではなく、媚を売る様な下賤な態度と判断したのは侯爵閣下の器量が知れようと言うものだ。


真夜中に城の警備を掻い潜り巨大な魔獣の肉を降ろすのは並大抵の事ではない。クロホメロス卿が本気になれば侯爵閣下の謀殺など簡単に成し遂げられようと思う。


ゲオルクめッ、何を考えておるか。




◆◇◇◆◇




開拓村(マキト・タルタドフ)の治療院から逃亡したフジェツド老師を追跡してイルムドフの王都に入った。猫顔の獣人ミーナはさる領地の防衛力の強化訓練にて殊勲を上げて、ひと月の特別休暇と報奨金を手にバカンスを楽しんだ後に職場へ復帰した。屋敷のメイド隊では異例の出世として探索方へ抜擢の辞令を受けたのだ。


これは復帰後の新しい職場での初任務である。


「にゃニャにゃッ、あっさりと王都へ入るニャ!」

「…」


探索の助手には豹柄の獣人キャロル姉さんが付いている。これまでの尾行は上出来と見える。


「行商人に変装して後を追うニャ」

「了解ッ」


ミーナの指示で尾行を継続した。既に夜も明けて早朝の朝霧に王都の街並みも霞む。身元調査が正しければ、ご老体はフジェツドの本店か関連施設に帰還するだろう。


今回の任務はフジェツド老師が無事に王都へ帰還するのを見届ければ完了である。別にご老体の身柄をどうこうする気は無い。余計な揉め事は避けるに限る。


そう思っても面倒な後輩(ミーナ)には手間が掛かりそうだわ。


………



王都イルムドフの表通りから裏路地を三本入った場末の工房と思しき建物へご老体は駆け込んだ。


「お父さんッ。こんな朝早くに…どうしたの?」

「ハンナ!…仕度をしろッ」


突然に工房に現われた父は何時もの調子であたしに命令する。


「直ぐには無理よッ」

「トニオはどうした?」


旦那はパン焼き職人にして今朝の焼き窯の当番なのよ。


「焼き窯の時間だもの…」

「ふん。愚図には御似合いじゃてぇ」


菓子職人とパン焼き職人に優劣は無いと思いたい。


「彼の悪口は、お父さんでも許さないッ!」

「おおぉ、怖いこわい~増々にあ奴に似て来おるわい…」


いつもの親子の会話にも違和感を感じたが、あたしは無事な父の姿に安堵する。





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