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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二章 魔物と戦って見たこと
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020 格闘術入門

020 格闘術入門






 僕は魔物が討伐された北平原で格闘術を訓練していた。


城塞都市キドの防衛隊の働きで北平原の一帯は魔物が討伐されて一時期の平穏状態にあった。

巨体トロルとの戦闘では、止めを刺した防衛隊が第一功とされたが、最初に傷を負わせたマーロイとトロルの棍棒を取り上げたバオウも表彰されて賞金を受け取った。


残念ながら功績が認められなかったシシリアはふくれ顔だったが、チームの四人で賞金を山分けすると提案したら天使の笑顔だった。

その後、奥さんの臨月が近いとなってマーロイは自宅で付きっきりだ。狩猟者チームもしばし活動を休止するそうだ。


獣人の戦士バオウが肉体強化の手本を見せる。


「GUF 手足の筋肉に 魔力を通す イメージだ」

「はい!」


バオウの動きが加速する。


「GAH 使う筋肉を 意識しろ」

「はい!」


バオウの動きが切れを増す。


「GUA こうだ」

「はい!」


ぜんぜん追いつかない。筋肉と魔力の流れが噛み合わない感じで疲れる。


「GUF すこし 休憩にしよう」

「はぁ、はぁ」


僕は息も絶えだえになり木陰に倒れ込む。水筒から水を飲んで休憩した。

バオウを見ると土を形成して壺のような物を作っていた。


「土魔法ですか?」

「そうだ」


壺は素朴な土器のようで縄目の文様があった。意外と芸が細かい。


「器用ですね」

「GUF 土魔法は 魔力で地面に 作用する」


バオウは土の壺を投げて寄こした。


「…」

「この様に 堅い壺も 作れる ガ…」


壺は堅く焼成したかの様だ。


「…」

「しかし 魔力が無ければ こんなに モロイ」


途端に壺が手の中で崩れた。


「むーん」

「GUF 肉体も これと同じだ」


悩んでいた僕にバオウが道筋を示したが、戦闘訓練の道のりは遠いようだ。

その日は魔力による肉体強化の訓練を続けたが、魔力不足のせいか途中でぶっ倒れた。


◇ (あたしは魔法による身体強化を応用してみた。神鳥(かんとり)魔法【神鳥(ゴッド)加速(スピード)】!…飛行速度を限界まで加速すると風切音が変調した…予め高速飛行の形態に変身すれば、まだ速度は伸びそうだわ)



◆◇◇◆◇



 僕はすでに日課となった肉体強化の訓練をしている。

訓練の合間にバオウの魔法による肉体強化の理論を聞く。本にしたら売れるかも。


「GAH 技を放つ 瞬間だけ 魔力を使う」

「はい!」


バオウの拳に魔力が集まるが、それは打撃の瞬間だけだ。僕は流れるような連続技をみつめる。


「GUF 常に魔力を 全開では 身が持たん」

「なるほど」


ある日、訓練中の平原にシシリアが訪れた。手を止めて話をきく。


「知り合いの商隊に護衛を頼まれたのだけど、人手が足りなくて…」

「GUF 任せろ!」

「…」


バオウは最後まで聞かずに乗り気の様子だ。すると僕も強制参加だろう。僕らは簡単にシシリアの話を聞いて護衛任務を引き受けた。




◆◇◇◆◇




 次の日、キドの町の南門で商隊の代表の商人と、護衛の傭兵団の隊長と見える人物に紹介された。


「キドの山城の方ですね?」

「うむ。共同任務だ、よろしく頼む」


シシリアと傭兵団の隊長が挨拶している。商人の男はすぐに出発したいと荷車へ戻って行った。


「正規の防衛隊の方は?」

「本隊で問題があったらしく、我らが代行任務だ」


ずぐにキドの町を出発した。僕らも荷車に付いて行く。

荷車とはいえ引いているのは牛に似た家畜だ。魔物の派生かもしれない。


道すがら、傭兵団の話を聞くとキドの北平原の討伐作戦の後に防衛隊で騒動があったそうだ。なんでも作戦中に負傷した兵士に傷薬を使用したのだが、効きが悪い不良品が混じっていたとか。薬を飲んで逆に容態が悪化したとか。命に関わる事だけに心配な話だった。


商隊はキドの町の特産である魔物の素材を荷車に積み、ここから北東にあるトルメリアを目指す。この辺りは平野部で街道から見える畑には春野菜や、夏に向けて新緑の芽が吹いていた。


