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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十六章 ブラル山への温泉旅行
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ep199 水道工事と模造品

ep199 水道工事と模造品





 僕は開拓村(マキト・タルタドフ)の水利用を改善するために用水路を掘り水車を設置した。細部の調整は木工職人へ任せて、水車の揚水を待たずに水道の工事を行う。岩場の地下を掘り進むのは難工事だが、僕には鍛えた魔法技術がある。


「突貫工事に…【穴掘】【粗掘】【深掘】」


岩場の竪穴から横穴を掘り進む。多彩な魔法も全て土木工事用に最適化された技術だ。


「岩をも砕けッ【振動】【回転】【削剥】」


ドリドリと岩を削り地下水路をひたすらに掘る。


「ぷはぁ!」


僕は岩場を抜けてひと息付いた。休憩の序に地下水道の出口に彫られた泉を検分する。


「マキト村長。こんな所で如何でしょうか?」

「うむ。良い出来じゃないかッ」


それは荒削りながらも完成が待ち遠しい出来映えと見える。開拓村の石工職人たちの仕事には期待出来そうだ。泉の周りは共同の水汲み場と公園にするのが良いだろう。


水道工事は公共投資としても、泉は開拓村(マキト・タルタドフ)の観光名所になりそうだ。


………



南の新市街で騒ぎがあった。人だかりの向こうには巨大化した蔦草に絡み付かれた家屋が見える。


「ぎゃっ、俺の家がッ!」


「これは、これで…風情がありますなぁ…」

「雑草の如きで騒ぎおって…」

「ふん。くだらん…」


市街地の緑化区画の管理は周辺住民の義務だ。租税の一部を公共への労働で支払うとも言える。雑草の管理は住民へ任せるつもりだ。


そんな新市街の南端には無秩序に露店が立ち並び、怪しげな魔道具や骨董品を売る店があった。この辺りは住民登録の無い流浪民も多くて実態は把握できない。僕は泥に汚れた作業服のまま露店を巡る。


「親爺ッ。この品物は?」

「これは旦那様、お目が高いッ。新作の蒸気鍋でございます」


店頭の特価品として、見慣れぬ質感の蒸気鍋があった。特価としても高価だろうと思う。


「蒸気鍋となッ?」

「はい。この蒸気鍋はブラアルの職人が製作した逸品で…」


店主の親爺が得意げに説明するのを聞き流しつつ、僕は蒸気鍋の品質と製作者の刻印を確かめた。


「うむ。職人の名は何と?」

「名匠スミノスにございますッ」


おや、僕が知る鍛冶の男スミノスであれば随分と出世した者だが、製作者の刻印が不出来と思える。…弟子の作品だろうか。


僕は精一杯に値切って蒸気鍋を手に入れた。証拠品は押さえるべきだろう。




◆◇◇◆◇




僕らはブラル山の中腹にあるブラアルの町へ向かった。ブラル山は活火山であり火の魔石の産地として知られ、天然の温泉は貴族の保養地としても有名だ。


その為か氷の魔女メルティナが同行を申し出た。既に内縁の妻と周囲にも認められてメルティナお嬢様は婚前旅行の気分である。タルタドフからブラル山までは領地の西側の険しい山岳地帯を登り、失われた山の民と呼ばれる山岳民族の城郭を経由する道のりだ。


険しい山地を走破するため魔獣ガルムの仔コロと山オーガ族の娘ギンナが招集された。夏の間に氷雪山地で修行をしていたギンナは、特徴的に輝く角と銀髪をもち幼女から少女へ変貌していた。


「コロちー、行くですぅ~」

「きゃ!」


乗馬服に着替えたメルティナお嬢様は乗馬鞭を手にして、ギンナと二人乗りで魔獣ガルムの仔コロを走らせた。コロは岩場の段差も苦にせず飛ぶように走る。


「ちっ、飛ばし過ぎだ…【俊足】【柔軟】【加速】」

「ふっ♪」


僕は身体強化の魔法を重ねて二人の後を追う。護衛のリドナスは付かず離れずの距離を維持している。山岳訓練の予定で連れて来た若手の河トロルたちが心配だろうか。この程度の行軍速度で脱落する者はいないと信じたい。


その日の夕刻には中継地である失われた山の民の城郭へ辿り着いた。…かなり厳しい強行軍である。


………



事前に訪問を告げていた城郭の山長(やまおさ)とは顔見知りで、その奥方も顔馴染みであった。


「よく来たなッ、マキト殿」

「よぉマキト、熱々じゃん!」


城郭の山長(やまおさ)オジルス・ギング・ランパルトは筋骨の逞しい髯面の男だが、気さくな様子で出迎えた。


その奥方で婚約者となったチルダリア・ユーブラルは火の魔法を使う赤毛の美女であり、赤毛のショートヘアと褐色肌は火の一族の特徴を表していた。オジルスの婚約者となってもお転婆娘の様子は変わらないらしい。


「オジルスさんお世話になります」

「オジルス様。メルティナと申します」


メルティナお嬢様は貴族の子女がやる礼を取った。


「おう。固い事は抜きにしてぇ。マキト! 別嬪さんじゃねーかッ」

「おほほほ…」


城郭の山長(やまおさ)オジルスに褒められてメルティナお嬢様も満足げな様子だ。火炎の女チルダは、いつもの事かとニヤニヤしてメルティナの様子を見ている。


オジルスとチルダは元から親戚筋でもあり夫婦の仲は良さそうだ。


「婚礼の儀には顔も出せずに、申し訳ありませんでした」

「がっはははッ、構わねーよ。領主などやってりゃ、苦労もあるわなッ」


霧の隘路で僕が行方不明の間に二人の婚礼があった。僕はその不義を詫びるが、山長(やまおさ)オジルスは気にする様子も見せない。


僕らは失われた山の民の城郭で歓迎された。




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