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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十五章 霧の隘路に陥穽を
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ep194 魔道具の販売所

ep194 魔道具の販売所





 僕はオグル塚の迷宮村で小屋を借りて魔道具の販売所を始めた。主力商品はスライムから取れる低品質の光の魔石を利用したランプだ。粘土を形成した本体と光の魔方陣を刻んだ魔石に魔力を流す握手を付けている。


「この魔灯具は握手(とって)から魔力を吸収して光りを発します」

「ほほう」


僕は実演販売の手法で通りのお客を集め光りの魔道具を披露した。魔力を多めに注ぐと昼間でも光輝は十分だ。


「通常価格は、銀貨十六枚でございますが……今なら銀貨十二枚!」

「…ざわざわ…」


この価格が高いのか安いのか、競合する魔道具の店は無い。それでも既製品には迷宮(ダンジョン)で使う照明の道具や松明もあるが、…


「本日は当店の開店記念につき……本日に限り半額、銀貨八枚! で販売いたします」

「おおぉ~」


限定販売の効果か半額の価格設定のお蔭か、ランプの魔道具が売れ始めた。


「買った!」

「俺にも、ひとつ!」

「お買い上げ、ありがとうございます」


ひとりのお客が購入を決めると、他の冒険者と見える者も争う様にして注文する。


「…こっちにもくれッ」

「…我も、我も…」

「カタニナ、頼むよ!」


接客と販売対応には兎の獣人の女カタニナプルの手を借りた。とても一人ではお客を捌き切れない。


「はい。ただいま参りますッ」


販売用の衣装に首輪を付けたカタニナプルには借金があり、働いて稼ぐ必要があった。サリアニア侯爵姫が魔物からの救出報酬と兎の獣人村への派遣依頼の報酬を請求した為だ。そのサリアニア侯爵姫とお付きの女中(メイド)スーンシアは迷宮(ダンジョン)へ狩に出掛けている。


オグル塚の迷宮村では獣人の待遇が悪く奴隷の扱いが多く見られた。現に奴隷の首輪を付けたカタニナプルは扇情的な衣装を着けて店頭で働く客寄せと見える。丈が短いのは民族衣装らしいがスカートも上着も無いのは異質と思う。そのため店頭にはカタニナプルを見るだけのお客も多かった。


………


商品を完売して大量の銀貨を得た。この辺りで流通する辺境銀貨だろうが、とりあえずの生活費とする。ちみっ子教授は眠り姫というか寝たきり老人の有様で夢の世界から帰還しない。小屋の粗末な寝台で寝言をむにゃむにゃ言うのみだ。


「カタニナプル様ッ」

「危ない!」


兎の獣人と見える二人の陰が小屋に飛び込んで来た。昼間から得物を手にした強盗かッ!


僕はカタニナプルに突き飛ばされて土間に転がった。


「かっ、は…止めろッ…この方は…敵ではないッ」

「!?…」


奴隷の首輪がカタニナプルの息を詰まらせるが、必死の形相で強盗を説得した。


「ははぁー」

「申し訳ありませぬ…」


驚く事に二人の強盗はその場で平伏した。カタニナプルが息を整えて言う。


「…サンカウ、ヨシノ。よく生きて戻った」

「勿体なき、お言葉でございます」


どうやら知り合いの様子に、よく見ると二人とも兎の獣人である。カタニナプルは伴の者に再会した。




◆◇◇◆◇




 僕らはオグル塚の迷宮村の酒場で合流した。迷宮(ダンジョン)の探索から帰還したサリアニア侯爵姫が問う。


「それで、私に兎娘(カタニナ)をタダで解放せよと申すか?」

「恐れ入りながら…」


麦酒(エール)を呷って喉を潤す。


「借金奴隷は世の習いにして、この村でも珍しくはあるまい。年季が明けるまで辛抱せよ」

「しかし、……」


酒場はこの地に多い薄ぼんやりとした照明で暗く別席の人相は判別しづらい。


「なぁに、遠い話ではない。我らがここに滞在する間だけよのぉ」

「…」


兎娘カタニナプルとお供の二人はマキトの魔道具店で働く事になる。…借金の額はこちらの言い値で暴利だ。


僕らは酒と肴を楽しんだ。


「それよりも、マキトよ。励み過ぎではあるまいか?」

「えっ?、店の仕事は順調ですよッ」


確かに、ここ最近は体調も悪くて気だるい雰囲気だが、気に病む程とは思えない。


「そうではない、…夜の務めの…」

「?」


珍しくサリアニア侯爵姫の歯切れが悪いので、お付きの女中(メイド)スーンシアが援護した。


「マキト様のお部屋へ毎晩の様に女性が訪問しています」

「はっ?、馬鹿なッ!」


僕は動揺を隠せないが、顔色も悪くて疲労も抜けない。


「…アレも、し過ぎすると…体に毒じゃ…」

「教授ッ、起きてますか!?」


ちみっ子教授が寝言で突っ込むのを回避できず。


「お嬢様の身の安全が優先されますッ」

「あのぉ…マキト様の嗜好のお世話は致しかねます」


先んじて、女中(メイド)のスーンシアと兎娘カタニナプルに拒否された。


「ならば、やむを得ぬ仕儀かの」

「いや、僕は……」


とんだ濡れ衣なのだが、僕は娼婦を部屋に呼んだ覚えは無い。…何かの陰謀か?


僕は迷宮(ダンジョン)の陰謀を予感した。




◆◇◇◆◇




 オグル塚の大迷宮の地下深い宮殿では迷宮(ダンジョン)(ぬし)と見える美丈夫の男が報告を聞いていた。深淵の覗き窓の様にして酒場の様子が岩壁に映されている。音声が無いのは残念だが薄暗い室内にも関わらず夜目が効くように鮮明な映像と見える。


迷宮(ダンジョン)(ぬし)の魔物と見える角がキラリと光る。


「プリシーラ。収支を報告せよ」

「はぁ~い◇(ハート)」


淫魔だろう妖艶な美女が報告する。


「英雄どのからは大量に魔力を頂いたわ。代わりの魔獣の育成も順調ですぅ~◇(ハート)」

「ふむ。魔力の供給を絶やすな」


(ぬし)の注意にも愛を感じる。


「はぁ~い◇(ハート)」

「しかし、食い過ぎではあるまいか?」


岩壁に映されたグリフォンの英雄の横顔はやつれて見えた。


「だってぇ、無色の魔力は珍しくて…美味しい…なのぉ◇(ハート)」

「程々にしておけッ」


危険な者は弱体化するに限る。精々に夜の生活を楽しんでもらおう。


「むふふっ◇(ハート)」


妖艶な美女は了承もせずに愛を振り撒くばかりだ。





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