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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二章 魔物と戦って見たこと
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022 荒野と湿原の斥候

022 荒野と湿原の斥候





 僕は荒野に足を踏み入れた。


トルメリアの北部には農村地域があり、村々は街道で結ばれている。農村地域では広大な荒野を農地とするため、積極的に開拓が行われていた。


そのトルメリア北部の農村地域のさらに北方には未開の荒野が広がっている。小高い岩が転がる丘の上から荒野を見渡す。緑の月も半ばだというのに灌木の緑は少ない。


「まだ、着かないのかい?」

「もうすぐのハズじゃ」


僕は水筒から水を飲み、狐顔の幼女ニビに尋ねた。


「その魔物の集落は無事なのかい?」

「わからん…」


昨日ニビにさらわれてトルメリアの町から魔物の森に帰還した僕は、(まじない)い師の婆さんから意外な話を聞かされた。

婆さんは「魔女のお茶会」と称される会合に参加しており、そこで魔物の領域が北方からニンゲンの侵略を受けているとの情報を得た。


魔女たちの話では、北方の国イルムドフが魔物たちが住む荒野に向けて軍勢を派遣したそうだ。お茶会の用件を済ませた婆さんとニビは、魔物の森に戻り族長会議でこの問題を相談した。


族長会議の議論は紛糾しまとまりを欠いていたが、ひとまず状況を確認するためにニビと僕が派遣された。夕暮れが近い…休憩もそこそこに先を急ぐ。ニビが単独で先行している。


魔力による身体強化で足腰の持久力を上げてニビを追いかけた。

その時、岩山を越えて悲鳴を聞いた。


-HA!GYAAAAAW-


「下がれ!下郎がッ」


狐顔の幼女ニビに追い着いて見ると巨人と遭遇していた。巨人はニビの3倍近くあり並みのニンゲンより頭ひとつは高いだろう。しかし、ニビの威嚇に恐れをなしたか巨人は大きな手足を縮めて防御姿勢をとっていた。


巨人は縮尺を違えたかの姿で、手足は異様に大きいが、腕が長く足が短い。

あわてて、僕はツバ広の帽子を取り出し被った。


「待て! 僕らは 敵じゃない」

「HUG…ゆるじて クダサイ」


この巨人は大きな手で頭を守り跪いた。ニビが鼻を鳴らして横を向いた。


「ふん!」

「僕らは 森から来た 話を聞きたい」

「HUA…森?」


僕は出来るだけ優しく話をした。巨人は岩オーガ族というそうだ。

岩オーガ族は荒野で生活していたが、ニンゲンの軍隊に追われて散り散りになったらしい。


「集落を 探している 一緒に行こう」

「HUU…いこう」


………



岩オーガを連れて野営する事にした。アルトレイ商会で仕入れた魚の干物を振る舞う。ニビは干物を火で炙った物が好みの様子だ。


「どうだい 魚の干物は?」

「HUA ウマイ でし」


干物は岩オーガにも好評のようだ。普段は何を食べているのか尋ねると岩石を喰うそうだ。どんな岩石が美味しいのか聞くと、光る岩石が好みだという…光り苔かな。


「しかし、火で炙ると脂の旨味が出て一層のウマさじゃ」

「HUG ニンゲンの肉より ウマイ でし」

「ッ!…」


僕は岩オーガの言葉に絶句するが、ニビはさも当然のように言う。


「そうじゃろ、ウマイぞ! クロメよ」

「HUA! ウマ ウマッ」


干物の味を褒められているが、僕は複雑な心境だった。



◆◇◇◆◇



次の日、岩オーガの話ではこの辺りに河トロル族がいるという。


小高い丘から見渡すと、泥の混じった湿地が広がる先に川辺がみえる。水際に近づくと人が争う気配があった。気配を察知して狐顔の幼女ニビが飛び出した。全力疾走のニビには付いて行けない。


◇ (あたしは高速飛行で狐顔の獣人に追いつく)


対岸には槍を持った数人の兵士が川面を警戒していた。


そこへ川面から水球が飛ぶが、兵士たちは応戦の構えだ。突如、狐顔の幼女ニビが対岸に姿を現した。途端に兵士たちの視線はニビに集まる。異様な存在感だ。


◇ (ここぞ!とばかりに、魔法を発動する。…【神鳥(ゴッド)威光(オーラ)】!)


遠目に見ても兵士たちに浮足立つ様子が現れた。兵士たちは、一人(ひとり)二人(ふたり)と我先にと逃げ出した!