「長閑ですね~」

「GUF そうでも ない」


バオウが不吉な事を言う。


「…」

「この先には 山賊がでる 峠がある」


詳しくバオウの話を聞くと、峠の近隣には貧民街から出た破落戸(ごろつき)の拠点があるとの噂だった。トルメリアの町やキドの町にも貧民街(スラム)はあるが、成り上がりを実現する手段として犯罪者となる者もいるらしい。


「敵襲!」

「GAH! HAHAHA」


ひと声吠えるとバオウは、我れ先にと駆けだした。僕も魔力による体力強化をして後に続く。先頭の荷車付近にいた傭兵たちが、既に山賊の一団に応戦していた。


バオウは山側の伏兵に気づいた様子で、樹々の間を駆け上った。僕は付いて行くのを止めて周りを見渡す。シシリアが谷側へ弓を放つと伏兵が逃げ出した。


すぐにバオウが手ぶらで戻ってきた。傭兵団も深追いはしない様子だ。


「GUU 強襲偵察 ダロ…」

「連中はやけに、あっさり引いたわ」


バオウとシシリアは頷き合った。


◇ (あたしは高速飛行の形態で山賊の後を追った。山間部に山賊の拠点と見える集落があった。山間の農地は少なく畑に人影も無い。狩り…商隊の襲撃に出かけているのかしら)


………


それ以降はこちらの実力を見せただけで、山賊の襲撃は無かった。峠を越えて開けた場所で野営する。山がちの地形で水の入手に苦労するが、しかたなく荷車に積んでいた水樽から分けて貰う。


「GUF 水無しでは 三日も いきられん」

「…」


バオウが水樽を見て言う。


「GAH 飯抜きでも 十日は 生きられる」

「へぇ」


やけに実感がこもった物言いに関心するが、僕は肉と野菜の煮込みを作る。蒸気鍋にはお世話になっている。制作者のスミノスさんには感謝したい。


夕食を済ませて交代で夜間の警護をするが、何事もなかった。




◆◇◇◆◇




次の日の夕刻には、港町トルメリアに到着した。じつに、約ひと月ぶりのトルメリア帰還だった。商人ギルドで護衛の報酬を受け取ると解散して別行動となった。


僕は倉庫街にあるアルトレイ商会へ向かった。商会の店舗は営業を再開していたが、魔道具のほかに干物も販売していた。


「おぉ、マキト君じゃないかね」

「会長! 無事でしたか」


店の干物売り場にいたキアヌ会長に会った。いくぶん痩せた様子にみえる。


「容疑としては証拠が不十分で、観察処分と言われたが……」

「…」


キアヌ会長の視線を追うと、見慣れぬ店員がいた。眼つきが悪すぎる…監視だろう。


「ともあれ、店は再開できたし、ギスタフ君の依頼も手配したから安心したまえ」

「ありがとうございます」


奥の事務所に入って詳しく話を聞くと、キアヌ会長は水の魔道具の製造に使われた黒い魔石の入手経路について厳しく追及されたそうだ。

しかし、当時はまだ新作の水の魔道具の製造には着手できておらず、他の商会の魔道具と模倣品ができるかどうかの段階だった。


工房の設備もあり販路も競合していたが、容疑としては見込み違いだろう。むしろ、冤罪のまま捕縛されたが、処刑されずに助かったとも言える。


「ゆっくり、休みたまえ」

「はい」


僕は店舗の裏手にある工房を尋ねた。


「こんにちは」

「おや、マキトさん。復帰ですか?」


以前の見習い職人だった男がいた、ひと月前は干物を売って生活していたと思う。


「近くに、仕事で立ち寄ったので…」

「…」


近況を聞くと干物の販売が好調で作成技術もあがった様子だ。以前の職人は半分程度しか戻ってきていないそうだ。


作業場で余った金属板と工具を借りる。金属板を丸く切り出し左上の端に穴を空ける。


「魔力走査…【複製】」


魔力走査と複製を5回繰り返して横一列に32個の穴をあけた。

さらに、横一列を丸ごと複製して縦にも32個の穴をあけた。


「ふう」


余った四隅はコの形に切って足を作った。


「何ですかコレ?」

「蒸し台」


蒸気鍋に入れて大きさを確かめる。足の角度を調整して完成だ!


さて料理をつくろう。





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※次回の更新は 12/25 です。

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