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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二章 魔物と戦って見たこと
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021 訓練の成果

021 訓練の成果






 僕は港町トルメリアの市場にいる。夕刻の市場に買い出しに行くと夕飯を求める人々で混雑しているが、求める物はあった!卵だ。

1コで5カルだと。


「たッか!」

「うちの卵は新鮮ですよ」


いちおう鳥類の卵らしいが結構高い。屋台の串焼きが何本も買える。


「10コ買うから、ひとつオマケしてくれよ~」

「まいったね。お客さん」


店主は何やらニマニマしていたが、結局は11コで50カルになった。

◇ ((マキト)ちゃんは知らないだろうケド…高価な卵を買い求めるのは貴族か金持ちの料理人で、それも精力剤として使われるのよ…それを10コも買うのは…余程の好色家と思うわ)


「卵から孵りそうなヤツがいると危ないから、料理の前に確かめて下さい」

「分かった。ありがとう」


次に求めるのは砂糖だが……二軒先の果物屋で見つけた。


「この黒いのは……」

「南方産のキビ砂糖さね」


これも高価だが白い砂糖は無いようだ、甘味は果物でも良いが、思い切って購入した。60カルを払うと、おまけにレモンに似た果物を貰った。


「砂糖には、酸っぱい物が合うさね」

「ありがとう」


さらに肉食店を何件か周ると牛に似た家畜の乳があった。8カルで購入する。


「まいどあり!」


この後に酒場で合流する予定なので、露店で肉をナンで挟んだ物を買った。2カル。

肉と野菜とピリ辛のソースが旨い。モグモグ食していると声をかけられた。


「マキトさん?」

「あ、アマリエさん!」


振り返るとお勤めの帰りだろうか、神官服のアマリエが立っていた。


「心配しましたよ。ご無事でよかった~」

「ええ」


僕は曖昧に頷く。


「今は、どちらに?」

「アルトレイ商会に戻ろうかと…」


アマリエと連れ立って倉庫街へ向かう。アルトレイ商会の裏手の工房から入り食堂で待ってもらう。


「美味しい物をご馳走しますから、少し待って頂けますか?」

「はい。その前にお話が…」


何か内密の話があるのか、厨房で話を聞く。

まずは、卵を洗うのでアマリエに協力してもらおう。アマリエが初歩の生活魔法を唱える。


「汚れを落として…【洗浄】」


洗浄した卵を光に透かして中身を確認するが良く見えない。魔力を当てると液体っぽい。ひとつずつ卵を別の容器に開けて中身を確認しつつ聞く。


「最初におわびを申し上げます。そして、マキトさんには事情を…」

「はぁ」


卵を掻き混ぜ砂糖を入れて、乳を注ぎ足しながらよく混ぜる。魔力を使って白身もよく混ぜる。


「最初に暗殺事件があった際には、現場の状況から、水神殿の関係者が疑われました」

「…」


「犠牲者は寝室で、大量の水を飲んで溺れたかの状態だったのです」

「水魔法ですか…」


陶器のコップに溶液を注ぐ。蓋が欲しいが…木切れでも良いか。工房の板切れを蓋にする。蒸気鍋に水を張り、蒸し台を鍋に入れ陶器のコップを並べて蒸す。


「私は、水神殿への容疑を晴らすため、密かに魔道具の調査をしていました」

「…」


「そこで、商会の内情を探るためマキトさんを利用したのです」

「それが何か?」


「内情を探るうち、北の村から黒い魔石が持ち込まれた事が分かったので…」

「僕が北の村へ行ったのは会長の指示ですよ」


「ええ、偶然ですが…マキトさんを巻き込んでしまい。ごめんなさい」

「いいでしょう」


しばらく沈黙があった。僕は500ほど数えて火を止める。


「私は、マキトさんの好意を裏切って…」

「水に流しますよ。アマリエさん。フライパンに水を」


「流れを集めて…【集水】」

「助けてくれて、ありがとう」


蒸気鍋が冷める間にフライパンに砂糖と水をいれて焦げない様に煮詰める。

飴状になったら火を止めてお湯で薄める。ジュウゥゥ。


「しかし…」

「氷の魔女がいた屋敷では危い所でしたが、今は無事ですし」


「あの時は…」

「実際、僕ひとりでは子鬼(ゴブリン)の相手も危険でしたよ」


「…」

「さあ、命の恩人にささやかな、お礼です」


僕は蒸気鍋の蓋を開ける。冷め残った湯気と甘い香りが広がる。

そこへ食堂の扉を開け、乱暴に侵入する人影があった。


