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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十四章 南海のプラティバ皇国
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ep182 暗殺未遂事件

ep182 暗殺未遂事件





 僕は数か月ぶりにタルタドフの領地へ帰還した。今や本拠地となった開拓村(マキト・タルタドフ)は定住民も増えて新市街を工事している。


新市街の中央通りは商業区として整備し、その東側には住宅街を建設した。住宅地には五家にひとつの割合で緑地を残した。これは火災や災害対策の空き地であるが、緑を植えて公園にするのも良いだろう。


屋敷の西に点在していたガラス工房は原料を求めて南の岩場へ移設した。やはり原材料と火力にする燃料が不足している。これは早めに解決しないと今後の産業育成に関わる問題だろう。


僕は新設したガラス工房を訪ねた。注文していた品物が完成したと言う。


「これは、良い出来ですねぇ」

「有難きお言葉に、恐縮したします」


それは贅沢にも板ガラスを填め込んだ戸板や壁の建築資材だ。


「早速に、組み立てましょう」

「はっ、お任せ下さい」


屋敷の西にある試験栽培の畑に温室を建設する。これで南国植物も研究できると思う。


この季節、屋敷の北側には遊水池があり薄桃色の蓮の花が咲いている。…涅槃が見えるか。


僕は独り試作した重機ゴーレムで試験栽培の畑に貯水池を掘った。ゲフルノルドで調達した農業用ゴーレムを改造して土木重機の様なショベルを持たせている。独りで操作する手軽な物だ。


「マキト村長。ひと休みして下さい」

「おぅ」


珍しく魔女っ娘のビビが畑に現われた。僕は重機ゴーレムを止めて一息つく。


「うっ、これは青い果実!?」


見ると南国果実を絞った青いカクテル風の色合いの飲み物だ。良く冷えた様子で氷が浮いている。


「大丈夫、果汁に薬効はありません」

「そうなのか?…頂くよ…」


うっく、ごくッごく。初夏の日差しに、良く冷えた果汁は土木作業の後にも格別だ。


「例の青い果実は種の部分に薬効がありまして、一粒で快眠から永遠の眠りまで、調合は思いのままにございます」

「ふむ、ご苦労さま。…ならば、実用は可能かな?」


「はい、間違いなく」


ビビには薬効の抽出を続けて命じる。


「マキト様、至急の御用件にございますッ」

「うむ」


屋敷のメイドも兼ねる兎耳のモヨヨが僕を呼びに来た。これはメルティナお嬢様の呼び出しだろう。




◆◇◇◆◇




霧の国イルムドフの貴族議会から招待があった。長らく領主が不在となった隣町のユミルフの処遇が決定したらしい。


僕はアアルルノルド帝国の男爵に任ぜられた。それと同時にイルムドフの貴族議会からユミルフの町の代官へ任命された。どういう訳だろうか。


イルムドフの貴族議会は革命政権から名を改めて統治機構として働いている。僕らタルタドフ勢は特別参加の恩恵で貴族議会にも出席していたが、メルティナお嬢様の議会工作の成果だろうか。イルムドフの貴族議会からすれば、帝国の代官が新たに派遣されるよりは地元の名士が就任する方が望ましいのだろう。


しかし、帝国からするとユミルフの支配権を失うのは避けたい思惑で、お互いが妥協した結果と思われる。なにか政治的に利用された感じだが、貰える物は貰っておこう。隣り町の治安は我がタルタドフの平穏にも繋がる関心事だ。


イルムドフの王都を訪れた僕らはユミルフの代官を拝命した。租税や兵役の義務など調整に手間取ったが難なく事務手続きを終える。


数か月ぶりに視察へ訪れた広場には直営店クロウ商会があった。


「ご主人様。ご覧になって下さいませ」

「ほほう…」


犬顔の店員マルチが商品を説明した。演劇の舞台に合わせた紹介記事や応援用の鉢巻など品物は充実している。最近の売れ筋は英雄クロウバインの姿を模写した扇子らしい。


僕は夏場に向けて南国果実を利用したドリンクを提案した。輸入した品物は有効活用したい。


その時、悲鳴があがった。


「きゃー」

「暴れ馬よッ!」


暴走した馬の魔物が広場に駆け込むと。観劇していた観客にも混乱が広がる。僕は身体強化をして飛び出した。


「こなくそッ、押さえろ!」


「きゃー」

「あっ!」


僕は背中に痛みを感じて落馬した。


「なんじゃ…こりゃ…ぁ……」


背中に突き立った弓矢は短いが、流血は止まらない。


…僕は死んだ。




◆◇◇◆◇




広場の騒動から数日して僕は事件の顛末を聞いた。


落馬の衝撃と血の海に倒れた僕はリドナスの懸命の救護で一命を取り留めたが、危険な状態で水の神殿へ運ばれたのだ。神殿では水治療と出血の対処および毒物の対処が行われた。


僕が目覚めた病室は水の神殿の奥まった場所にあるらしく、閑静な庭園が見えた。病室を訪れたのは水の神官アマリエだ。


「マキトさんの危機を救ったのは、水の精霊のご意志です」

「えっ、どういう意味で?」


「致命傷を防いだのも、あなたの背中にいる…幼精体なのです」

「…」


マキトの治療をしたアマリエに詳しい話を聞くと、神殿に運ばれた時にはマキトの背中に取り付いたヒトデ型の幼精体が傷口を塞ぎ毒を吸い取り、全身に毒が廻るのを防いていたと言う。河トロルのリドナスでは止血と応急処置しか出来なかった様子だ。それでも上出来なのだが、病室には警護のリドナスの姿が無い。


「そういえば、リドナスは?」

「犯人探しに出掛けております…」


事態を重く見たメルティナお嬢様とその配下および、河トロルの戦士リドナスも責任を感じて犯人探しに協力しているらしい。


「マキト様。ご気分は、よろしいのですか?」

「あぁ、心配かけて…ゴメン…」


知らせを受けて氷の魔女メルティナが現われた。今はお嬢様の気配もなく厳しい顔をしている。


怪我の状況と症状を見るに毒物が塗布された弩弓が使われたらしい。広場の警備とクロウ商会の手の者が犯人を取り押さえたが自死されてしまい、暗殺を指示した者への手掛りは得られなかった。


「イルムドフの貴族議会の後に広場で襲撃を受けた状況から、犯人の可能性は三つあるわッ」

「…」


メルティナが捜査状況を報告した。


ひとつはイルムドフ国内の反帝国派に犯行の可能性がある。革命軍から改名した防衛軍も一枚岩ではなく、各派閥との内部対立もあり。ここで帝国からの任命領主であるマキト・クロホメロス男爵が謀殺されると帝国との戦争の契機となる恐れがある。


二つ目はアアルルノルド帝国が霧の国イルムドフの貴族議会を排除するために仕組んだ謀略の可能性がある。その場合は既に帝国からの派兵の動きがあるだろう。あるいはイルムドフ国内の対立派閥を煽って内部崩壊を待っても良いだろう。


そして三つ目はマキト本人が個人的な恨みを買っている可能性もある。怪しいのは前ユミルフの領主カペルスキーの残党か、行方知れずの前タルタドフ領主の村長の一族か、廃村となったカエツ村の関係者の逆恨み。…これには氷の魔女メルティナも含まれるのだけど。


僕らは敵の正体を探した。





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