◇ (ふははははっ…あたしの威光に恐れをなしたか…狐顔の獣人も兵士を威嚇していたわ。)


僕が息を切らしてニビに追いつくと、川から上がってくる三人の人影があった。


「はっ、はぁはぁ、ニビ……何をやった?」

「くふふ。少し驚かしただけじゃ」


川から上がった先頭の人影が話した。


「ご助力を頂き、誠に カタジケナイ」

「うむ、無事でなによりじゃ」


三人の姿は草と動物の革を編んだボロを纏い。泥だらけと言うより泥の一部の様だった。これが河トロルか。川の水は泥で濁り、お世辞にも綺麗とは言えない。


「森の方と、お見受け シマスガ」

「そうじゃ……ところで、先ほどのニンゲンは北の者かや?」


河トロルは狐顔の幼女ニビの出自を知っている様子だ。


「はい。先日からこの沼地を侵して イマス」

「ニンゲンどもの侵攻は真実であるか」


ニビが珍しく深刻な顔で確認した。


「マコトニ…」

「そちの村に、案内せよ!」


いつもの命令口調でニビが言った。


………


僕たちは河トロルの村に案内されたが、惨状はひと目で分かる。


ここ数日の小競り合いで、河トロルの戦士は傷つき倒れ伏す者が多かった。怪我は水に浸かっていれば治ると言うが、僕は痛々しい惨状に堪らなくなり傷薬を出来る限り配った。


長老らしい河トロルが草で編んだ小屋にいた。


「森の方の、ご助力を感謝 イタシマス」

「うむ。早速だが…この村は、あと何日もつかの?」


ニビは偉そうに尋ねるのに、長老は丁寧に答えていた。


「恐れながら、三日ともたない デショウ」

「早急に手立てが必要じゃ」


長老の話を聞くと河の東岸の村々は既に破棄されており、西岸の村に避難しているそうだ。また、ニンゲンの軍は渡河できる場所を探している様子で、積極的に斥候部隊を出しているらしい。


僕は一計を案じた。




◆◇◇◆◇




 僕はひと束の筏にすがって河を渡っていた。


「助けてくれ!~」


派手な水音を立てて筏が揺れる。


「ギャー! 誰か!~」


水面から顔を出した河トロールが水を跳ね上げて波を打つ。

その時、対岸が騒がしくなり兵士の一団が現れた。兵士団から幾本の矢が水面の河トロールに放たれる。


河トロールは兵士団の数を見て逃げ出した。僕は命からがらな様子で岸に引き上げられた。


兵士の隊長らしき男が尋ねる。


「無事かね」

「は、はい。お助け頂き、ありがとう、ございます」


その兵士の隊長は毅然と名乗る。


「我々は霧風の傭兵団だ!」

「…僕はブラアルの商人マキトと申します」


傭兵団の隊長は訝し気に尋ねた。


「ブラアルの商人とは珍しいな」

「はい、川の上流で薬草を集めていた所を魔物に襲われまして…」


僕は薬草のひと束を取り出して見せた。


「それは災難であったな……詳しく話を聞きたい。陣地まで来てもらう」

「はぁ…」


傭兵団の隊長は部下に命令して、僕は同行する事になった。



◆◇◇◆◇



霧風の傭兵団の陣地は河を離れて、剥き出しの大岩を中心に野営していた。


僕は傭兵団の隊長にできる限りの話をした。川で採取した薬草を煎じて提供すること。飯焚きのお手伝いが出来ること。川の上流に案内が出来ること。


「助けて頂いたお礼です」

「うむ。受け取ろう」


川で採取した薬草を煎じて提供すると兵士たちは喜んでくれた。止血と気付けの効果がある。さっそく自分の傷に薬を塗っていると、案内の兵士が来て薬を手に取り舐めた。


「ペッ、苦い!」

「良薬は口に苦しですよ」


僕は澄まし顔で応えるのに、兵士は不思議そうに言う。


「へぇ妙な諺だな」

「師匠の受け売りですよ」


僕は照れた様子で答えた。そうしているうちに陣地の後方にある炊事場に案内された。炊事場には数人の料理担当がいて、食料を積んだ荷駄から袋を降ろしていた。


「これは?」

「小麦の粉さ、焼いて食べる」


料理担当の兵士は大き目の椀に、水に塩を溶かして何かの乳清を入れた。


「これは何ですか?」

「クゲルトさ、山羊の乳から作る」


そこへ小麦粉を入れてよく混ぜる。ひと塊まりになると火の側に木蓋をして置く。生地を寝かす様だ。僕は鍋を火にかけ干し肉と野菜のスープを作る。良く煮込みしばらく待つ。


「何の肉ですか?」

「魔物の肉さ」


僕は恐る恐る尋ねたが、料理担当の男はにこやかに答えた。


「そ、それは…川にいるヤツでは…」

「牛に似たヤツだよ」


苦笑いしつつ僕は言う。


「もう、川の魔物はコリゴリですから」

「ハッハッハ」


料理の話をしながらスープの具合をみる。そろそろ良いだろう。フライパンを火にかけ、丸く伸ばした生地を焼く。ナンかピザ生地のようだ。


手分けして、手早く生地を焼くと傭兵団の男たちが帰ってきた。交代の時間らしい。先に食事を始めた部隊が陣地を出て行く。水に濡れた男が手桶に何かをもって来た。


「大漁だ!」

「それは、明日の朝食にしょうさ」

「…」


魚を取ってきた様子だ。僕はナンを焼き終えて自分の食事をとる。焼きたてのナンが旨い~乳清の甘味と塩加減も良い。野菜スープは辛味が欲しい所だが贅沢は言えない。


「今日は疲れたろう。先に休んでくれ」

「はい。ありがとうございます」


僕は久しぶりに人に囲まれて休んだ。





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