「マキト!」

「ち、チルダさん! どうして、ここに?」


チルダは拳を振り上げ指さした。


「その女は誰だ!」

「!…」


久しぶりに合ったというに、えらい剣幕だ。


「しばらく顔を見せないと思ったら、外で女を作りやがって!」

「アマリエさんは、そんな…」

「あなたこそ何ですか? 乱暴な!」


チルダは女房気取りで言うが、そんな関係ではない。その剣幕に負けじとアマリエが言い返す。


「私とマキトさんは、これから親しく夕食の約束ですの。あなたの出る幕ではありません事よ」

「やるか! この女ぁ…【火球】」


チルダは両手に炎を灯して、睨み付ける。それを見てアマリエは呪文を唱えた。


「敵を隔てよ…【水幕】」

「くくくっ」


アマリエは無い胸…いや豊かな胸を反らして体の前面に水の幕を作り押し出した。水の幕を見て、チルダは楽しそうに笑った。僕は慌てて両者の間に割って入る。


「ま、待ってください!」

「!…」


チルダの火球とアマリエの水幕が弾けて消えた。


「久しぶりの再会に、これを食べて祝福を!」

「…」


僕は出来立てのプリンを二人に差し出す。有無を言わせず甘い黒蜜をかける。冷めた熱気と甘い香りが広がった。


「甘くて美味しいですよ」

「…」


ふたりはプリンの甘い香りに心を奪われて、試食した。


「卵料理ともちがう様な……甘くてプルプルした」

「この焦げたソースが……ウマイぜ!」


なんとか危機を回避できた様子だ。チルダの話では、マキトを心配してブラル山を下りて来たらしい。


「これは、貸しにしておく。必ず返せよ」

「!…」


勝手に負債勘定にされてしまったが、具体的に何を返せと言うのか。僕は困惑していた。チルダはマキトの顔を見て安心したのか、納得したのか去って行った。


アマリエは水の神殿に帰るそうで、お土産にプリンを持たせた。


「この御恩は、忘れません」

「…」


勝手に売掛け勘定にしてアマリエは帰って行った。恩を売った覚えはない。




◆◇◇◆◇




日が暮れて、疲労困憊の僕は待ち合わせの酒場に辿り着いたが、既に狩猟者の二人は出来上がっていた。


「WOO いい アンバイだ~」

「うぃー のめ、飲め!」


「WOF 酒の追加だ 肉をよこせ!」

「あたしに マッカセ なさい~」


バオウは獣人のくせに赤い顔をしていた。シシリアさんは絡み酒の様でしきりに酒をすすめる。酔い客の相手をしつつ、トルメリア名物と言われる魚料理をつついていると、隣の傭兵の男たちの会話が耳に入った。


「隣国の……では……戦争の……があり……先行して……をやる」

「そ、それは本当か!」


「声がデカイ、…………が、…………だそうだ」

「うむ。ひと旗あげて、…………したい物だな!」


「…………よかろう」

「ウハハハハ!」


それ以降は喧騒に紛れて聞き取れない。ひとしきり料理を平らげてから僕は狩猟者の二人を連れて帰る。肉体強化でバオウの背中をつかみ、シシリアに絡まれながら店を出る。迷惑料は明日にでも請求しよう。


「GUF 北の方が きな臭い 様子だな」

「あによぉ 飲めないって 言うの~」


店を出た途端に、バオウが正気を取りもどした。


「あれれ?……バオウさん、酔ってないの」

「GHA オレが あれしきの 酒で?」


僕は驚いたというより、やはりという思いで尋ねた。


「さっきのは戦争が起こるという話ですか?」

「GUU まだ 決まった訳では あるまい」


ひとまず、シシリアに絡まれる役がバオウに移って安堵する。


「肉体強化で耳を良くする事は出来ますか?」

「GUF 可能だ!」


バオウは眉根を上げて僕を見たが、すぐに真剣な顔になった。その時、見慣れた二本の尻尾が飛び込んで来た!


「クロメよ。大変じゃ!」

「なっ、何が…」

「GA!」


突然に暗闇の路地にあらわれた、狐顔の幼女ニビは二本の尻尾で僕を捕らえた。バオウは警戒するが、


「小僧、邪魔をするでない」

「ぐぬぬ」

「…」


ニビは有無を言わせぬ早業で僕を連れ去った。


「あらら、マキト君がさらわれた~」

「GUU マキトの身内だ モンダイ ない」


「身内?~」

「GUF 知っている 匂いだ…」


路地には酔ったシシリアの酒の匂いに絡まれるバオウのため息が漏れた。






--


※マキトは料理の腕前で修羅場を回避した。訓練の成果だ!

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