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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep172 魔道具の製作には苦労もあるよ

ep172 魔道具の製作には苦労もあるよ





 僕は工房都市ミナンに立ち寄り魔道具を製作していた。暖房器具として泥炭を燃やすストーブの製作をいくつかの工房へ委託したのだ。その試作品を持ってミナンの領主に面会すると、既に水の教会か水の神官アマリエから話が通っていたらしく用件は滞りなく契約も済んだ。


ミナンの町には以前にお世話になった巻物工房がある。僕が表の店舗から戸口を潜ると懐かしい顔があった。


「やあ、チッピィ。親方はいるかい?」

「マキトさん。いつ戻ったのですか!」


森の妖精と見える子供が飛び出して来た。


「また、巻物の製作を頼みたいのだケド……」

「親方を呼んで来ますッ」


おぃ、店番は大丈夫か。しばらくすると難しい顔をしたズーラン親方が現われた。顔色を青くして悩んでいる様子だ。


「ズーラン親方。お久しぶりです」

「あん、小僧かッ。…それよりも、コイツを見てくれッ」


再会だというのに愛想の無い事だ。ズーラン親方が持って来た図面は光の魔方陣と見える。


「これは、光を集める魔方陣と思いますが、…」

「さっぱり、使い方が分からねぇよッ」


ズーラン親方の話では、光神教会の元神父様クリストファ師の遺品から魔方陣を発見したと言うが、…師匠は未だ死んではいないと思う。それでもミナンの町では故人の扱いで、いくつかの遺品はズーラン親方に託されていた。


「こう傘を作って、明かりの魔道具に出来ますかねぇ」

「おぅ、なるほど。そりゃ良いッ」


僕が身振りで製品イメージを伝えると、親方は早速に飛び出して行った。


仕方なく鉱石の採取に行った鬼人の少女ギンナを待つ間に、僕は森の妖精チッピイと巻物の相談をした。


………



乾燥した泥炭は薪と比べても熱量が多くて通常の暖炉での完全燃焼は難しい。そのため、新製品の泥炭ストーブは空気を通す開口部を大きく取り鉄製の天板を備えている。煙と燃焼ガスは金属製の煙突を通して加熱の魔道具で再燃焼される仕組みだ。


工房都市ミナンは飛竜山地の近傍にあり、度々の飛竜の襲撃に備えて城壁を巡らせた要塞の様な造りとなっている。その城壁の出入りを管理する城門では新製品の泥炭ストーブが町の外へ出荷される都度に課税される手筈だ。その税金のうち決められた割合で泥炭ストーブの権利料が僕の手に入る契約となった。


他の町でも泥炭ストーブの模造品が製作される可能性はあるが、まずはこの町から輸出品として販売を広げたい。


僕はズーラン親方の工房で光の魔道具の試作品を見た。


「ほうほぅ、傘の内側に魔方陣を組み込んだのですか」

「あん、どうでぇ」


ズーラン親方が得意顔で見せるのは光を集める魔道具だ。本体が発光する方法ではなく、傘の内側へ周囲の光を集めて反射すると狙った場所を照らす。発光体との組み合わせでサーチライトの様な働きに使える。


