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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十五章 霧の隘路に陥穽を
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ep191 砦の襲撃者

ep191 砦の襲撃者




 その砦には柄の悪い兵士や傭兵たちの食堂とは別に士官用の食堂があった。僕らはサリアニア侯爵姫のお供の様にして士官食堂へ乗り込んだ。既に勝手知ったる堂々とした様子の姫様が頼もしい。昨晩も護衛の兵士は砦に到着していない。


「ややっ、これは姫殿下。お早いお越しでございますかな?」


髭もじゃの顔を笑顔に変えてラング・スマッシャ男爵子が出迎えた。他の士官も立ち上がり敬礼をする様子にサリアニア侯爵姫が応える。


「ふむ。朝食は欠かさぬ主義じゃ。構わぬ…食事を続けよッ」

「はっ!」


侯爵姫ともなれば、朝も遅く優雅な生活かと思われる。その侯爵姫には女中(メイド)の姿のスーンシアが給仕して朝食を並べる。僕は士官用の盆と皿に朝食を盛りテーブルへ着いた。


「…山賊にしては、良い食事である…」

「サリア様、聞こえますよ……」


サリアニア侯爵姫が呟くのに僕は小声で囁いた。


「規律を重んじ礼儀も正しい…まるで、帝国軍の精鋭のようじゃ」

「確かに……」


食事風景は山賊の親分にしか見えないが、髭もじゃの顔でも若いらしい。なにしろ、本人はスマッシャ男爵家の三番目の実子だと言う。


「スマッシャ男爵家は武門であったが、家系は継承されているという事か?」

「…」


サリアニア侯爵姫は自身の記憶を探索し思考する。


そこへ伝令が駆け込んだ。


「敵襲ッ!」

「っ!」


それだけ聞くと士官も兵士もドタドタと食堂を駆け出して行った。


後には僕らのみが残された。


………



砦に押し寄せた軍勢は朝霧の中から現われた。昨晩のうちに砦を包囲したらい。周りを囲むの兵士はボロ布の服に錆びた剣や槍を備えている。むしろ、敵の方が野盗の類と見えるのだが、…


「ふむ。これはマズイ情勢である」

「あれは!?」


僕らは司令部に近い櫓に登り戦況を眺めたが、思うよりは包囲の兵士が少ない。それでもマズイと思うのは敵方の攻城兵器がのっそりと移動しているからだ。


「巨大な亀か龍種と見えるが…」

「水龍トールサウル!!」


それは巨体な亀の容姿にしてのっそりと移動しているが、トールサウルの巨体を当てるのみでも砦の城門は破壊されるだろう。


「ほほう、お主も意外と物知りであるなッ」

「あれは帝国領の山奥の……湖に住んでいたハズですが…」


サリアニア侯爵姫の皮肉も意に介さず、僕は回避方法を探した。


「それでも、こちらの砦へ突進して来るのは間違いあるまい」

「っ!」


…砦を打って出るしか方法は無い。と思ったその時、砦の城門が開いた。馬蹄を轟かせて騎兵の部隊が駆けてゆく。その様子を見た包囲の兵士が砦の城門へ殺到するものの、対応して砦の兵士も門前へ飛び出し乱戦となった。


「えぇい。我らが勇を示せッ」

「「 お応ぅ! 」」


乱戦の中でラング・スマッシャ男爵子が叫んだ。それは兵士たちへの鼓舞となる。ラング本人も原始的な棍棒を振り回し敵兵をなぎ倒している。稀に見る膂力と剛腕と思える戦いぶりだ。


騎兵隊は包囲の兵士を突破してトールサウルの巨体の足元へ到着したが、騎兵の突撃槍も物ともせず平気な顔でトールサウルは進撃を続けた。…止まらねぇ。


「お主。どこへ!?」

「馬を借りますッ…」


僕は櫓を降りて厩へ走った。適当な馬に飛び乗り言う事を聞かす。


「ハッ!」


全速力に駆け出した馬は城門の乱戦を割り、敵兵もなぎ倒してトールサウルへ迫った。


「やぁ、これでも喰らえッ!」


僕は鞄から袋を取り出して中身をブチ撒けた。バラバラと白い玉石をトールサウルの顔面にぶつけると奴は大口を開けた。


-HooGYaaSuu-


音に成らない咆哮を上げてトールサウルが右を向く。僕が新たに白い玉石の粒を浴びせたからだ。トールサウルの巨体が右へ転進する。


「こっちだッ、来い!」


水龍トールサウルは僕の誘導に従って海岸線へ向かった。そのまま誘導されたトールサウルは海中へと没して姿を消した。


僕が砦へ馬を駆けて戻ると乱戦は終結し、包囲の敵軍も撤退したらしい。門前には乱戦にて戦死した遺体がゴロゴロと丸太の様に転がっている。それでも、砦の兵士たちの士気は高く僕は歓声と伴に迎えられた。


「英雄クロホメロス殿の勇気を称え、百万の感謝をッ!」


「「「 うおぅぉぉぉぉおおお! 」」」


地鳴りのような兵士たちの歓声が砦に木霊した。


………



僕が投げた白い玉石はイルムドフの港町で仕入れた貝玉だ。貝の中から取り出した虹色に輝く玉石は高値で取引される宝飾品である。


「ほう、奴の好物は貝玉となッ」

「こちらへ来る途中に、イルムドフにて買い付けた物です」


貝玉は水龍トールサウルの大好物なのだが、イルムドフの特産品の貝玉を買い付けたのは偶然と言える。


「そこな、漁村でもあるか?」

「さて、浜辺で貝を取る漁師がいれば、貝玉を得るのも可能ですが…」


漁師から直接に集めるのは手間が掛かりそうだ。むしろ、王都イルムドフの市場から仕入れるのも方法だろう。


「ふむ。ご助力に感謝いたすッ」

「…」


僕は貝玉の残りと引き換えにして金貨を得た。帰りには再び王都イルムドフの市場へ立ち寄ろうと思う。


こうして砦の難局を打開した。





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