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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十四章 南海のプラティバ皇国
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ep184 山賊の流儀

ep184 山賊の流儀





 僕は開拓村の西側を流れる名も無き川の畔で青々と植えられた稲を眺めていた。この辺りは河川に運ばれた土砂が帝石した湿地帯だ。その湿地帯を利用して河トロルたちが稲作を行っている。初夏の風に稲の葉が揺れる。


「大将ッ カクレテ♪」

「おぉと!」


身を躱すと、泥玉が僕の背中を掠めた。僕の危険察知と回避の訓練は続いており、本日は稲作の視察を兼ねて河トロルの子供たちと遊んでいる。


競技は襲撃側と護衛側に分かれて僕が大将となり、襲撃側の泥玉を避けて無事に視察を終えれば護衛側の勝利となる。遊びと訓練を兼ねた丁度良い運動に思える。


「大将ッ 走って クダサイ♪」

「ほいほいっ…【俊足】」


護衛側のリーダーの子供は運動能力に優れて、逃げ足に付いて行くためにも、僕は身体強化の魔法を併用して走る。


「やった! 到着デス♪」

「は、はぁ、はぁ…」


目的地まで駆け抜けて護衛側の勝利となった。湿地に突き出た岩山に陣取り休息とした。


「皆の者、褒美をとらすぞッ」


河トロルの子供たちの乗りも良い。休憩のおやつに用意したのは甘い餅だ。黄な粉に白砂糖をまぶした餅は黄金色に輝く。


「「「 ははぁー 」」」

「金色の 餅デス♪」


保温の利いた魔法の瓶から熱々の緑茶を飲むと格別の味わいだ。たまには子供たちと遊ぶのも良い物だ。


さあて、帰路は襲撃側と護衛側とを交代して帰ろうか。




◆◇◇◆◇




僕はメルティナお嬢様の執務室を訪れた。すっかり開拓村(マキト・タルタドフ)の行政官の役職が板に付いてきた様子だ。


「ユミルフの視察の件は、どうなったか?」

「ええ、山賊の頭領たちとの話も付いたわ…」


ユミルフの元領主カペルスキーは山賊の頭領でもあったが、ヤツが失脚してからは付近の山賊と盗賊は群雄割拠の騒乱となり覇権争いが起きていた。その争いも一応の決着を見たらしい。


タルタドフの東の山賊砦は鬼人の少女ギンナと魔獣ガルムの仔コロのほか配下の鼠族が制圧して支配下に置いたが、ユミルフの北の山岳地帯には、いくつかの山賊と呼ばれる勢力がある。そのうち有力な山賊の頭領へ話を付けたと言うのだ。


「それで、ヤツらの要求は?」

「彼らの一部を傭兵団として雇い入れる事。北側領地の通行税を支払う事。ユミルフの町への出入りと租税の免除など」


「ふむ……」


山賊たちにも生活があり無暗に住民を襲う者では無いらしい。まずは生活保障と稼ぎ手を与える必要がありそうだ。


「傭兵団は採用試験を行う。技量と素行に問題が無ければ雇うのも良かろう。通行税はお互いに無しだッ。その代わりに……仕事を紹介しよう」

「はい。その様に取り計らいます」


ユミルフの町の代官に就任する前にも地固めが必要だろう。


………


開拓村(マキト・タルタドフ)の定住民は旧市街と新市街を合わせて五百名を数えた。その他に行商人や狩猟者などの流浪民を含めても千人には届かないだろう。


それらタリタドフ村と東西の開拓村を合わせてもユミルフの町の人口には及ばない。ユミルフの町は農業以外に特色の無い周辺の開拓村の中心地として栄えていた。すなわちユミルフの町も農業の他には産業が無かった。


そんなユミルフの町にはひとつだけ頼りとなる城壁が町の周囲を囲んでいる。ひとたび戦乱となれば固く城壁を閉ざし、盗賊団や山賊団の襲撃にも耐えて住民と家財を守るのだ。その安心感を求めてユミルフの町へ定住を希望する者は多い。


ユミルフの町への入市税は大きな財源だ。定期的に開かれる市場へのお客と出入りする行商人は入市税を支払う事になる。


市場へ独りで買い物に出掛けるのは効率が悪い。どうせなら近隣の村人や地域住民の御用を聞いてまとめ買いに商品を仕入れた方が良かろうと、行商人を始める者もいるだろう。しかし、北部地域の街道へ通行税が課されるとなれば、商人どもは北部を避けて商売を行う事は必然だ。結果として北部地域は物資の偏りと不足に悩まされる事になるだろう。


…それらの問題点を分かって通行税を要求しているのか?


