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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十五章 霧の隘路に陥穽を
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ep189 魔獣の研究家

ep189 魔獣の研究家





 僕らは荒野と湿地帯の案内役としてチリコ教授に同行していた。チリコ教授はトルメリア王国の私立工芸学舎で魔物生態学の教鞭をとる教授先生だ。


「にょほほほ、こんなに間近でグリフォンの観察が出来るとはッ、望外の喜びじゃ!」

「しッ、お静かに……気取られます」


湿地の葦よしを押して沼地の湖面を眺めると、上空から赤毛のグリフォンが飛来して水面を打った。


バシャバシャと巨体の魚が泥を飛ばすが、グリフォンとの力比べに負けて持ち出された。岩の上に獲物を固定した赤毛のグリフォンが止めを刺す。


-GUUQ !-


ひと声鳴くと、赤毛のグリフォンが飛び立つ。その横顔は挑戦的だが獲物を仕留めた満足感が見えた。


「………なんじゃ?」

「満足した鳴き声と思いますが、獲物は放置の様子ですねぇ」


岩の上には巨体の鯰に似た魚が息絶えている。白身は揚げ物にしてもタレ焼きにしても美味いと思う。


「ほほう、グリフォンの狩りは遊びも同然と…」

「次の穴場へご案内します」


僕は観察記録を付けるチリコ教授を担いで沼地を移動する。妖精族と見えるちみっ子教授を軽々と背負子に乗せて運ぶのだ。沼地の護衛には若き河トロルたちが担当している。姿を見せずとも僕の魔力感知で動向が分かる。…まだまだ、護衛任務にも訓練が必要と思う。


比較的に広い水面がある湖沼地帯に着いた。


「おや?、あれは……若いグリフォンかのぉ」

「ギリギリまで、近づいて見ましょう」


僕らは低木林の茂みを廻り込んでグリフォンを観察した。湖面では白毛交じりに楚々とした雰囲気の若いグリフォンが水浴びをしている。


バシャバシャと湖面を揺らして水を浴びる姿は乙女を連想させて、危ない気分になる。…どうにも覗きをしている気分だ。


「ほうほう、グリフォンの羽の内側は……こうなっているのかッ」

「…っ!」


グリフォン観察と写生の絵図に夢中な様子のちみっこ教授を引き掴んで、僕は逃走した。


「びゃっ!」

「全速で逃げますッ…【俊足】【加速】」


鋭い風と水飛沫が飛んで来た。水を被って驚くチリコ教授を掴んだまま、僕はジグザグに湿地を駆けた。


護衛の者も対処が出来ない程に、鋭い風圧だった。甘く見ては危険な相手だろう。


それでも、チリコ教授は大喜びだった。




◆◇◇◆◇




 アアルルノルド帝国の王都から詰問らしい書状が届いた。貴族に特有な文書の内容を要約すると「なぜ、帝国軍に協力しないか?馬鹿者ッ」となる。


「これは、皇帝陛下への申し開きが必要ですかねぇ」

「ふん、これを見るが良い。……書状の差出人は軍務卿だから、放置しても問題は無かろう」


サリアニア侯爵姫はそう言うが、…


「えっ!、問題にならない?」

「おほほほ、現在の帝国軍の駐屯地はマキト男爵様のご領地とは無関係な所にて…」


メルティナお嬢様が冷静に状況を補足した。


「…」

「イルムドフの貴族議会と帝国の国際問題だッ。マキト殿が口出しすべき案件では無い!」


いつの間にか会議に加わった男装の麗人アーネストに断言された。それはアンネローゼ孫公女殿下が世を忍ぶ仮の姿だ。


「そういう事なら、書状の返答は?」

「なぁに、現場の指揮官へ直接に、ねじ込むのも良かろう」


何かサリアニア侯爵姫に考えがあるらしい。


「うむ。任せる」

「はっ」


…本当にそれで良いのか。


皇帝陛下へは精製した砂糖と良く焙煎した珈琲豆を送った。…保身は大切だろうと思う。




◆◇◇◆◇




 僕らは帝国の駐屯地を訪問した。チリコ教授が北部山岳に飛来したグリフォンの生態を見たい!と言うので、その序に面会だとは明かせない。


「これは、マキト・クロホメロス卿。先年の合同会議、以来ですなぁ」

「お久しぶりでございます。トゥーリマン中佐殿…」


僕らは貴族らしい挨拶を省略して、現場の実務者らしい会談を行った。


「それで、グリフォンは抑えられますかなッ?」

「いや、野生の魔獣の事につき……我々も手を焼いております」


北部山地の概略図を示して、僕は山賊団が壊滅した話や開拓村の被害状況を報告する。…勿論、虚構を付加した大袈裟な話だ。


「…」

「それで、被害を避けるには注意すべき事があります」


グリフォンの生態について、チリコ教授から解説があった。流石の教職に慣れた話ぶりでトゥーリマン中佐も熱心に話を聞く様子だった。


チリコ教授の解説では、野生のグリフォンの襲撃を避ける為には多人数の集団移動を避ける事。グリフォンの水浴びは決して覗かない事。その他にも好物は新鮮な肉類だろう事も伝えられた。


人族の軍隊は野生のグリフォンから見れば腕試しに襲撃する遊びの様な物だ、という観察結果には驚かれたが同時に感謝もされた。トゥーリマン中佐は、これで無駄な戦闘を避けられると言う。


「うむ、…良く分かった。今後とも、ご協力に期待するッ」

「はっ」


一応に納得の会談を終えて僕らは帰還する。いつものボロ馬車は魔芋の森を進むが、…


その森には濃密な霧が湧き出していた。




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