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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十五章 霧の隘路に陥穽を
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ep192 反撃の狼煙

ep192 反撃の狼煙





 僕らはオグル塚の大迷宮の南部を守る帝国軍の城塞に宿泊していた。水龍トールサウルが姿を消した海岸線から城塞までは通常の森林と植物群が眺められて魔芋の蔦や森の様に巨大化して生い茂った蔦草も見られない。ここは以前に迷宮(ダンジョン)の暴走で壊滅的な被害を受けた爆心地に近い地域だ。こんなに短期間で森の自然が回復するとは思えない。それに樹齢が何十年もする高木も残されており豊かな自然の森に見えた。


「やはり、そうであろう」

「と言うと?」


サリアニア侯爵姫は袋から金貨を取り出した。それは僕が貝玉の代金としてスマッシャ男爵子から受け取った金貨だろう。


「この金貨は初代皇帝の肖像を刻印しておるが、問題は製造時期よのぉ」

「帝国歴75年ッ!!」


既に帝国歴は300年を数えるが、200年以上前の古物は珍しい。女中(メイド)のスーンシアが金貨を検める。


「お嬢様。こちらは、65年です」

「…」


全ての金貨を確かめても帝国歴79年を超える鋳造金貨は無い。


「まさか、ここは……帝国歴80年代のイルムドフ地方ですか?」

「うむ。その可能性が高い」


城塞の兵士に暦を尋ねるのは得策ではない。一般の兵士では給料日以外に年月日も暦にも関心は無いだろうと思う。


「これでは、我らの正体を明かす事は出来ぬッ」

「それよりも帰る方法を探しましょう!」


僕が願望を述べると、サリアニア侯爵姫は希望を示した。


「確証は無いが、当てはある。……おそらく、あの怪しげな白い霧かのぉ」

「…」


そして、僕らにはもう一つ懸案があった。ちみっ子教授が初日から眠り続けているのだ。


………



城塞の内部は出撃準備に大忙しの帝国兵が右往左往しているが、これでも秩序はある方らしい。城塞の守備指揮官ラング・スマッシャ男爵子の話では撤退する敵方の軍勢を密かに尾行して敵の拠点を発見したと言う。今までは城塞の防戦一方だった帝国軍の士気は上がり反撃の準備を始めた。


「私どもは急ぎの旅路にて失礼いたすッ」

「姫殿下にお会いできて光栄でござる」


サリアニア侯爵姫が暇を告げる。僕は腰に佩いた剣を差し出した。


「スマッシャ男爵子。これを……」

「おぉ。これは名剣では、あるかッ!」


量産型の鋳物の剣だが、この時代には珍しい様式だろうか。感激した髭もじゃのラングが男泣きにうざい。


「ご武運をお祈り致しますわ」

「忝い」


珍しくスーンシアが優しい言葉を残す。僕らはボロ馬車を発進させて城塞を離れた。眠り姫となったちみっ子のチリコ教授は荷物と一緒に積み込んだ。護衛の河トロルほかリドナスと女騎士ジュリアとの合流は絶望的と思える。帝国軍と敵方との戦闘を避けて、僕らは手近な集落であるオグル塚の迷宮へ向かった。


オグル塚に隣接した集落は冒険者ギルドの支部と宿泊施設や商業施設を複合して寄せ集めた長屋の様な建物だった。その建物を中心にして冒険者を相手にする商店や飲食店などが無秩序に建ち並び、そこそこの賑わいを見せている。迷宮都市の始まりを思わせる活気だ。


僕らは情報集めにオグル塚の迷宮村へ滞在した。


流石に眠ったままのチリコ教授を放置も出来ずに、僕はちみっ子を背負子に乗せて通りの商店を探索した。サリアニア侯爵姫とお付きの女中(メイド)スーンシアは冒険者の風体で現地の情報を集めた。


それによると、今年は帝国歴82年との事。オグル塚の迷宮には魔王がいるらしい事。ここから南の森には蛮族の集落があり帝国軍の先兵と戦争をしている事。なお、魔芋の存在は確認できなかった。


「そんな、所か…」

「姫様。迷宮の探索も致しますか?」


さも当然の様にスーンシアは尋ねるが、サリアニアは冷静に現状を認識していた。


「うむ。魔王とやらにも興味はあるが、こちらの戦力不足であろう」

「…」


ここで暴れ姫の武名を上げなくて良かった。ならば、無事に帰還する事を最優先に考えたい。


「帝国軍の反抗作戦が終わったら、霧の中を探索しましょう」

「…それしか、あるまいッ」


サリアニア侯爵姫は明らかに不満顔なので、オグル塚の迷宮へ発散が必要と思う。


………



迷宮(ダンジョン)の通路に連拍の気合いが響き渡る。


「はぁぁああああ!」

「連戦練磨っ!【風神剣】」


戦闘メイドのスーンシアが分銅の付いた鎖を投じると、軟体生物の様にして巨大なスライムが脈動した。その脈動の内に核石を見咎めたサリアニア侯爵姫は風の刃を二連打してスライムの核石を破壊する。


途端に溶け崩れるスライムは迷宮(ダンジョン)の通路に広がって形を無くした。後には不純物と魔石が残される。僕は大き目の魔石を拾い上げた。


「見事な魔石ですねぇ」

「…ふむ、スライムの食性は雑食じゃよ…」


鑑定する迄もなく光の魔石に黒墨が交る低級品質の魔石だろう。ちみっ子教授は眠ったまま寝言で解説を述べた。学園生活での講義の夢でも見ているのだろう。


「スライム如きでは物足りぬが、本日は堪忍してやろう」

「…勿体なきお言葉に、恐れ入ります」


サリアニア侯爵姫がドヤ顔で言うのに、戦闘メイドのスーンシアが応えた。


僕らはオグル塚の迷宮で腕試しに入口から数階層の魔物を退治していた。積極的に魔物を狩る冒険者は少なくて多くは最深部のお宝を探索するらしい。そのため僕らの邪魔になる競争者(ライバル)も同業者も無くて快適な狩り場となった。これでサリアニア侯爵姫のご不満も解消して頂けただろうか。


そんな調子で僕らは迷宮村へ宿泊した。


………



その夜、僕が宿泊する部屋に訪問者があった。コンコン。


「!…」


こんな夜更けに戸を叩くのは、サリアニア侯爵姫ではあるまい。…女中(メイド)のスーンシアが夜這いするとも思えない。何かの相談事だろうか、姫様の警護はどうした?


不審に思うも部屋の扉を開くと妖艶な美女が立っていた。衣装は紐の様にして矢鱈と露出が激しい。


「…娼婦を呼んだ覚えはないが」

「あら、グリフォンの英雄様ではなくて?」


扇情的な胸の谷間と腰付きは妖艶連破の二段攻撃だ。僕は視線を泳がせて答えた。


「ひ、人違いであろうッ」

「いいえ、あたしの鼻は誤魔化せないわよ」


そう言うと妖艶な美女は女体の突起を僕へ押し付けて殺到した。そのまま押し圧しに寝台へと倒れ込む。


「っ!」

「あたしに任せておけば、天にも昇る快楽を楽しませて、あ・げ・る◇(ハート)」


妖艶な美女の口づけは甘く僕は思考を無くした。


夜が更けても僕の理性は行方不明で、隠された性癖も嗜好も暴かれて昇天するのみだ。何度も登り詰めては落とされる快楽に溺れては迷宮(ダンジョン)の帰還も危うい。ここはオグル塚の大迷宮の入口に建つ冒険者の宿だッ。


そんな、狂騒にも隣人は気付かないのだろうか。


僕に残された理性は消し飛んだ。





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