「見張り台の……夜間警備にも使えそうですねぇ」

「おぅ。早速に城門の衛兵に売り込むかッ!」


早くも商売の相談を始めた。


………



鬼人の少女ギンナはお弁当(鉱石)を盛りモリに背負って帰還した。ひと月分と言えばかなりの量と見える。


「英雄さまっ。旨うまですぅ~」

「おかえり!」


鉱石の品質(あじ)も満足な様子だ。そこへ魔獣グリフォン姿のファガンヌが帰還した。…城外の森に移動小屋を停泊させたのはファガンヌが狩りをする為とも言える。


「GUUQ 飛竜の若造どもと 遊んでヤルのも 久しぶりだノ」

「っ…」


獣人の姿へ変化して言う事もいつもの調子か。水の神官アマリエが要請する。


「マキトさん。支援物資の積み込みをお願いします」

「分かりました。……アッコ起動」


岩塊の幼女ゴーレムのガイアっ()も最近は魔力の充填に三日もかけて休息停止しており、起動は数日ぶりとなる。本人が言うには迷宮(ダンジョン)の呪いの影響らしいが、…


「くうぅぅ。良く寝た……まったく幼女使いが…」


ぶつぶつと寝起きの文句をならべても、荷物の積み込み作業を行うのは幼女と少女たちだ。幼女ゴーレム使いの面目躍如か。


ガイアっ()はゴーレムの性能で、ギンナは鬼人の怪力を発揮して、オーロラお嬢様は特技の魔法で軽々と積荷を運ぶ。僕はアマリエさんの指示に従って積荷を数えるのみで楽な仕事と見える。


………



僕は移動小屋を走らせる傍らでオーロラお嬢様の話を聞いた。バクタノルド、ゲフルノルド、イグスノルドは北の三国と呼ばれアアルルノルド帝国の北西部に位置する。その三国は古代王朝の末裔であり国土には古代王朝の遺産が眠るという共通の伝説があった。


北の三国のうちゲフルノルドは王都の市内に残る遺跡と地方の領主が代々に守護するゴーレムに遺産の手がかりを求めた。それに対して、イグスノルドは古代王朝の遺産の在処をコボンの大迷宮に求めた。しかし、バクタノルドの馬上王は遺産の捜索をせず、領土の統一を求めたのだ。全ての領土を手に入れれば、古代王朝の遺産はいずれ手に入るという事か。


そんな貴族の子弟であれば誰でもが知っていよう歴史の語りを聞きながら、僕は思索した。古代王朝の遺産とは古代の兵器か莫大な財宝か。あると思えば古代王朝の首都であったゲフルノルドの王都が最も可能性はありそうだが、市内の捜索などは既に行われているだろう。遺産を隠したとなれば王都の郊外か遠方の土地か。いずれにしろ手がかりも無い。


「それと、雪の女王が言う同胞の事ですが……」

「何か、見付けたのかい?」


オーロラお嬢様の調査ではゲフルノルドの市内の遺跡に雪の精霊に関する文献があると言う話だ。雪の女王と雪の精霊とは何か関連があると思う。しかし、雪解けの時期に合わせてバクタノルドとゲフルノルドとの紛争が再燃しそうな噂もある。


僕らは工房都市ミナンから支援物資を乗せてバクタノルド北部の開拓村へ到着した。


この開拓村は冬の大寒波に疲弊していたが、被害は比較的にマシな方と見える。僕は災害支援を水の神官アマリエに任せてゲフルノルドの王都へ飛んだ。


………



高空からゲフルノルドの王都を眺めると東から王都へ向かう荷駄の隊列が見えた。僕らの災害支援の他にもアアルルノルド帝国からの援助がある様子だ。


ゲフルノルドの王都には既に王権は無くてひと際に立派な建物は総督府と呼ばれる。総督はこの地方の有力者ではあるが、事実上はアアルルノルド帝国の皇帝が承認した者を配置している。魔獣グリフォン姿のファガンヌは大胆にも、総督府の門前へ着地した。門衛の兵士は腰を抜かして醜態を晒していたが、総督府の警備兵がわらわらと湧き出して門の守りを固めた。


警備隊長と見える男が進み出る。


「これは、グリフォンの英雄クロホメロス卿とお見受けします」

「その方は?」


兵士は半包囲にして門前を警戒している。こちらを捕縛する様子は無いが、


「はっ、これは失礼つかまつり…私はサンダースと申します」

「ふむ。用件を聞こうか」


警備隊長サンダースは告げる。


「御無礼をお許し頂ければ、総督閣下がお待ちしております」

「…案内せよッ」


「はっ」


僕は総督閣下のご招待に応じるしか方法は無かった。…王都の遺跡を見学しに来ただけなのにッ。




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