僕は山賊の頭領と見える男と相対していた。


「ひゃっはー、お前が新しい代官かッ……おっと、こいつは口癖だ。気にするなッ」

「…問題は無い。許す」


山賊の手下を率いるには乗りも必要だろう。…にしても、この丸頭はよくしゃべる。


「俺たちゃあ、強いボスの下へ付くにぃ文句はねぇが、分け前を寄こすのがボスの務めだろうがッ」

「それについては、提案がある」


「はっ、提案だと!?」

「北部山地にある雪山を制圧したいのだが、協力して欲しい」


雪山は夏にも溶けない氷と雪に囲まれた魔境との噂だ。それを制圧したいとは、どんなお宝が眠っている事か。山賊の頭領は少し思案して答えた。


「…ふんっ、金次第だぜッ」

「それならば…」


僕が雪山の制圧計画について話すと、山賊の頭領は計画に乗り気と見えた。




◆◇◇◆◇




 僕らは北部山地を登り目的地を目指した。標高が上がるにつれ初夏の風景は雪山に変った。僕は山賊の頭領に告げる。


「ニコルスキー。ひと休みしよう」

「おぅけー。ボス」


登山道に荷車を止めて荷物を降ろす。荷役夫には河トロルの戦士を連れて来た。護衛には山賊団を雇い周囲を固めている。


山賊たちにも餌付けが必要だろうと、大型の保温箱を開けて暖かいスープと握り飯を配給した。肉体労働者には塩味の握り飯がウケた様子だ。


「リドナス。組立て作業の指揮をッ」

「はい♪」


「ボス。ここから雪道だぜッ」


山賊の頭領ニコルスキーは不審な様子で、河トロルたちの作業を見ている。これでも訓練として部下に仕事を任せているのだ。しばらくして組立式の(そり)が完成した。


空となった大型の保温箱は(そり)に乗せて運ぶ。


………


雪道を登ってゆくと洞穴の入口が見えた。


「ひゃっはー、雪の魔物だッ!」

「っ!」


見ると雪の魔物が洞穴から飛び出して来た。山賊たちは散開して大型の鉈や斧を振るい雪の魔物を粉砕している。河トロルの戦士たちは雪山に不慣れで動きは悪い。…これも訓練の内か。


「投擲ッ 構えぇ 放て!」

「ヒョイ♪」


リドナスの指揮の下で河トロルの戦士たちが爆発物を投じた。


-BOM!BOM!BOM-


洞穴の入口を一斉に爆破する。


その間に山賊たちは雪の魔物を殲滅したらしい。


「ぜぇ、はぁ、はぁ…」

「殺ったかッ」


肩で白い息を吐く男たちは、まだ働けそうだ。洞穴の入口はモコモコと盛り上がり自動的に修復を始めた。やはり迷宮(ダンジョン)の入口らしい。修復の特性は迷宮(ダンジョン)の壁と同じ原理だろう。


「次が来ますね。お願いします」

「おぅよッ」


洞穴の入口が開くと雪の魔物が溢れ出した。僕らは忙しく殲滅を続けた。


………


戦闘は苛烈を極めたが、爆破と殲滅の繰り返しに体力の限界を覚えた。


「終わった…のか…」

「はぁ、ふうぅ」


迷宮(ダンジョン)の入口付近へ溜まっていた魔物は掃討されたらしい。


「このまま、突入するのかッ?」

「いや、作戦は完了だ」


「ふっ、ふざけるなッ。お宝は!?」

「それは、この氷の山さ…」


僕らは雪の魔物の残骸…氷の塊を保冷箱に詰めた。このままイルムドフの王都へ輸送するなら高値で取引されるだろう。夏の暑さに氷の塊は魅力的な商品となる。


戦利品を山ほど抱えて下山する。


保冷箱の優秀さもあるが、山賊たちの戦闘力にも期待したい。





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