ep180 迷宮都市アパラァダの覇者
ep180 迷宮都市アパラァダの覇者
僕らは迷宮都市アパラァダで一進一退を繰り返していた。神鳥のピヨ子が飛来して鳴く。
-弓兵 少数 伏兵!-
「敵の伏兵があります!」
「おぅ。任せるッ」
僕は冒険者を連れて建物の屋根に登った。ピヨ子が示す先には骸骨顔の弓兵が配置されている。
「魔法用意 ……放てッ」
「っ!」
火球と風の刃を複合して敵陣へ打ち込んだ。骸骨顔の弓兵は街路に向けて待ち伏せしていたらしく僕らの攻撃に破壊された。
迷宮都市アパラァダには大まかに二つの勢力があるらしく、骸骨顔の兵士と腐肉喰を主体とする歩兵は町の南側にある離宮と見える建物を本拠地として湧き出している。
それに対して北方の山岳地帯からは魔獣とならず者を主力とした軍勢が攻め寄せていた。その軍勢の頭目は宗教組織の長だというが、とても信仰に篤い者たちには見えない。兵士の眼は狂気の色をして狂った獣の様に攻め寄せるのだ。
「ちっ、またか!」
「撤退せよッ」
「おぅ!」
北側から狂信者の兵が攻め寄せた。僕らは多勢を目撃して撤退するしかない。両者の勢力に挟まれては抵抗も満足に出来ないだろう。
僕らの目的地は市街区の中心地である王宮にあった。偵察のピヨ子が戻って来た。
-騎兵 中隊 遠い(ピロロリ)-
軍勢の動きは鳥の眼で上空から俯瞰してみれば一目瞭然にして、ピヨ子とはいくつかの単語を取り決めた。情報伝達も慣れたものだ。
骸骨顔の騎兵中隊が狂信者の歩兵へ突撃したらしい。馬蹄の轟と蹂躙される歩兵の悲鳴が聞こえる。
「ふぅ…」
僕らは都市部の外縁で一息つく。
それにしても、碁盤目の様に整備された街区に過剰な戦力を投入して覇を競うのは何故だろうか。
僕らは両軍の戦闘の終了を待って王宮を目指すしかない。
◆◇◇◆◇
象顔の獣人兵ドーガは精強で堅固な盾と打撃用の武装をして前線の壁となる。彼らが百人もいれば市街地を制圧する事も可能だが、そんな戦力は用意されていない。現有戦力で市街地の乱戦を突破して廃墟の王宮へ潜入したい。
そのため僕らは陽動を行った。
『うふふ、こっちよ~』
『あぁん…そこの逞しいお方…』
「ぐふぅうう!」
風の魔法で女性の声を飛ばし耳元を攪乱すると効果的だ。狂信者の兵士たちは正気を無くした目をして声の方へ突進する。
『むふふ、好きにして良いのよ~』
『あら…もう待てないわ…』
「ぐはぁ、はぁぁ!」
狂信者の兵士の誘導は成功しつつある。神鳥のピヨ子が飛来して鳴いた。
-騎兵 中隊 近い(ピロリ)-
「骸骨の騎兵隊が来ます!」
「潮時だ、隠れろッ」
「おぅ!」
実際に骸骨軍団のうち、この騎兵中隊は手練れが揃っている。古代王朝の鎧を付けた骸骨騎兵は元の素材が違うと見えて、ここ数日の戦闘でも無双の働きを見せている。
どどどど、馬蹄を轟かせて骸骨顔の騎兵中隊が通過する。運が良ければ敵軍の本陣まで駆け抜けるだろう。
僕らはこの隙に中央区にある王宮へ侵入した。
………
王宮は廃墟と見えるが、城壁や掘割も健在で堅固な造りである。探索隊は城門を開く手段も無いので城壁に投げ縄を掛けて登壁する。
「どうだ、城の守備兵は?」
「未だ、敵影なしッ」
僕らは易々と中庭へ侵入を果たしたが、城壁の感触は迷宮のそれである。
-警戒!警戒!危険!-
「敵襲ぅ!」
骸骨顔の兵士が現われて探索隊を半包囲した。…頭数が多い。
「おらに任せるだぁぁあ!」
「ッ!」
象顔の獣人兵ドーガが骸骨兵へ突進した。打撃を振るうと骨は粉砕されて活路が開けた。
「ここは頼むッ」
「ふんがー!」
力戦系の戦士たちを残して僕らは先行した。おそらく死霊系の迷宮の主へ感付かれる前に目的地を攻略したい。
王宮の地下には城の下部と融合した迷宮が広がっていた。それでも僕らは腐肉喰や幽霊などの魔物を討伐しつつ、王宮の地下に神殿を発見した。
その場所は静謐にして神聖な気に満ちて死霊系の魔物から護られていた。
「これが、神殿か……」
「古代王朝の祭壇との噂よ」
冒険者のお姉さんユーリコが言うには王宮の地下に祭壇を作ったのか、神殿の上に王宮を立てたのかという話だったが、迷宮の上に王宮を建てたと言うのが実情だろうと思う。
流石の冒険者たちも疲れが見えた。銀級の冒険者カルロスが白い歯を見せて言う。
「ここで野営して、王子の到着を待つぜッ」
「…」
探索隊の兵士たちも野営の準備を始めた。
◆◇◇◆◇
迷宮都市アパラァダの北部に面した山岳地では激戦となっていた。
「カカカ、蛮族の女頭目よ、覚悟ッ!」
「ふん、骸骨頭めぇ~! 返り討ちにしてくれるわ」
骸骨顔の騎士が狂信者の兵を蹴散らして、指揮官と見える女へ突進した。魔獣の群れが横合いから騎兵中隊へ喰らい付く。
-GAWFOW-
魔獣たちも善戦しているが、騎兵中隊による本陣の襲撃は効果を発揮したらしい。狂信者の兵は統率を無くして同士討ちを始める混乱ぶりだ。
両軍による数年来の戦闘が雌雄を決しようとしていた。
◆◇◇◆◇
野営地にスタルン王子が姿を見せた。護衛には見慣れぬ獣人を連れている。
「待たせたなッ」
「スタルン様。ご無事なお姿に何よりです」
道中は探索隊の兵士が配置されて、ここまでの経路を確保している。迅速な連絡により後から王子が到着したのだ。
「早速に始める」
「はっ!」
スタルン王子は祭壇へ登り何やら儀式を行った。柏の葉を浸した聖水をふりふり振りまくと、ガコンと仕掛けが動作して王子は証しを手に入れた。迷宮の仕掛けではないその様子は、以前にキシェテジの祠で見た光景と似ている。
迷宮探索の目的は達せられた。これで僕もスタルン王子への恩に報いる事が出来たと思う。
………
王宮の廃墟を出ると驚くべき光景があった。
既に戦闘は集結した様子で、城門には骸骨顔の兵士が整列している。骸骨顔の騎兵が進み出て口上を述べる。
「聖王陛下よ。我らが王に即位ください」
「っ!」
無礼者めがッと飛び出しそうな護衛隊長を抑えて、スタルン王子が応えた。
「未だ、予が即位する時ではない……この地はそちに預ける。良き政事を期待しておるぞッ」
「ははっ、しばしお預かり致します」
人馬一体の骸骨顔の騎士は馬上で畏まると見えた。
こうして僕らは迷宮都市アパラァダを脱出した。
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