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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep173 ゲフルノルドの総督

ep173 ゲフルノルドの総督





 そこは王宮の謁見の間を模した広間だ。華美な装飾は抑えられて実用的な造りと見える。やや照明に欠ける広間には、この地の総督が待ち受けていた。


「私がゲフルノルドの総督イザベル・ド・カーンである。特使殿よ遠路大義であった」

「…」


段上に御座すのは高齢と思えるも、妖艶な女総督である。


「まずは、臣下の非礼を詫びよう。マキト・クロホメロス卿」

「はい。有難きお言葉にございます」


意外な事で下手からの挨拶に僕は驚くが、帝国の特使の身分を慮るせいだろうか。


「空を飛ぶと言う伝承のゴーレムは、蛮族の手に落ちたらしいの」

「…」


対立する両国の懸案について総督が言及するのも想定の内だが、…


「そなたの働きに、感謝を贈るものである」

「はっ、有難き幸せにございます」


まさか感謝される謂れは無くて驚くばかりだ。僕は感激する演技で顔を伏せる事しか出来ない。


「うふふ、そう固くならずとも良い。しばらく逗留してゆけッ」

「…」


「GUUQ」


謁見に同席していた金赤毛の獣人ファガンヌが辛うじて応じた。…総督閣下という美魔女の圧力が恐ろしい。


………



総督府の朝は朝礼から始まる。中庭に整列した警備兵へ面したテラスから女総督の訓示が行われている様子だが、発言内容は聞き取れない。僕は寝ぼけ顔で朝食を採った。


「ふわあぁ~」

「GUUQ この肉も なかなかの物ぞッ」


金赤毛の獣人ファガンヌは朝から厚切りの肉を齧っているが、僕の前には普通の朝食が給仕された。


スープは野菜を煮込んでいる味わいだが透き通り、卵料理は芳醇なバターの香りがする。パンの種類も豊富でふわふわの白パンから雑穀パンまで選び放題だ。ハムだかソーセージだかの肉質も良く、付け合せの野菜も新鮮で、この季節にどこから仕入れているのか興味も尽きない。


食後の紅茶も高級品の香りである。


「ふぅ。このまま、堕落したい……」

「GUUQ 満足であろう」


朝から高級肉を貪り喰ったファガンヌは満足そうに頷いた。


こうして、堕落した生活を続けていると帝国から到着した使者の知らせがあった。




◆◇◇◆◇




 僕らはアアルルノルド帝国の皇帝アレクサンドル三世の召喚に応じて帝都へ帰還した。


本来の要件である北の三国の内情調査については可も無く不可も無くの評価だったが、新たに建造した武装商船の砲術士の指導を依頼された。帝国軍が偽装した商船だろうが、新型の砲身の試験も必要だろう。僕は技術的な興味からその依頼を引き受けた。


「砲撃 用意ッ ……撃てッ!」


-BOMF BOMF BOMF-


流石の帝国軍の練度だろうか、正確な射撃で海上に突き出た氷山を粉砕した。新造した砲身は螺旋を描いて砲弾を打ち出し、砲撃手の技量も士気にも問題は無かった。


帝国の軍港は帝都の西を流れるナダル河の河口付近にあったが、冬季は流氷に埋め尽くされて凍結するそうだ。その流氷も春季に入り北西からの季節風が弱まると沖へ流されて溶け崩れると言う。そんな流氷の残骸を押して帝国の武装商船は氷結海を進んだ。


船上で太陽高度を観測すると氷結海は茨森の北端よりも南に位置すると計算される。場所による太陽高度の差異は大地の丸さ(球体)を物語り、暦と季節による差異は地軸の傾きを意味する。それと同時に帝国から支給された地図にも海図にも歪みがあると思えるのだが、航海に支障は無いらしい。


この時代の帝国の軍船は陸地の岬や山岳などを目印にして沿岸沿いに航海をするのだから、適切な目印さえ見失わないならば航海の安全は確保できるのだ。


これらは帰路に対する皇帝陛下の気遣いだろうか。


僕らは船旅を満喫した。




◆◇◇◆◇




薄暗い謁見の間にドグラス・シュタットガルト伯爵は恐縮していた。


「…閣下、よろしいのですか?」

「グリフォンの英雄には、退場してもらおう」


総督閣下の淫靡な声がドグラスを捕えるが、弁解が必要だろうか。


「王都の捜索および主な地方貴族の捜索は完了しております」

「よかろう、秘宝に関する調査を続けよ」


「はっ」


失われたゲフルノルドの栄光と古代王朝の秘宝を手に入れるのだ。




◆◇◇◆◇




そこはコボンの大迷宮の最深部と見えた。古代の神殿様式の支柱に囲まれた、吹き抜けの底には地獄の底かと見える大穴があり、明らかに地底からの瘴気を噴き上げている。


地底に轟くは魔王の咆哮か。


-FOGYAAAAASHuuu-


とんでもない、化け物の咆哮だ!


迷宮(ダンジョン)(ぬし)かッ」


討伐隊の隊長は町の噂を思い出して呟いた。


「…巨人か、山羊顔の悪魔か、伝説の魔竜か……」


眼前に現われたのは、岩塊の幼女ガイアっ()だ。山羊の角に竜鱗と爪と牙を備えてはいるが、脅威とは見えない。


「ワレハ 帰還した ・・・ ニンゲンども ひれ伏せ」


「わっ!」

「ぎゃっ!!」

「魔っ…」

「あっ!…」


兵士の全員が床に膝を埋めた。ばびゅーん。と加速して突撃したガイアっ()は動けないままの兵士を粉砕する。


一方的な殺戮劇は容赦も無かった。


………



探掘者の一団は迷宮(ダンジョン)からの撤退を決意した。花使いの治療師マクロワが領主軍の壊滅を感知したと言う。ヤツが隊長たちに植え付けた、あの花が全滅したらしいが、…便利な諜報の道具だ。


迷宮(ダンジョン)は春季に入って活発になり変革期を迎えている。このまま迷宮(ダンジョン)の奥へ留まるのは危険な行為だ。領主軍の迷宮(ダンジョン)討伐隊は迷宮(ダンジョン)の変革期に巻き込まれたのだろう。


一刻も早くの撤退が望まれる。


「フレアズ、パーシャル。撤収準備だッ」


「はっ!」

「くふふっ」


大急ぎに撤退を進める。これまでの深度に達した足跡は惜しまれるが、探掘者の功績としては十分だろう。珍しい鉱脈も魔物の素材も多く回収できたので、懐は潤いを見せている。


帰りの道しるべに従い帰還する事は、他の探掘者も納得するだろうが、ギルド長への報告は苦労が思いやられる。


それも隊長としての責務のひとつだ。


迷宮(ダンジョン)討伐の任は来季へ持ち越された。





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