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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十六章 ブラル山への温泉旅行
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ep206 対処療法として

ep206 対処療法として





 魔力過多症の治療の為に患者の容態や症状を見たが、専門医ではない僕に原因が分かる筈も無い。これでは人族の名医でも連れてくるより他に方法も無いと思うが、メルティナお嬢様の知り合いにも名医は稀だ。…こんな辺境へ招くのは難しいか。


それでも何かの症状の緩和が出来ればと河トロルのリドナスは水治療を試みるが、魔力過多症は体内の毒素でも疲労でもなくて妖精族である森の人にとっては栄養素と言える魔力が原因だ。診察でさえも河トロルのリドナスは獣人として蔑まれた。これでは救援どころではない。


僕は魔力過多症の治療に使う薬草の栽培園を訪れた。薬草園は大樹の宮殿の下方にあり大森林の木陰で地面に這う地衣類と見える。


「この苔が薬草なのですか?」

「ええ、魔力を強制的に排出するための…痺れ毒の一種なのです」


「むむっ、毒ねぇ…」


確かに薬も毒も殆んど同じもの。対処療法としては止むを得ないのか。


「体内の魔力を減らせば、症状は改善するのですよね?」

「はい」


「それなら、魔法を使って労働をすればッ!」

「労働ですか……聞かない言葉ですね」


案内人の森の人ユーピリトは判然としない顔で答えた。大森林には魔力素が満ちて自然に魔力として吸収されるので森の人には労働の概念は無い。強いて挙げるなら宮殿に仕える者や兵士の職務にある者は労働と言えるだろう。


それでも宮廷の官吏や兵士にも魔力過多症で苦しむモノも多い。いっそ兵士には練兵訓練を課し、官吏と女官には宮殿の大掃除でもさせるか。魔法を行使して労働に励んでもらおう。


「魔法の使えない下々の者は如何致しますか?」

「それには、考えがありますッ」


僕はそれらを引き受けた。




◆◇◇◆◇




 マキトと救援隊の一部が行方不明となった大森林では捜索が続けられていた。炎の傭兵団の男たちの怒号が飛ぶ。


「おいっ、そっちの状況はッ!?」

「未だ…チルダリア様の行方は知れず…」


「ええぃ、早く手掛りを発見するのだッ」

「はっ」


ギスタフ親方の他にもマヒルダ村の協力者たちも必死の形相でマキトの行方を捜した。


「小僧めッ、何処に消えたかッ!」

「…森の人は美女揃いらしいぜッ…」

「…くそっ、蔦草が勝手に絡み付きやがる…」


捜索は手掛りも無くて難航している様子だ。そんな心配もマキトたちの知る所には無い。


大森林の入口にも到達せずに有象無象が彷徨う。




◆◇◇◆◇




 僕は大森林の集会所で講師を務めた。演壇の上に積み上げた粘土に魔力を注ぐ。


「まずは、粘土へ魔力を注ぎ均等になるまで捏ねて下さい」


実演しながらの解説も楽では無い。受講者は魔力過多症が出始めた高齢者が多く彼らは労働には不向きだ。しかし、僕には妖精族の老いと若きの容姿の差は判別できない。


「粘土の捏ね上げが、作品の出来栄えに影響します」


魔力を放出する対象があれば何でも良いのだけど、僕は趣味の粘土細工を指導した。大森林に魔力素は豊富でも資源には乏しいと見える。


「そうそう、良く捏ねてから作品を形成して下さいねッ」


最初の作品に何を披露するか迷う所だけど、…


「こねこね子猫…【形成】!」


僕は猫の造形を完成した。演壇に積み上げた粘土は後方からも良く見える様に巨大なオブジェとなる。それは黄金の後光に輝く猫王シドニシャスの造形だ。猫人の森に君臨する威厳のある姿をイメージしている。


「「「 ほおぉぉ~ 」」」


受講者たちから静かな歓声が起きる。反応は静かであるが、君たちの感動は良くわかる。なにしろ、受講者の各自が粘土へ注ぐ魔力量が目に見えて増したのだから。


こうして、森の人へ向け粘土細工の教室が開催された。


………



 粘土教室は異様な熱気と盛況にして成功を収めた。宮殿下の薬草園の空き地から採取した粘土は大量に消費されて奇妙な作品を多く生み出した。意外と森の人は粘土細工に向いていると思える出来栄えだ。


