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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十五章 霧の隘路に陥穽を
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ep185 夏の売上に貢献する

ep185 夏の売上に貢献する





 山賊団が採取した氷は霧の国イルムドフの王都へ運ばれて、クロウ商会が買い取る。大型の保冷箱や魔道具の保冷設備を備えた商会は王都でも少ないだろう。


輸送費を考慮して氷の山を適正価格で買い取った。


「ひやっはぁー。ボスには恐れ入るぜッ」

「保冷箱は貸しておくが、秋までには返せよ。それと帰りには、必要な物資を買い付けると良いだろう」


若干の助言にも山賊の頭目は不満顔だが、


「俺たちぃに、行商人の真似事をせよと?」

「ふむ。山賊が出没する様な土地で、マトモな商売が出来るハズもなかろう」


「ちげーねぇ」


これで補給の問題も解決は出来た。あとは山賊たちの努力次第と思う。


クロウ商会と今後の買い取り契約を済ませて、町で解散した。


「ひやっはぁー。野郎ども飲みに行くぜッ」

「「「 おう! 」」」


全ての儲けが、飲み代に消えない事を祈る。




◆◇◇◆◇




 クロウ商会では、仕入れた氷を使い広場のお客へ氷菓子を販売する。また周囲の飲食店にも業務価格で氷を提供した。


まずは単純に氷を削ったかき氷だろうと、削り機の調子は良い。かき氷には糖蜜と果汁を煮詰めた物を掛けて味にも色にも特色を出す。クロウ商会の従業員へ試食にかき氷を配っていると問題があった。


「あっ、痛たッ」

「頭痛か!?」


犬顔の獣人マルチが顔を顰める。


「いえ、氷の中に石が……GUW」

「魔石じゃないかッ?」


見ると小石にも満たぬ小さなクズ魔石だ。迷宮(ダンジョン)の魔物を討伐した戦利品だけに魔石の混入は問題だろう。


「それは……当りにしよう。お客様には店頭で告知して…、魔石はクロウ商会で買い取るのさ!」

「GHAっ」


クズ魔石とはいえ商品価値もある。混入を承知していれば、大事故には成らないだろう。


そんな打算を持って夏のかき氷の販売は始まった。


………


霧の国イルムドフは早朝と夕方に濃い霧が発生して夜間の外出は憚られる。それでも広場の暑さと湿気は耐えがたくて氷の売上は好調だ。


その評判は貴族にも聞こえたらしく、クロウ商会で氷菓子を買い求める良家の執事や女中の姿があった。売れ筋はバニラアイスだ。


「ミルクとチョコを二つ」

「お買い上げ、ありがとうございます!」


どこぞの紳士がアイスのお持ち帰りだ。保冷箱の小箱を勧めると大金を惜しげも無く支払う。…どこの大貴族だろうか。


「そこのご主人。私に杏子のこれを、所望したしますわ」

「はい。毎度ありがとうございます」


既に常連となったご婦人が、杏子を酒精に漬けて糖蜜を掛けたかき氷をお買い上げだ。酒精が効いて大人の味わいと思える。


演劇の舞台では『英雄クロウバイン冒険譚』の新作を上演している。…あれは、奇岩島の物語だろうか。




◆◇◇◆◇




 奇岩島、それは航路図から察するにそれほど大きな島とは思えない。アアルルノルド帝国の北海航路に浮かぶ小島だ。


帝国の武装商船リンデンバーク号は訓練航海の為、北海航路を東へ進み大陸の北東端の岬を回る。その沖合に航路を睨むような形で奇岩島があった。


奇岩島には魔獣グリフォンが生息するとの噂があり、付近の漁師も近寄らぬ岩礁海域となっている。リンデンバーク号は慎重に岬の先端を廻り岩礁を抜けようとしていた。


その時、砲撃音が二つ。


-BOKYUN-


- BOKYUN-


新型砲弾の砲撃訓練か、北方の岩礁へ砲弾が命中した。


「よっしゃ、俺様の勝ちだぜッ」

「ちっ、ハンスにしちゃあ…上出来だ」


新兵と見える砲撃手が腕試しに砲術を披露しているらしい。これも訓練のうちか副長も黙認の様子に、どちらが先に標的を射止めるか賭け事も行われている。


長い航海の間に息抜きも必要だろうし、訓練の一環であれば文句の付けようも無い。但し、時期と標的の選択が悪かった。


-GUUQ! GHAFUA-


好戦的な魔獣グリフォンが現われた!


