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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十四章 南海のプラティバ皇国
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ep183 防衛力の強化

ep183 防衛力の強化





 僕は重傷のまま姿を隠してタルタドフの領地へ帰還した。領地へ向かう馬車と警護の兵士は、消沈して葬儀の列の様だと噂された。


実際は水の幼精体のおかげで動ける程度の傷に回復したが、対外的には箝口令を敷いてタルタドフの領主は重傷のまま領地へ帰還したという事になっている。…敵を欺くには、まず味方からか。水の幼精体は水の神殿のお墨付きもあり僕の背中に張り付いたままだ。いちおう命の恩人と言える。


僕は外出を禁じられて屋敷にて療養の日々だ。開拓村(マキト・タルタドフ)の屋敷の北側は城壁と門を設置して不審者の出入りを監視している。南側の新市街に面した区画には警備用の兵舎を設置して町の自警団を兼ねている。


「あぁ、それにしても…暇だ」


屋敷の裏に設置した露天風呂もすっかり壁に囲まれて解放感を無くしている。いっそ屋敷の屋上へ新たな風呂場を設置するか。屋敷から西の防護壁は川辺まで延びて既に城塞の趣がある。石切り場の石工の腕も良さそうだ。


僕は防護壁の内側にある研究工房に隠れて新たな食材を加工していた。


南国のプラティバ皇国で仕入れたカカワの実は航海の間に醗酵させて腐り、種の部分を取り出した。この種を火にかけた鍋で炒ると渋皮が剥けて香りが立つ。丹念に剥いた種を再び過熱すると植物油が融けて粉砕も容易となるのだ。


「そぉれっ…【粉砕】【粉砕】【圧搾】♪」


後は白砂糖を加えて良く溶かせば完成だ。この陽気ではカカワの油脂が固まるのか心配である。


「型に入れて、冷やすかなぁ」


最悪でも冷蔵の魔道具へ入れておこう。


「それと、こいつは…」


珈琲豆に似た南国果実は種子を取り出して天日干しにする。ゴリゴリと果肉を削り水洗いするのだが意外と面倒だった。


「…醗酵させれば、良いんじゃね!」


僕は果実ごと樽詰めにして数日も置く事にした。蓋には【醗酵】の呪印を刻んで密封する。これは菌類の研究室で得た方法だ。


先に冷したカカワを取り出すと…これは完全に再現されたチョコレートと言えよう。試食すると砂糖の甘味がカカワの風味に合わさり良い出来と思える。


僕は試作品を持って、メルティナお嬢様の執務室へ向かい差し入れとする。


「マキト様。お加減は、よろしいのですか?」

「この通りにッ」


メルティナは黒い物体に驚くも、僕が不思議な物を持って来た時には新しい料理か菓子の披露である。


「まぁ!」

「お茶の時間にしよう」


僕が手ずから入れるのは、タルタドフ産の渋茶だ。


「この甘味と、独特の風味が感じられますわ」

「カカワのお菓子さッ」


「おほほ…」


どうやら、初めてのチョコレートは気に入って貰えたらしい。執務の疲れを癒すが良かろう。




◆◇◇◆◇




 僕は武器工房で鎖帷子を新調した。今回の反省を生かして狙撃対策に防弾チョッキを作り、衣装の下に着込める様に準備するのだ。


「おぬしが、反省せねばならぬ事は多々あれども…」

「…」


サリアニア侯爵姫のお説教は上に立つ者の心構えに、問題の対処を部下に任せる事の重要性だろう。今回も暴れ馬の対処は警備の者へ任せて、僕が前へ出る必要はなかったと言う。


「それでは、訓練をしようぞッ」


しばらく外出できない僕は、訓練としてメイド部隊の襲撃を受ける事になった。


そのため、屋敷の外でも中でも頻繁に襲撃を受ける。


「おぉっと!」

「きゃっ」


僕はモフ顔のメイドが箒を振るうのを華麗に回避した。襲撃の気配を察知するため【探知】の魔法を薄く広く展開している。屋敷の中でも安心は出来ない。そして、部屋の扉を開けると…


「くるっとターン」

「っ!……お見事ッにございます」


二階から雑巾が飛んで来て床を汚す。僕は華麗なターンで弾丸を回避した。なぜ、こんな所作になるのか……メルティナお嬢様がホールに待ち受けていた。


しばらくは、貴族の教養として社交ダンスの訓練だ。メルティナお嬢様も共にレベルアップを目指すらしい。


「ぁ痛っ!」

「やったぁ……これで、ショコラを頂くわ」


胡桃が飛んで来て僕に命中した。ダンスの最中に狙撃は勘弁して欲しい。パートナーも守らねばならないのだから。


襲撃を成功した者には僕からお菓子を贈呈する。二回目に襲撃を成功した者には特別休暇が与えられて、三度目ともなれば領主様への希望を叶えられる。…そんな者がいれば警護隊に抜擢したい。


いずれにしろ、僕の訓練となるのだ。




◆◇◇◆◇




 屋敷の外では本格的な戦闘訓練をする。屋敷の南には草地があり城壁の建設も半ばで開けた空き地がある。本日の課題は三人の囲みを破り脱出すること。サリアニア侯爵姫の魔法剣が唸りを上げる。


「連戦研磨ッ【風神剣】!」


風の刃が連続して飛来する。僕は体捌きに回避するが…


「ワン・ツー・スリーとっ」


慣れない鎖帷子の重みに苦労して体勢を崩した。


「今よッ」

「はあぁぁあ!」


戦闘メイドのスーンシアが分銅の付いた鎖を投じて僕の退路を妨害する。女騎士のジュリアが木刀を手に突進して来た。


「はうっく…」


僕は三人の連携に殺られた。




◆◇◇◆◇




 僕は試作したチョコレートの金型を見て閃いた。


「焼き型にしよう!」


早速に焼き物の金型を作成した。生地はケーキ用よりも柔らか目にして珈琲の実の漬け汁と蜂蜜を加える。数時間も置くと醗酵が進みフワフワの生地が出来た。


金型でワッフルを焼く。珈琲の実の果汁はほんのりとサクランボと似た香りだ。


網形のワッフルが大量に焼けたので、チョコレートのソースを掛けると贅沢の極みだろう。


珈琲の実は醗酵が進んで、溶けた果実は天然酵母となる。残りの実は水洗いすると珈琲豆が採れた。しばらく天日に干して熟成させよう。旨い物には手間がかかる。


僕は女中部屋を訪れた。なにせ、襲撃の成功者へご褒美を配らねばならないのだ。


試食に焼き立てのワッフルを配る。襲撃に成功したメイドにはチョコレートのソース掛けを三枚追加する。ご褒美の格差は止むを得ない。


「「「 ご主人様。ありがとう、ございますッ 」」」


「うむ。味わってくれ」

「きゃー」


屋敷の防衛力の強化にはご主人様の人気取りも必要と思う。





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