特に魔法を使う才能が無い一般人を相手にした感想でも、妖精族である森の人が体内に蓄える魔力量は膨大に感じられる。そんな膨大な魔力が爆発するのだから隔離室の惨状も想像が出来る。早々に魔力消費と労働か趣味でも良いので粘土教室の普及を図ろう。


案内人の森の人ユーピリトは興奮した様子だったが、粘土教室の何に興奮すると言うのか。森の人の嗜好はいまいち良く分からない。


「クロホメロス卿。大盛況ですね!」

「あぁ、ユートさん…喜んで頂けて、嬉しいよ…」


僕は疲労の影響か幻影に悩まされていた。耳元で幻影が囁く…


…森の人は美人揃いにして最高だぜッ…

…は、はぁはぁ、つるぺた万歳ッ!…

…違うんだっ! 俺は巨乳がぁ…


幻影よ、マヒルダ村の男衆の声で囁くのは止めてくれ。確かに、森の人はつるぺた体型の美女が多いのだけど…


「おぉ!、クロホメロス卿」

「スティカルラ殿下も、訓練を終えられましたか?」


武装して汗をかいたスティカルラ殿下と宮殿の廊下で行き会った。宮殿の兵士たちと練兵訓練をしていたらしい。


「体を動かすのも、存外に爽快なものだッ!」

「えぇ…喜んで頂けて、光栄にございます…」


魔力消費の為に練兵訓練を提案してみたが、効果はあった様子と見える。


僕は力尽きた。


………



廊下でバッタリ倒れた僕は見知らぬ寝室で目覚めた。隣には肉感的な美女が素肌かで寝ている。


「うっ、スティカルラ殿下…」

「…あぁん、美味である…むにゃむにゃ…」


美女の寝言に驚く僕は衣服を探して当りを見回す。


「クロホメロス卿。こちらをッ」

「ひっ!」


音も無くお付きの女中(メイド)に接近されて、僕は慌てて衣服を着込む。森の人は寝室では素肌かが基本なんですよねっ!…メイドさん!!


終始無言の女中(メイド)に介助されて衣服を着た僕は、とり急ぎに客室へ撤退した。…緊急事態であるッ。


忍びの体術を駆使して帰還した客室ではメルティナお嬢様が熟睡していた。…安全(セーフ)なのか?


僕は不安な夜を過ごした。


………



明けて、朝食の席に付いた僕とメルティナお嬢様は仲睦まじく見える。スティカルラ殿下も同席されると言う。


「おほほほほ、お料理にも魔力を使うと宜しう御座いますのよ」

「なるほど、参考にさせて頂こうかッ」


今朝はメルティナお嬢様もスティカルラ殿下もご機嫌な様子だ。メルティナの話では、昨日は宮殿の女中(メイド)と女官を相手に大掃除の指導をしていたそうだ。日頃から魔力を消費して仕事をするのが健康にも良いと思える。その有り余る魔力は魔道具の魔力源としても有効だろう。


「それで、チルダさんは?」

「町で外泊をされていますッ」


キリッと言うサヤカさんは黒髪にして凛々しいが、火炎の女チルダの行動は自由過ぎるだろう。護衛の任務は放置しても大丈夫か?


「問題はありません。森の人はチルダリア様よりも魔力量は豊富で…お嬢様の火炎魔法でも焼き尽くす事はありえません」

「………」


僕から疑義の視線に応えるサヤカの心配は、町の住人へ向けられていた。


そんな心配をよそにして火炎の女チルダが帰還した。


「んっ、旨めぇじゃん!」

「…」


朝食から肉塊に噛り付くチルダは粗暴に見えて美しい。獣脂に濡れた唇も光沢を帯びて…喰われて貪られて欲しいッ…僕は朝から混乱していた。


「森の人の集落に不穏な動きがあるぜッ」

「なっ!」


突然の暴露に動揺を隠せないスティカルラ殿下が退席する。バタバタとお付きの女官が従い人数が減ると食堂が閑散と感じられた。


チルダの話では観光がてらに森の人の集落を散策していたが、武装した兵士の姿が目立つと言う。そんな公然と兵士が動く物か、僕は疑問を感じて尋ねた。


「それは、戦乱の気配ですか!?」

「あたしの傭兵稼業も伊達じゃないのさッ」


その答えは炎の傭兵団を統率していた者としての重みが感じられた。


いやな予感は外れた事が無いのだ。





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