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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十四章 南海のプラティバ皇国
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ep178 魚人族の居留地

ep178 魚人族の居留地





 別荘へ戻ったサリアニア侯爵姫は珍しく怒声を飛ばした。


「マキトの捜索は、どうなっておるかッ」

「はっ。未だ、行方知れずに…」


当初はすぐに帰還するだろうと心配もしていなかったが、日暮れにかけても帰還せず海岸線では捜索活動が行われている。


「むっ」

「岩礁の海域は魚人族の居留地につき、自治領主との面会が必要かと…」


河トロルのリドナスが同行しており、その水泳能力も当てにされていた。


「直ちに、手配せよッ」

「はい!」


思うに、グリフォンの英雄マキト・クロホメロス卿には旅先で失踪する癖があるらしい。


サリアニア侯爵姫は楽観できなかった。




◆◇◇◆◇




 ドンゴコ♪、ドンドコ♪、と重低音を響かせる打楽器が不安を掻き立てる。僕らは竹を編んだ籠に捕らわれており、周囲に篝火が焚かれて魚顔の魚人の戦士が手ヒレ足ヒレを鳴らして踊っている。ここは魚人族の居留地と思われた。


踊りの輪の向こうに長老と見える魚人の姿があった。魚人の長老は戦士たちに何やら魚人語?で話しており、話の内容は分からない。…まさか、このまま釜茹でにされまいか。


そうする内に処遇を決定したらしく、僕らは竹籠ごと転がされた。


「わっ、何をする!」

「っ…」


ごろごろと竹籠を転がして真夜中の海岸まで運ばれると、そのまま海へ突き落された。


潮騒が鳴る海は流れが速いらしく竹籠は浮き沈みしながら沖へ流された。


「うっぷす、沈む……」

(ぬし)様ッ」


僕は緊急回避手段を執った。


「…ささささ、ワシの出番じゃ…」

「!」


懐に隠した西風の精霊核が実体化すると、久しぶりに幼女姿の精霊は貿易風(トレード・ウインド)だ。僕らを乗せた貿易風(トレード・ウインド)は竹籠を西方の海上へ吹き飛ばす。


ごひゅぅぅう。と西風が吹くと僕らは予想に反して地面へ降り立った。貿易風(トレード・ウインド)の気遣いだろうか、夜の海へ投げ出されずに安堵する。


それでも僕らは不安な夜を南海の孤島で過ごした。


………



そこは本当に南海の孤島だった。島の微高地から周囲を見渡しても青い海は渦巻き異様な海流を生んでいる。


河トロルのリドナスが得意の泳ぎを披露して周辺海域を探索したが、脱出経路は見付からない。どうやら複数の大渦に囲まれているらしい。リドナスがカツオに似た大型魚を抱えて海から上がった。


(ぬし)様、良い魚が獲れました♪」


そう言えば、腹が減ったなぁ。原始的な石包丁で捌いて見たが新鮮なカツオは旨そうだ。


「うむ。…【殺菌】【消毒】」

「ふっ!」


生魚の愛好家としてリドナスの舌は欺けない。たまには塩味だけの刺身も良かろう。




◆◇◇◆◇




◇ (あたし神鳥(かんとり)のピヨ子は海鳥の形態でキシェテジを飛び立ち、岩礁海域を捜索した。…こんな事なら舟遊びに付き合うべきだったわ)


岩礁海域は魚人族が住まう諸島と岩と見える無数の岩礁があり、それぞれを虱潰しに見て回る。


◇ (ご主人様(マキト)の魔力的な繋がりは感じられて、生きている事は間違いないわ。しかし、付近の海域は広すぎる!…せめて目印でもあれば…)


焦りは無かったが、神鳥(かんとり)のピヨ子が飛び回る姿はサリアニア侯爵姫たち、捜索隊にも目撃された。


◇ (こんな事なら、護衛のリドナスと緊急時の合図を決めておくべきだと思うわー)




◆◇◇◆◇




孤島の周囲は流れの速い海流に囲まれて脱出経路も無いと見えるが、上空を飛行すれば離脱は可能と思える。西風の精霊核は蓄えた魔力を使い果たして燃費の悪さを承知している。そのため度々の起動はできない。商船と伴に旅して来た神鳥(かんとり)のピヨ子は姿を見せない。なんとか無事を知らせて救助を待ちたい。


そう言えば北辺の奇岩島で別れたファガンヌはどうしているのか。今頃は魔獣グリフォンの姿で戦いの日々だろうが、決着は着いたのか。


そんな心配事をしつつも孤島を探索すると、南国の植物に覆われた内陸部にバナナに似た果実を発見した。皮を剥いて茹で上げると甘味の少ない芋の味わいだ。甘いバナナを恋しく思う。


例により粘土細工で作成した土鍋に水を張り煮炊きは万全の構えだ。無人島のサバイバルも慣れたものである。


(ぬし)様、神殿を発見シマシタ♪」

「神殿って……海の中か!?」


孤島の北側には湾口があり、海流から逃れた魚介が迷い込んでくる。その湾内で漁をしていたリドナスが神殿を発見したと言う。


僕は素潜りで湾内を確認したが、外見は神殿の造りに似ても規模は祠の様であった。


「ぷはぁ…息が…続かない」

「…」


河トロルのリドナスが平気な様子でも、呼吸の魔道具が無ければ僕には調査も無理と思う。出来る限りにリドナスに祠の様子を尋ねるが、それ以上に調査は進まなかった。


………



異変に気付いたのは数日後だった。僕が日課となった太陽観測と大渦の観察をしていると湾内の海水が引き始めた。…干潮か。


これ幸いと浅瀬を渡り、湾内の祠に着いた。


(ぬし)様。これは?」

「祠に祭られた……ご神体だろうか」


水没した祭壇には水晶よりも透明な神像があった。波に研磨されたか鬼神とも女神とも判別できない顔立ちだ。


僕は恐れ多くも神像に触れた。それは水の様に冷たくて石よりも固い何かだ…と思った瞬間に、僕は意識を無くした。


………

……


◆◇◇◆◇




 やばい! 溺れるッ。


「はっ」


三日ほど寝込んだらしい。僕はプラティバ皇国の軍船の客室で目覚めた。リドナスに話を聞くと、浅瀬で溺れた僕はリドナスに引き上げられて、その後は…ちょうど同時期に南海の孤島へ上陸したスタルン王子の一行に救助されたと言う。


どうやら、干潮時には大渦の間に現われる航路を通って南海の孤島へ接近できるらしい。そんな裏事情と伴にスタルン王子は島の祠に用があったそうで、僕らの救助は偶然の機会であった。…幸運以外の何物でもない。


ズバンッ、と乱暴に船室の扉を開けて現われたのはサリアニア侯爵姫だ。貴婦人の代表として姫様の名が無くと言うもの。お付きの二人が姫様を咎める。


「心配したぞッ」

「お嬢様…」…落ち着いて下さい。


サリアニアは視線(ガン)を飛ばしてマキトを睨み付けた。暴れ姫にしては素直な感情表現か。


「サリア様。ご心配をお掛けしました」

「ふん。心配なぞしておらぬ」


「…」


実際にスタルン王子の船に同道して南海の孤島まで捜索に来たのは、サリアニア侯爵姫の実行力である。


今は素直に感謝したい。




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