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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十五章 霧の隘路に陥穽を
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ep195 品質と信頼の印

ep195 品質と信頼の印




 僕はオグル塚の迷宮村に知られ始めた魔道具の店を運営していた。滞在費の足しにと始めた商売が思わぬ繁盛を見せている。店頭の接客業務は兎娘のカタニナプルとそのお付きに任せても問題は無かろう。


そのため、僕は裏手の工房に詰めて商品の製作に励んだ。主力商品の魔道ランプは迷宮で利用される明りよりも光量が多く評判も良い。既存の薄ぼんやりとした明りを駆逐する勢いで商品が売れた。原材料の調達に出掛けたサリアニア侯爵姫たちも大忙しだと言う。


迷宮(ダンジョン)でのスライム狩りを補助するにも新たな魔道具を考案していた。スライムは物理攻撃にも魔法攻撃にも反発力を発揮して打撃用の武器では討伐に時間がかかる。分銅と鎖で締め上げても効果は薄いのだ。


戦闘メイドのスーンシアが魔道具を振るう。


「はぁぁああ!」


気合を入れて槍の穂先をスライムへ突き立てると、槍状の魔道具は吸引力を発してスライムの魔力を吸収する。槍の先は丁字にしてスライム本体の吸着を阻止するが、魔力を吸われたスライムの魔石と中心核が魔道具に引き寄せらて、コロンと呆気なく魔石が抜き取られた。


中心核を失ったスライムは形を無くしてその場に溶け崩れた。一丁上がりである。


「スーよ。ご苦労」

「はっ」


出番が無くて不満顔のサリアニア侯爵姫だが、魔石の抜き取り作業の間に周囲の警戒は怠らない。


ガラガラと車輪付きの魔道具を引き摺って迷宮(ダンジョン)を進む戦闘メイドのスーンシアの姿は屋敷の掃除をする女中(メイド)と見える。その魔道具は現代の掃除機に似ていた。


「これは、迷宮(ダンジョン)へお返しします」

「うむ。良かろうて…」


メイド姿のスーンシアは魔道具の収穫箱を開き、溜まった魔石を選別してスライムの中心核を排除した。中心核さえ有れば短時間でスライムは再生する。キャッチ&リリースの精神である。


再び光りの魔石を内包したスライムに巡り合いたいものだ。


………



僕は工房で主力商品の魔道ランプを出来る限りに生産した。独りで大量の商品を用意するのも楽じゃない。製作の助手を雇うのも良いだろう。


今は飛ぶように売れる魔道ランプも分解されて光の魔方陣を解析されれば、真似された類似商品が他の店からも発売される事が予想された。そのため発売当初から大量に販売して利益を確保したい。競合する商品が現われると価格も抑えられてしまうだろう。