奇岩島から飛来した魔獣グリフォンは上空から帝国の武装商船リンデンバーク号を襲う。…我らの眠りを妨げる羽虫どもめ駆除してくれよう。


「GUUQ 宜しい。我が相手じゃ」

「っ!」


金赤毛の獣人ファガンヌは魔獣グリフォンに変化して舞い上がった。足止めする暇も無い。


同じ空の魔獣の闘争において勝機を決する物は何か。両者の立ち位置は上空と甲板上にあり天と地ほどの違いがあった。もちろん上空の敵グリフォンの方が圧倒的に有利と見える。


敵グリフォンは上空から同族を見付けて襲い掛かった。もちろん同族とて容赦はしない。…なぜ、貴様がここにおるかッ。


鋭い鉤爪の一撃にファガンヌは体軸を回転させた。顔面が接触する程の距離に両者が交錯すると見えたが、リンデンバーク号の甲板へ衝撃が走る。


「ぎぁあー」

「ふ、船が揺れる!」


敵グリフォンの一撃は船体を揺らすのみで、その隙にファガンヌは一気に上空へ駆けあがった。既に両者の位置取りは天と地の開きである。


今度は上空から魔獣グリフォンの姿でファガンヌの攻勢になると思われたが、ファガンヌは悠然と上空を旋回している。一体何を考えているのか…


当然に敵グリフォンも体勢を立て直して上空へ舞いあがった。僕は視力に身体強化をして戦いを見守る。


「身体強化の…【遠見】。感覚を研ぎ澄ませ…【察知】」


両者の旋回性能も同じと見えて敵グリフォンはファガンヌを追うが捕える様子は無い。むしろ、じりじりと差を広げられて明らかに敵グリフォンの焦りが見えた。


-GUUQ! QKAA-


「GUUQ どうした。手緩いのではないかッ」


ファガンヌは急旋回を見せて、敵グリフォンの翼を打った。ほんの一瞬に両者の翼の先端が触れると、敵グリフォンは体を崩してふっ飛んだ。


-GUUQ! GEHEE!-


無様な悲鳴が聞こえる。そのまま、魔獣グリフォン姿のファガンヌは優雅な羽ばたきを残して奇岩島へ向かった。


「あぁ、行っちまいやがった。……英雄殿、宜しいのですか?」

「ファガンヌの好きに、させるしかない」


「そんな、ものですかぁ」


僕らは茫然とファガンヌの後ろ姿を見送るしか無かった。




◆◇◇◆◇




舞台では英雄クロウバインの役者が大見得を切っていた。脚本は全てサルサ師の作品だ。


「グリフォンどもめ、我が剣技をもって成敗してくれようぞ!」

「ぐぅーぐぅーぐぅー」


悪役の魔獣グリフォンが舞台を駆ける。


「天上乱舞…【妖精剣】!」


「ぐあぁぁぁあ!」

「ぐうぅぅぅうくっ」

「ぐぅーきゃぁぁあ!」


英雄クロウバインの必殺の剣舞に打ちのめされて、悪役のグリフォン四天王が討伐された。


めでたし、めでたし。


「さぁ、土産物の販売だッ。気合を入れるぞ!」

「「 おぅ! 」」


僕はクロウ商会の従業員へ檄を飛ばした。舞台の終了直後は英雄グッズと土産物の販売が佳境となるのだ。


商売繁盛。英雄様サマーである。





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