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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第一章 魔道具を製造販売のこと
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002 初めてのおつかい

002 初めてのおつかい




◇ あたしは森の人ステフに連れられて森を走っていた。とはいえ卵の状態ではステフの懐で温められて魔力を吸っているだけなのだけど、風を


切る音だけでもステフが森の中を高速で移動している事が分かる。


森の人ステフは無駄口を話さないのだけど、就寝前にあたしの卵へ魔力を注ぐ時には双子の姉だろうステラの話を聞かされた。そして今日は東の


森にある千年霊樹の実を採取する為に出かけたのだ。


しかし、森はピクニックする様な呑気な雰囲気ではなく魔物の危険があるらしい。道中にステフが魔法を振るってズビシッと魔物を倒した。…な


かなかの使い手と思える。あたしの全盛期に比べればマダマダ(ひよこ)だろうが…卵のあたしが言う事じゃないわねぇー。




◆◇◇◆◇




 僕は森の中の獣道(けものみち)を抜けて山を下りマルヒダ村へと向かっている。マルヒダ村はカムナ山の東の(ふもと)にある三十戸ほどの集


落だ。


先ずは村の入り口に近い魔道具店をさがす。魔道具店とはいうが、金物や生活用具をも扱う雑貨店の様だ。


「こんにちは、親方はいますか~」

「おぅ。何だ」


僕が店先から声をかけると奥から重心の低そうなオヤジが出てきた。身長は僕と同じぐらいだが横幅は二倍もありそうで、むき出しの腕は筋肉質


だ。


「オル(ばあ)から聞いて来ました」

「婆さんが、どうしたってぇ?」


親方は無愛想に僕を見る。使い走りの子供にしか見えないだろう。


「石を買い取って貰いたいのですが……」

「どぉれ、どれ」


鞄から革袋を取り出して渡すと、親方は中身を皿にあけて秤にかけた。


「茶色の透過石はこの袋に一杯で12カル。緑なら14カル、無色なら16カルだ」


オル婆に聞いた買い取りの相場に近いので、妥当な価格だろう。追加で茶色の透過石が入った袋を3つ。緑色を2袋。無色の1袋を取り出して並


べる。


「これも買い取りでお願いします」

「おっ、おう!」


親方が計量しているうちに、僕は地面に計算式を書いて合計金額を確認する。


「全て買い取りで82カルだ」

「え!合計すると92カルでは……何か石に問題がありましたか?」


僕は親方の目をのぞき込むが、気まずい雰囲気。親方は不意に何かに気が付いた様子で…


「あいや、スマン。92カルだ」


顔色を変えた親方から、大銅貨16枚、銅貨12枚を受け取る。大銅貨1枚が5カルだから、合計は間違いない。


計算は得意だ!


僕はオル婆に拾われて言葉を教わったが、計算はすぐに出来た。特に、ひと桁の掛け算は素早い。オル婆がいわく「天才の掛け算使いだ」と言わ


れる。しかし「ふた桁の掛け算は凡人」との評価だ。残念ながら大した才能でもないね。


「どうも、ありがとう」

「…」


僕は意気揚々と次の店に向かう。後には、地面の計算式を見つめる親方が立ち尽くしていた。


「オル婆さんの弟子かぁ…」


舐めたらあかん。




◆◇◇◆◇




 次に食品店へ向かうと、女店主に声をかけられた。


「いらっしゃい。坊やどこの子だい」

「山の上から来ました」


僕が正直に答えると、女店主は何か思案した様子で尋ねた。


「じゃ、何か買うのかい?」


店の棚を見ると「黒パン5カル。白パン10カル」の値札がある。塩が欲しいのだけど値札を確認すると……ひと袋35カルは結構高い。


「その肉は何ですか?」


女店主はにこやかに応えた。


「羊の肉さね。このひと塊で30カルさぁ」


「ふーん。その隣の肉は?」

「羊肉の塩漬けさね。ひと塊45カルさぁ」


少し悩む。羊肉も美味しいそうだ。所持金の92カルでは…全て買うのは無理だろう。


「先に、黒パン5コと白パン2コに塩を半分ください」

(……暗算して45+17.5カル。)


「まいどあり!」


「それから、羊の肉と塩漬肉も半分ずつ下さい」

(……暗算して+15+22.5カル。で…)


「あいよ!」


気持ちよく応えてくれたケド…少しお金が足りない気がする。


「少しおまけ!して90カルさぁ。どうかね?」


「あ、ありがとうございます!」

(……ひや汗;;;; 助かった。)


僕は満足して代金を支払った…買い物は大成功じゃないか!…でも、ひや汗。


「坊や。大荷物だけど大丈夫かい?」

「平気へいき~」


パンが大きく嵩張るが、僕は鞄に品物を詰め込み帰路についた。羊の肉はオル婆の好物だから、夕食は羊肉の串焼きと白パンとしよう。




◆◇◇◆◇




帰りはマルヒダ村から森の斜面を登り小屋まで3時間ほどかかる。

えっちらおっちら。


山間の魔物に出くわすと大変だから、きつい坂道でも急ぎ足になる。

えっちらおっちら。


僕は途中で買ったばかりの黒パンをかじり、雪解け水の沢で喉を潤した。


「うーん。水がうまい」


ついでに沢に自生する葉野菜をむしる。


オル婆は人嫌いの性質(たち)か山奥でひとり暮らしていた。僕が知る限り、この一年間にオル婆の小屋を訪れた者は少ない。それでもカムナ山の


(ふもと)のマルヒダ村では、生活魔法の使い手として頼りにされていたらしい。たまに村人の頼みを聞き、手助けのお礼に食糧を抱えて帰って


くることもあった。


「この森を抜ければ…」


オル婆の小屋が見えてきた。おや?……炊事の煙が立っている。小屋の戸を開け炊事場をのぞくとオル婆が竈で何かを燃やしていた。


「オル婆。ただいま」

「おや、マキト早かったねぇ」


「起きても平気なのかい?」

「まだ、死にゃせんよ…ゴホゴホッ」


咳き込むオル婆を寝室におくり、夕食の準備をする。


串焼きにした羊肉の塊を薄く削ぎ、葉野菜と一緒に白パンに挟む。塩漬肉は簡単なスープにしたのと、残りは薄切にして竈に掲げ干し肉とする。


いつもの様にオル婆と夕食をとる。


「羊の肉と白パンとは! 祭でも始めるのかい」

「そんな時期かな?…」


春祭りの時期にはまだ早いが、珍しく冗談を言うオル婆を見ると……オル婆はニマニマしながら羊の肉と白パンを頬張っていた。喜んでいる様子


で何より嬉しい。


「わしゃいつ死んでもええがね」


それだけ元気なら大丈夫だろうと思う。






【続く】

--


※オル婆さんのお手伝いですが、出来る仕事は「マキ拾い」「炊事」「放牧」「食材の採取」「買い出し」など…地味ですね。暗算は苦手なようです。

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