僕の商品には品質と信頼の目印として兎の刻印を付けた。この店の屋号は無いが兎の獣人も働く店として知られている。


「…もう少しで、月の周期が…むにゃむにゃ…」

「あぁ、また寝言か?」


ちみっ子教授の寝顔を眺めていると、僕も疲労で眠気に落ちた。


音も無く寝室の扉がひらく。建て付けの悪い粗末な小屋に物音もせず、特殊な開け方に隠密技能の高さが伺われる。


「あら、これでは役に立てませぬぅ~◇(ハート)」


-Zzz-


既に高いびきで僕の意識は無く淫魔の訪問も無駄足であろう。


「夢の中へお邪魔いたしますぅ~◇(ハート)」


-Zzz-


妖艶な美女は娼婦の恰好に淫魔ではなくて夢魔であったか、意識の無い僕には区別も付かない。




◆◇◇◆◇




 明らかに夢の世界で、ちみっ子教授が兎族の歓待を受けていた。食卓には甘い香りの干し草に色取り取りの果実が並んでいる。


「どうぞッ」

「ほほう、このお茶は中々の物」


ちみっ子教授は紅茶に似た褐色の茶を飲んでご満悦な様子だ。


「お客様でございます」

「うむ。あちらから来た様子じゃのぉ」


僕は夢の中で歓待の席に着いた。給仕の兎族は白黒の混ざり髪にメイドの頭輪を付けている。…あの装備は何と言ったか。


「これ、マキトよ良く聞け。時は満ちた、明日の朝には兎族の隠れ里へ向かうのじゃ」

「はぁ…」


寝ぼけ顔で答える僕にちみっ子教授がビンタを喰らわす。バチンと子供の手型が僕の頬に刻まれたが、夢の中では痛みも感じない。…やはり夢の世界か。


そこへ浸透する黒い影があった。


「侵入者でございます」

「うみゅッ」


給仕の兎族が暗殺用のナイフを黒い影に突き立てた。ギャ!音も無い悲鳴を残して黒い影が消滅した。暗殺用ナイフの呪印が淡く光る。


「忘れるでないぞッ。荷物をまとめて兎族の隠れ里へ向かうのじゃ」

「はぁ…」


僕は急激な眠気に襲われて歓待の席に沈んだ。…何度目の撃沈か。




◆◇◇◆◇




 蛮族を討伐した帝国軍が城塞へ帰還した。その話は帝国軍からオグル塚の迷宮村へ持ち込まれた魔物の肉と共に広がった。長く帝国軍とその城塞の周辺地域を悩ませていた蛮族の本拠地を襲撃した成果で、帝国軍は大量の魔物の肉を手に入れたと言う。


その戦勝祝いに城塞周辺の村は大いに沸き立つ。祝いはお祭り騒ぎにして焼肉と酒類が良く売れた。なにしろ肉の原価はダタ同然の格安だ。


「うぃ~」

「飲めッ、飲めぇ」


迷宮村の屋台でも、昼間から酔いつぶれた兵士の姿が目立つ。


「そろそろ、頃合いであろう」

「はい」


サリアニア侯爵姫が言うのに女中(メイド)のスーンシアが応える。僕らは出立の準備を始めた。


「奴隷の契約は解除するッ」

「えっ!」


借金奴隷たちは突然の出立に驚くばかりだ。


「工房と店は残しておきますから、好きに使って下さい」

「えぇっ!?」


兎娘のカタニナプルとそのお供は混乱を来した。


僕らはボロ馬車に僅かな荷物を載せてオグル塚の迷宮村を出た。向かうのは兎族の隠れ里である。


街道を西へ進むと濃い霧が発生した。イルムドフ地方では、この時期には珍しくも無い濃霧と見える。


「馬車を停めよッ」

「…マキトよ。その皮袋を腰に吊るし…銀貨を16枚取り出して…道に置くのじゃ…」


やけに鮮明な寝言で、ちみっ子教授が呟く。


護身用の鋳物の剣はスマッシャ男爵への餞別とした為、腰のベルトは開いたままで、僕は皮袋を腰に吊るし言われるままに銀貨を取り出した。鋳物の剣はこのぐらいの重さか。


何かちみっ子教授が呟くのを聞いたサリアニア侯爵姫は顔を赤くして街道脇の藪へ駆け込んだ。…乙女の花摘みか。


-ZBAshi ZBAshi ZBAshi-


サリアニア侯爵姫の剣戟に藪も木立も跳ね飛ぶ。花摘みの隠蔽にしてはやけに念の入りな様子の斬撃だ。


その後も積荷の食糧などを捨てて微調整を行うと、ボロ馬車を霧の中へ進めた。


トボトボと頼りない馬を進めると兎族の隠れ里へ到着した。僕らは隠れ里の入口で大勢の兎族に出迎えられた。


「チリコ様。ご帰還をお祝い致します」

「うむ。大義であった」


見知った白黒の混ざり髪の兎娘がお祝いを述べると、今まで眠っていたちみっ子教授が飛び起きて応じた。


「わぁ!……びっくりしたッ」

「むふふふ、ワシの苦労も知らずに…間抜け顔をさらしおってのぉ…」


僕らは兎族の隠れ里へ招き入れられた。




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