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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十五章 霧の隘路に陥穽を
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ep187 上空通過とタルタドフの視察

ep187 上空通過とタルタドフの視察





 タルタドフの開拓村の屋敷へ戻った僕らは、新たに設置した露天風呂を堪能した。屋敷の北側の城壁と温室に囲まれた場所を庭園にして石窯に火を入れて湯を張る。眺めは実験農場の草木と温室の花だ。庭園に残された岩も風情を出している。その大岩の上には二頭の野生のグリフォンが陣取り僕を睥睨している。他にも三頭のグリフォンは湖沼地帯へ狩りに出かけたらしい。


金赤毛の獣人ファガンヌは獣人の姿で数か月ぶりの湯殿を楽しんでいる。いつもの貫頭衣は跡形も無くて闘争の激しさが思われた。ファガンヌは四天王ならぬ五大巨頭の野生のグリフォンを従えて帰還したのは、劇作家のサルサ師も驚きの事実だろう。しかし、彼ら野生のグリフォンが僕を見る目は野生の魔獣そのもので油断は出来ない。とんだ危険物を身近に抱える事態となった。


「GUUQ 満足した…」


獣人ファガンヌは多くを語らないが、大した傷跡も無くて無事な様子に安堵する。


ファガンヌが肢体を晒して湯から立ち上がると、ザッと野生のグリフォンが動く気配もあったが、屋敷のメイドはファガンヌの汗を拭い新しい貫頭衣を着せる。すっかり、お客様待遇である。


「新作の氷菓子だよ」

「GUUQ !」


露店風呂に備え付けの加熱と氷の精製器も好評で、ベリーに砂糖を加えて煮詰めた甘酸っぱいソースはファガンヌもお気に入りの様子だ。


僕らは休息を得た。




◆◇◇◆◇




 オグル塚の大迷宮の南側を守る城塞の跡地は、アアルルノルド帝国の軍の駐屯地となった。その駐屯地では、北方から飛来して南西の方角へ上空を通過する複数のグリフォンの姿が目撃されていた。


「物見の報告では…その数、三頭以上と…」

「馬鹿なッ。その様な戦力がイルムドフの革命政権にあるとは思えぬ」


帝国軍の司令官は堅実を持ってなるトゥーリマン中佐だ。以前はイルムドフの南部を守護するソルノドフの軍監を務めた男で、神経質に臆病な軍事顧問との評判であったが、先のトルメリア王国の侵攻に対しての防衛戦に活躍し昇進したらしい。


「守りを固めますか?」

「魔獣グリフォンが相手となれば、騎兵隊の三個中隊も必要であろう……すぐに特別編成をせよッ」


「はっ」


副官の提案も考慮してトゥーリマン中佐は堅実な戦力推定を行った。


帝国の軍事教本では、飛行系の魔獣に対しては十の騎兵で対処する。騎兵は三で小隊とし三個小隊に指揮官を加えて中隊とする。その中隊規模で一体のグリフォンを相手にするのだ。理想を言えば遊撃と陽動にも追加戦力が欲しい。


城塞の跡地では物見櫓の建設もしている。高所に弓兵と魔法兵を配置してグリフォンを迎撃するのも良かろう。


帝国軍は防衛戦の準備を始めた。堅実なトゥーリマン中佐らしい判断だ。




◆◇◇◆◇




 イルムドフの王都では防衛軍の準備と地方領主への戦の協力要請が行われた。帝国軍と言う強大な戦力に対しては国難と言える当然の処置らしい。我らがタルタドフ勢に対してはイルムドフの貴族議会から戦時不介入の申し入れがあった。さらに、交渉団の代表としてアンネローゼ孫公女殿下がタルタドフを訪れた。


「開拓村とは思えぬ……素晴らしい町ですこと」

「お褒めに与り、光栄にございます」


こんな地方の開拓村へイルムドフの貴族議会の代表であるアンネローゼ孫公女殿下が足を向けるとは驚きである。


「しばらく滞在いたします。良しなに……」

「えっ!」


アンネローゼ孫公女殿下にしては珍しく歯切れの悪い物言いだ。それにも増して滞在すると言うのは…戦時不介入の為の人質か王都からの避難を見越しての退避か…真意は測りかねる。


それでも迎賓館など無い開拓村のことで、屋敷の客間が急遽に貴賓室らしく整えられている。今頃は屋敷の女中(メイド)たちが大忙しだろう。


「それでは庭園なども、ご案内いたしましょう~」

「お願い致しますわ」


孫公女殿下の護衛には屋敷のメイド隊が当てられた。


メイド隊の努力に感謝したい。


………


アンネローゼ孫公女殿下は町の芝居小屋で男装の麗人を演じていて事もあり、姫様のドレスを着ていなければ、背の高い美丈夫とも見える。僕が並んで歩くと…ヒールの高い靴の分で負けているか…もう少しで身長は追い付くぜッ。


僕の成長期に期待したい。


「これは?」

「米の栽培を行う、試験農場です」


屋敷の庭園の先には水田があり、各種の米が植えられている。


「ほほう…」

「品種ごとの生育条件や病害虫の研究をしています。こちらへどうぞッ」


僕はアンネローゼを温室へ案内した。


「なんとッ、ガラス張の庭園か!」

「こちらでは、南方産の植物を栽培し研究をしています」


貴族の屋敷でも稀な総ガラス張りの温室だ。そして、


「贅沢な物であるなッ」

「恐れ入ります。……そして、温室のガラスは全て当地で製作を致しました」


僕がもうひとつ爆弾を投下すると、…


「!…」

「工房ではガラス職人が働いており、この何倍もの規模で製作が行われます。……後程、ご覧になりますか?」


衝撃の事実にアンネローゼ孫公女殿下も言葉を失うが、すぐに好奇心が勝った様子だ。


「勿論だとも、早よう案内せよッ」

「はっ」


僕らはガラス工房の見学へ向かった。




◆◇◇◆◇




 開拓村(マキト・タルタドフ)の冒険者ギルドでは騒動があった。小村の事で、若いギルド職員のミラは狩猟者ギルドとの兼任で総責任者となっていた。


「魔獣グリフォンが三頭とは……ファガンヌさんではなくて?」

「黒毛と葦毛だッ。あんなの見た事もねぇよ!」


魔獣グリフォンがファガンヌならば金赤毛だ。興奮した男が叫ぶのを制してギルド長(仮)のミラが言う。


「あまり刺激しないで、見つからない様に監視して下さい」

「む、無理っす……」


狩猟者と見える男は依頼を辞退した。他にも使えそうな冒険者を探すか。


「それならば、狩猟は中止して余所へ行くことねッ」

「うっく…」


ミラが念を押すと男は黙るしかなかった。


どうにか、ギルドでも監視に使える人材を配置したい所だ。


………


そこはタルタドフの南の荒野に湿地と湖沼地帯が広がり野生のグリフォンが狩りをしている。バシャと水音を立てて大型の川魚が狩られた。グリフォンの気配が遠ざかる。


「…」


沼地の泥に潜み様子を伺う小柄な影があった。その地には湿地と湖沼地帯を知り尽くした河トロルという使える人材がいた。


「ららららら♪」


「…ろろろろろ♪…」


「……るるるるる♪……」


情報の伝達速度も中々の者と見える。


こうして湿地と湖沼地帯の様子はマキトの元へ知らされるのだ。





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