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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十六章 ブラル山への温泉旅行
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ep200 刀剣乱舞

ep200 刀剣乱舞




 山岳地にある城郭の朝は早い。東の斜面から登る朝日は早々に山体を照らし、その斜面にへばり付く城郭を焦がす。高山の北側から吹く風は一抹の清涼感を思わせるが、忽ちに夏の日差しへ変わった。


ここ失われた山の民の城郭では早朝から鉄を鍛え鋼を打つ槌音が聞こえる。カン・キン、コン・キンと繰り返す槌音は上質な鋼の仕上がりを期待させる。


「オジルスさん。精が出ますねぇ」

「おぅ。マキト殿か…早いなッ」


鍛冶場は鉄を焼く熱気と鋼を打つ気迫が充満して気炎を上げている。


「おうおう、ワシの打った刀剣にケチを付けるかッ」

「俺様の刀剣は今世の名刀よのぉ…」


気の荒い鍛冶職人が刀剣の出来を競う様子に山長(やまおさ)のオジルスが挑発する。


「ここにおわすマキト殿は、名匠シグルドの剣をへし折った刀剣の製作者と聞くぞッ」

「「おおっ!」」


名匠シグルドは僕が以前に刀剣を打ち合わせた相手か。俄然にやる気を出した鍛冶職人たちがマキトへ詰め寄った。…うっ、男臭さが増すうぅ。


「是非、我と勝負して頂きたいッ」

「ワシが先手じゃ!」

「俺様も相手を申し込むぜッ」


「がっははは、齢の若い順番にせよッ」


既に刀剣勝負を行うのは既定の様子に山長(やまおさ)のオジルスが取り仕切るらしい。


僕は新たに刀剣を製作した。


………



僕が製作する刀剣は鋳物の手法で作成している。そのため砂で剣の鋳型を作り熔鉄を注ぐのだが、鍛練した純鉄に少量の金属類を混入して合金とした。


剣の鋳型は量産するために複製して用意している。融けた鉄を鋳型へ注ぐとジウジウと音を立てて砂を焼き形成される。大量生産された鋳物の剣は耐久性能に劣る物が多いが、中には偶然の産物として傑出した出来栄えの逸品がある。


僕は鋳型が冷めるのを待って鋳物の剣を取り出した。ここから職人としての目利きと選別の腕が試されるのだ。


「精密検査にして…【音響】【探査】【検分】」


刀剣に歪みや空隙があれば音に違和感が残る。僕は最速で検査を終えた。総数にして千本を超える鋳物の剣から上質な八本を得た。


「この剣にて勝負を致しますッ」

「おぅ!」


最初の相手は自信家で若手の男と見える。


「はぁっ!」

「せいやッ!」


気合も一閃にお互いの刀剣がぶつかる。キンと金属音を響かせて若手の男は刀剣を取り落とした。


「どうしたッ、勝負ありか?」

「…参りました…」


自信家の男は項垂れて退場する。見ると男の刀剣は刃こぼれを生じていた。戦闘の継続は難しいとの判断だ。


「ほほう、やりおる。じゃないかッ」


中年と見える職人が進み出た。僕も新たな鋳物の剣を手にして踏み込んだ。


「はぁっ!」

「どりゃッ!」


職人の振り抜きは下段からの抜き打ちであったが、僕の鋳物の剣は簡単に半ばから切られた。鉄をも切り裂く名刀らしい。


「次は、ひと味。違いますよ」

「ほほう…」


僕は新たな鋳物の剣を構えた。魔力を通して剣先を研ぎ澄ます。


「はぁあっ!」

「どうよッ!」


お互いの刀剣は一歩も譲らずに受け止めた。腕に伝わる衝撃が刀剣の健在を伝えてくれる。


「両者とも引き分けで良かろうッ」


山長(やまおさ)のオジルスが裁定を下した。


「次は、ワシの出番じゃ…」

「待てッ! 爺様には荷が重かろうて」


おや、観客と審判では飽き足らずに、山長(やまおさ)のオジルスが愛刀をひっ提げて進み出た。…最初から、これが狙いか。


「こいつは、今迄の物と違いますよ」

「ふん。へし折ってくれようぞッ」


僕は真打となる刀剣を取り出して構えた。今までの鋳物の剣の内では魔力の伝導率は最高の逸品だ。僕は密かに呪文を唱えた。


「はっ!…【切断】」

「ふんぬっ!」


山長(やまおさ)オジルスの振るう刀剣は重く体重の乗った一撃であっが、僕は鋳物の剣の角度を変えて受け流した。ギジンと鋼を擦り合う音が耳に残る。


「どうしたッ、臆したか!?」

「…」


二撃目に備えるオジルスであったが、その時…刀剣の先端が落ちた。


「なにっ、切られたのか…」


僕の魔法剣は辛くも勝利を手にした。


………



熱い刀剣勝負の後は宴会に突入した。大盛の酒と肉が振る舞われて鍛冶職人たちも大いに盛り上がる。


「マキト殿に乾杯!」

「鍛冶の神ヘパィフォロスに感謝をッ」

「道中の安全をボルサルパリオへお祈りいたします…」


酒宴と感謝と祈祷が同時に祭られた。


「がっははは、マキト殿は夜戦も百戦錬磨であるかっ?」

「いえ…」


既に酔いが回ったか、山長(やまおさ)のオジルスは絡み酒である。


「メルティナ。楽しんでるかい?」

「おほほほ…」


火炎の女チルダと氷の魔女メルティナは職人たちにも大人気で、あちらは人集りが多い。


「マキト殿の奥方であれば、あらぬ所から氷を発したりは…せぬだろうなぁ…」

「はぁ?」


何の話だ。僕はオジルスの猥雑な話を聞き咎める。


「あっいや、済まぬッ。忘れてくれ…」


それ以降の追及はしなかったが、火炎の女チルダであれば夜戦に焼き討ちも辞さないと思う。危険な事情には踏み込まない事が肝要だろう。


僕は宴会をやり過ごした。





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