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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十四章 南海のプラティバ皇国
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ep181 南海貿易の成果

ep181 南海貿易の成果





 僕らは迷宮探索の成果を持って港町キシェテジに帰還した。サリアニア侯爵姫たちはキビ砂糖の買い付けを終えてひと足先にキシェテジの浜辺で寛いでいた。


「部下に任せて結果を待つのも、為政者の器量というものぞ」

「…」


サリアニアは部下に荷役を任せて報告を待つらしい。


「スー例の物を」

「はい」


本日はスーンシアも水着にメイドのスカートと髪留めをしてバカンスのスタイルだ。盆に載せた青い南国フルーツには見覚えがある。


「これを飲むと良く眠れるらしいの」

「まさか、眠りの薬草ですか?」


岩礁の観光カヌーで供された南国フルーツのひとつだ。


「ふむ。マキトも見覚えがあるか……」

「はい」


サリアニア侯爵姫は考えに沈む様子で、それ以上は追及しなかった。


「ジルも海へ入らぬか?」

「いえ、私は…」


護衛の女騎士ジュリアはビキニに具足と騎士剣を佩いているが、胸部装甲は自前のスタイルだ。


「ならば、私の伴をせよッ」

「はっ」


サリアニア侯爵姫は小柄な肢体を揺らして海へ駆け出した。ジュリアの追尾も完璧な警護任務である。…まさに目の保養。


「マキト様。お飲み物をどうぞ」

「…まさか、毒入りじゃないよねぇ?」


その青い南国ドリンクは眠りの薬効がありそうに見える。


「ちっ…」

「!…」


南国の浜辺でも戦闘メイドの攻撃は容赦が無かった。




◆◇◇◆◇




帝国の武装商船リンデンバーク号は帰路の航海へ出港した。青田買いした砂糖キビと精製したキビ砂糖を積載してトルメリア王国へ向かう。タルタドフの領地から特産品として持ち込んだガラス製品と柑橘類の砂糖漬けはスルタン王子の買い取りで良い値が付いた。それに加えて螺旋砲弾の試作品をいくつか取引した。


その他にも南国のフルーツは種類も豊富で酒漬けや塩漬けにしている。その中でも豆類はカカオに似た物やコーヒーに似たものがあり期待している。薬草や薬効のある鉱物も出来る限りの保存容器に入れて輸送をしている。このガラス容器も保存の魔方陣を組み込んで、タルタドフの特産品になりそうだ。


行きがけに海獣クラーケンが出現したとの報告があり、リンデンバーク号の護衛にはプラティバ皇国の軍船が派遣された。神鳥(かんとり)のピヨ子が手紙を持って飛来した。


伝令(ピーレ) 空腹(ピヨョョヨー)


伝令にピヨ子が飛来した際には接待する約束となっている。僕は試作した南国果実の干物をピヨ子へ与える。


手紙はプラティバ皇国の軍船に乗っている彩色のオレイニアからの返信だ。まさか、こんな手段で文通しているとは思うまい。


「熱気を集めて…【焦熱】」


読んだ内容は焼き捨てた。僕らはスタルン王子に協力して迷宮都市アパラァダの攻略を進めたが、王子に感謝された代わりに敵対勢力からは反感を買っただろう。身辺の安全には注意したい。


航海は順調と見える。




◆◇◇◆◇




 アアルルノルド帝国の西方にある飛竜の森へ移動小屋を隠した白い少女オーロラは役目を終えて、帰還の途にあった。工房都市ミナンからバクタノルドの開拓村への緊急援助も役割を終えて、泥炭ストーブの製造もひと段落を付いた。次の冬に向けた生産には時間もあり職人工房の協力も順調だ。


そんなオーロラにはひつとの悩みがあった。工房都市ミナンの領主から求婚されたのだ。領主の館には何度か事務的な相談に訪れた事はあるが、領主の目に留まる様な事は思い当たらない。噂では水の神官のアマリエ様にも求婚していたと言う領主の事だ、妾に第三夫人の申し出だろう。


それに比べても、タルタドフの領主であるマキト様にはご結婚の噂も無い。政略結婚としての見合いや婚約の話も無いが、内縁の妻としてはメルティナ様かサリアニア侯爵姫か。


「ふう…結局は私の居場所の問題なのよね…」


独りごちて白い少女オーロラは前に進んだ。夏用の衣装は風に吹かれて涼しげだ。


このまま山オーガの里を越えてタルタドフの領地へ帰還するのも良いだろう。




◆◇◇◆◇




帝国の武装商船リンデンバーク号も見た目は商船だが、乗組員は変装しても帝国軍人だ。


「船長。航海は順調か?」

「はっ、外洋の航海術も訓練を進めております」


甲板ではプラティバ皇国の航海士を手本にして六分儀を使い太陽高度を観測している。


「ほほう、クロホメロス卿の魔道具も使えそうか?」

「はい。問題ありません」


羅針盤も六分儀も魔力を使わない道具だが、魔道具との区別は無いらしい。


「本国には良き報告が出来るであろう」

「はっ…」


その時、船体が軋み音を上げた。


乗組員は決して油断をしていない。海域は通常航路から外れてもいない。しかし、ヤツは現れた。


「海獣クラーケン! 船に獲り付かれましたッ」

「総員ッ 白兵戦の用意!」


「おぅ!」


帝国の武装商船リンデンバーク号へ触手が絡み付く。いちど触手に絡まれると吸盤の圧力で、離れるのは至難となるのだ。単独では苦戦が予想されたが、今はプラティバ皇国の軍船が護衛している。即座に海獣クラーケンへ砲撃が加えられた。


「訓練通りにッ、通常の砲撃を! 火と水と大気をもって…【砲撃】」


-BOKYUN!-


-BOKYUN!-


近接戦闘を避けてプラティバ皇国の軍船から放たれた新型の砲弾が、海獣クラーケンを襲う。砲兵を指揮するのは彩色のオレイニアか。皇国軍の練度も上々と見える。


海獣クラーケンは強力な吸盤の圧力があだとなって無様な体を晒した。


「今よッ、一斉砲撃!」


-BOKYUN!-

- BOKYUN!-

-  BOKYUN!-


またひとつ、彩色のオレイニアの功績が記録された。


僕らは甲板で蛸足の収穫をするのみだった。


………



航海の安全は確保されたと思えるが、海獣クラーケンも単体とは限らないと不吉な事を言う。僕らは港町トルメリアへ寄港した。プラティバ皇国の軍船はここで折り返しキシェテジへ戻る商船を護衛して帰るそうだ。神鳥(かんとり)のピヨ子が手紙を持って飛来した。


伝令(ピーレ) 空腹(ピヨョョヨー)


僕は試作した蛸足の干物をピヨ子へ与える。海獣クラーケンの吸盤は珍味として高値で売れるそうだ。僕は手紙を燃やした。これが最後の通信となるだろう。


航海の無事を祈る。


輸入したキビ砂糖は商品も品薄であり、狙い通りの高値で売れた。今後の取引にも期待したい。南国果実や豆類も研究が進むだろう。


プラティバ皇国のスタルン王子からは別段に恩賞は無かったが、タルタドフの領地から輸出する新製品の取引相手として申し分は無い。今後も取引を続けられる体制が必要だろうと思う。


こうして僕らは霧の国イルムドフを経由し、タルタドフの領地へ帰還した。





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